第9話 生きてほしい

「あたしたちとアルカトラズ社には、契約がある」

「けして本社があたしたちを傷付けないこと」

「戦争に使わないかぎり、売る人を選ばないこと」

「あたしたちのオリジナルは、あくまで彼等と信頼関係で、だからクローン化を許可したんだから」


 通常体が集まり、口々に言う。


「だから、意図をもって我々をそのモンスターの近くに送り込んだのならば……」


「それは裏切りかもしれんな」


 顎に手を当て思案するスミスの言葉に、吾輩が続く。


「……彼女はビックミミックのことをよく知っていた。ハンターに興味を抱いていたからだ。もしかすると、それも仕組まれたものだったりするか?」


 一層低い声で、カラフ殿が呟く。


「問いたださなければ」、とスミス。

「そうだ! そうだ!」といつの間にか集まっていた全ての通常体。


 ふむふむ。こうなったら歯止めが効かないだろう。自分のことだからよくわかる。

 だがしかし、吾輩は『ハザマ』。

 御母堂の肩は持つし、モミモミもする。だからあたしたち或いは彼女らと、同じ思いにはなれない。


「ガールズ! まず、そこのハザマを捕らえろ」

「「「はいはーい!」」」


 あぁっと非情!

 だが残念だ。

 吾輩の視覚と聴覚は、彼らと共通している。


 恐らくは今まさに、工房を抑えようと準備していることだろう。


 ***


「やあ、カラフ殿。スミス殿」

「よう、ハザマ。この賞金稼ぎくんが君と話したいとさ」


 吾輩がガラス張りの檻に入れられてから数時間後。

 賞金稼ぎと工房の主がやってきてくれた。


「その檻の居心地はどうだね」

「悪くはないね。ベッドもあるし、ほら、彼女らが本とぬいぐるみを置いて行ってくれた」

「それは良かったな。カラフくん、私は席を外そうか」

「いや、あんたにも聞いてもらいたい。ここにいてくれないか」

「よかろう」


「………ちょっとだけ、愚痴を聞いてもらっていいか。ハザマはどうせ向こうと繋がっているんだろう」

「まあそうだが」


 そうして、カラフ・エアは語る。


「君たちはみんな量産型で、いくらでも代わりがいて、そしてそれでいい、と思っている。

 そんで、君たちの親アルカトラズ社も、君たちを買った客だってそう思ってる」


「おかしなことかね。我々はクローンだ。本当にいくらでもいる」


「あの子の死に際を、夢にみる」


「……」「……」

 吾輩は黙り込んでしまった。

 だってそんなこと、初めて言われたんだ。


「……あの子というのは、君が最初に出会った、あたし?」


「君であり、君たちであり、けれどそうじゃない。おんなじなようで、少し違う。だから、俺はあの子が死んだのを酷く後悔しているし、多分君たち一人ひとりが死んだとしても、心苦しいと思う。

 俺は君たちを、同一の存在としてではなく、それぞれの人生を生きている個人と見ているからだ」


「……どうして?」


「俺がそういう奴だから。

 ……あんたらに、言わなきゃいけないことがある。

 カラフ・エアという賞金稼ぎは、俺であって俺じゃない。一強者を選出することに固執する一族が作り上げた、ちっぽけな虚像だ。」


 ***


 この宇宙には様々な習性の種族が存在する。

 石を食べる生命体、金属を食べる生命体。何も食べなくても生きていけるのもいる。

 クローンガールズもある意味新しい種族だと言えるだろう。


 俺はサイボーグ技術が発展した星の出身だった。

 その星は、前の「カラフ・エア」が死ぬと次世代を作るべく全体が動き出すようになっていた。

「カラフ・エア」とは称号だ。最新の技術を詰めに詰めて、理論上最高のサイボーグとなったものにささげられる称号。速さを追求するために製造するレーシングカーと同じさ。

 そして星の外へ出て、この身体の強さを証明するために、あるいは次世代への参考データのために、賞金稼ぎをやらされる。


 俺はこの間カラフ・エアになったばかりの、若造だったんだ。

 拾われた孤児だった。技術者たちは歴代のカラフ・エアの話を懇々としてくれたよ。

 皆、どれもユニークだった。同じ名前でも、色んな活躍をしていた。


 ……その名前には、どうしても信用がついてくる。長年のな。

 あの子はまだ未熟な俺を信用したばっかりに懐いてきて、それで死んだんだ。


「だから、俺が言いたいことってのは……」


「俺は未熟だから、君たちを守れない。それにクローンだからって、たくさんいるからって、君たちが死んでしまうのをそうすんなり割り切れない」


「だから、だから……。死なないでほしい」



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