第15話 第1回妻女山の戦い(繁信16才)

空想時代小説 


 宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。


 翌日、真田源斎の許しを得て、講武所に通ってくる若侍を中心に20人ほどが集まった。頭領は村上和之進だ。

「お主ら、今回は山賊を斬ることよりも退散させることが肝要じゃ。襲ってくる者は斬り捨てるが、逃げる者は追うな。追うと向こうの罠にはまる」

と、村上の檄が走った。加えて、繁信が策を伝えた。

「今回は3人一組で行動していただきたい。3人で一人の山賊を相手にする。敵の半数を倒せば、敵は逃げ出すはず。少なくとも7人は倒す。それと、これを使ってほしい」

と、数個の石をくくりつけた網を手にした。松代に来てから、折を見て作っていたものだ。

「これを投げつければ、相手の動きを封じることができる。それに山賊は火縄や弓も持っている。飛び道具には気をつけられよ」

そこに、幻次郎がもどってきた。繁信に何やら耳打ちをした。繁信は、そのことを村上に伝え、了承を得た上で皆に話をした。

「山賊のねらいの村がわかった。山の西側、前川の部落じゃ」

それを聞いて、皆は驚いた。

「松代のすぐ近くではないか。今まで襲われたことがないのに!」

「襲われたことがないから、油断していると思ったのだろう。これは好機。明るいうちに配置につける。皆の者、頼むぞ!」

「オー!」

と若侍たちから声があがった。

 傍らでは、繁信と幻次郎が小声で話していた。

「例の策はなったか?」

「ハッ、全てではありませんが、5挺ほど銃身に土を埋めてまいりました」

「うむ、それでよい。1挺でも暴発すれば、他の種子島はこわくて使えなくなる。後は弓だな」

「そこは拙者にお任せを。幸い満月ゆえ、弓矢はわかりやすい。手裏剣でねらえます」

「頼もしいの。よろしく頼む」


 夕方には、前川の部落についた。部落の長に話をし、いつもと同じように過ごしてほしいと話をした。女子どもは、家の中の安全なところに隠れるように指示をしたが、

「火をかけられる可能性もあり、逃げることも頭に入れておけ」

と村上は話をしていた。どこに山賊の目があるかわからぬので、藩士たちは百姓姿で部落に入った。

 繁信は、三井知矩と円寿坊と組み、部落の北側にある炭焼き小屋に忍びこんだ。ここならば、部落に入ってくる山賊が見やすい。山賊を見つけたら、ふくろうの声で合図を送ることになっている。

 満月がちょうど真上に来た頃、山賊共がやってきた。忍び足だが、ザクッ、ザクッと雪を踏む音が聞こえる。繁信は、早速「ホー、ホー」と、ふくろうの声を上げた。すると、隣の家からもふくろうの声が聞こえてきて、うまく伝わったようだ。

 山賊共が炭焼き小屋を過ぎたころ、どこかの家の板戸が破られる音がした。その時、「ヒュー~~!」と火矢の鏑矢が上がった。頭領の村上が放った攻撃開始の合図だ。

「待ち伏せだ!」

と山賊の中から声が上がった。山賊共は統率がとれぬようだ。襲いかかってくる者、逃げ出す者、腰を抜かしている者、だれも首領の声など聞いておらぬようだ。要は、押し入ってめぼしい物を奪う。おなごがいたら連れ出す。ぐらいしか命を受けていないのだ。抵抗されるとは思っていなかったのだろう。

 繁信らは、近くにいた山賊の一人を囲んだ。一番弱そうな知矩がねらわれたが、持っていた網を投げつけた。それに刀がからまり、自由に振れなくなったところに、円寿坊が薙刀一閃。山賊はどっと倒れた。繁信は震えている知矩の近くであたりを見回した。すると、近くで弓矢でねらっている者がいた。今にも矢を放とうとしている時、手裏剣が飛んできて、その山賊の右腕にささった。矢は、すぐ近くに落ち、その山賊は逃げていった。

 四半刻(30分ほど)で、山賊たちはほうほうの体で去っていった。反撃に備えて、たき火をたいて藩士たちは寝ずの番をした。すると、「バン!」という大きな声が村外れでなった。皆は、種子島かと思い、一斉に伏せた。だが、だれも撃たれはしなかった。朝に見回りをすると、炭焼き小屋の近くに暴発した種子島が捨てられてあった。あたりには、血の跡があった。暴発でケガをして、逃げていったのだろう。

 倒した山賊は6人。藩士は一人がケガをしただけですんだ。山賊の首領と対峙して傷ついたのだ。村上は、部落の者たちと共に、山賊に対する備えを作らせた。部落の入り口に柵を設け、各所に逆茂木(さかもぎ)をたてさせた。それと、いざという時の見晴らし台と半鐘の設置とのろし場を作らせた。いざという時には、それで藩士たちが駆けつけるように手はずを整えたのだ。山賊の急襲には間に合わなくても、警戒をしている姿を見せるだけでも効果はある。少なくとも春までは大丈夫と思われた。

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