第4話 アルカトラズ工房へようこそ

「やぁようこそ、最新鋭の技術を開発してる最高最強の工房、『アルカトラズ工房』へ!」

「こんちはこんちは! 巷でお馴染みあたしたちクローンガールズが、貴方の船をメンテナンス&クリーニングしちゃうわ!」

「何人がかりでも、頂くお金は一人分! お客にとっちゃいいけどこっちにとっちゃカスみたいなお仕事よね」

「ねぇねぇあたしたち、この人ってすっごい装備してない!? こりゃスミスは張り切りそうよね!」

「あらほんと! よく見ればイケてるものばっかり! こりゃ金持ちか、金持ちから剥ぎ取ったかね!」


 パンパン。

 乾いた拍手の音が、二発聞こえる。


「はいはいガールズ。その色男は私の客だ。囲んで困らせるんじゃない。君達は向こうに行っといてくれ」


「はーい」「はーい」


「悪いね、うるさくて。ええと、カラフ・エアくんだっけ。予約ありがとう。事前の要望では新しい声帯が欲しいとのことだが、それは誠かね。

 ……そうかそうか。ああ大丈夫、ある程度の準備はしておいたからね。さあ、こっちへいらっしゃい。個室で取り付けよう」




「さあさあ、少し散らかっているけど気にしないで。そこの椅子に腰かけてくれ」


「それでだな、ウチには従来のサイボーグ用声帯と、何を隠そうこの私、クローンガールズ変異体ミス・スミスが作り上げたものがあるんだが。どうかね、試してみないかね。

 んん? いや別に、実験体とかじゃないさ。ほんとほんと。

 従来の声帯は容量が重かったり声の調子が一定し過ぎていたりしてたんだが、それをどうにか改良しようと思ってね。ざっと2ヶ月は費やしたんだが、テストがまだ十分じゃないんだ。

 それを名高い賞金稼ぎくんが付けてくれるとは、至極光栄なことだなあと思って。あ、いや、けして怪しくはない。広告塔になってほしいとかそういう意味じゃないんだよ。あくまでテストで……。

 はいはい解った解った、私はそこまで頑固じゃない。従来のを付けてあげるよ。さ、そこの診察台に横になってくれたまえ。

 ……え? 私のを付けてくれるのかい? わあ。言ってみるもんだね。ありがとう。丁寧に取り付けるよ。お礼に割引クーポンもつけたげる」


 ***


「よしできた。さ、喋ってみてくれカラフくん」


「……あんた、は、」


「ん? 私?」


「他のと、顔は変わらない……、変異体とは、何だ?」


「ふむ。たどたどしいが慣れていけば良くなるだろ。それで、私のことが知りたいと? ハハハ、ナンパかね? なに、気にすることはない。どうせすぐお別れになる。君の船のメンテナンスが済んだらね」


「……そ、うか」


「しかし、そうだな。私としては、君のほうが気になる。長年危険な仕事をしているらしいが、その割には君のパーツはどれも綺麗で、目立つ傷は見当たらない。それに規格も比較的新しいのばかり。七十のサイボーグを診たことがあるが、彼は確か思い出にと古い端子を二つ残していた」


「……」


「おや、もしかしてそれは秘密のことかい? すまないね、私達は好奇心に駆られるとついつい余計な口出しをしてしまうんだ」


「……それは、ぜんいん、か?」


「まあね。ああ、聞いた話じゃ君は私達……クローンガールズの一人を看取ったそうだね。彼女もそうだったかい?」


「……ハンターに、興味があった、らしい。死後に部屋を見せてもらったら、新聞の切り抜きをまとめた本があった」


「なるほど」


「俺の、仕事に、ついて来て……、そして、死んだ。哀れだ。悪いことをした」


「ふうん。まあでも彼女にとっては良かったんじゃないか? 田舎町で刺激の少ない生活よりも、最後に面白いことを体験できてさ」


「……」


「おや、納得できない?」


「俺は、未熟者のせいで、守れなかった。俺のせいだ、俺の、」


「ははは、なるほど。ずいぶん情を抱いてくれたみたいだねぇ、たかがクローン相手に」


「だって彼女は、俺を信頼してついてきて……」


「カラフ・エア。ねぇ、賞金稼ぎくん。

 クローンとは、我々とは、そういうものだ。替えがきく労働力。重くとらえる必要はない、いいね? ……変異体の場合はちと事情が変わるけど」


「……変異体とは?」


「そんなに気になるかね? 

 ふむ……。簡単に言えば、クローンガールズの中で一つの術に特化した個体を指す。売られた私達が働いた場所でもし変異体になったのなら、創造主のアルカトラズ社は買い戻すことにしているのだ」


「……何故?」


「さあ。お偉方の考えることは、下々には解らんことのほうが多い」


「……それは、確かに」


「ところで賞金稼ぎくん。その声帯の経過観察をしたいんだが、このアルカトラズ工房にしばらく泊まってはくれないかね。寝床はたらふくあるし、金はいらない」


「……」


「大丈夫、大丈夫。けして怪しくない」






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