第3話 砂漠の案内

『ゴルゴーンとゾーラ』。

九龍城クーロンの子鬼』。

『ジェヴォーダンの獣の幽霊ビースト・ゴースト』。


 町一番の読書家のホリックに、貴方のことが載った新聞を借りて読んでみたの。

 そしたら貴方って色んな怪物を捕まえてるのね。

 しかも本当に百年以上賞金稼ぎを続けてる。

 新聞には、貰った賞金でサイボーグボディのアップデートをしてるとも書いてあった。すごいね。

 最新鋭の装備だって、動きや重さの変化とか、今のシステムとの互換性を考えなきゃいけないでしょ?

 そう何度も易易とアップデートするなんて、なんか変じゃない? なんていうんだっけ、改造中毒?


 ……ん? 何? ああ、ビッグミミックのとこまでどれくらいかかるかって?

 う〜ん、あともう少しかなぁ……。あっ、ほら見て! 真四角の足跡があるでしょ。

 砂漠のここらへんはミミックちゃんの縄張りなんだ。


 ……え〜! なんであたしが案内役なのが不満なんだよ? 仕方無いでしょ、この星の奴らみんな玉無し野郎なんだからさ。

 ま、あたしは替えがきくからね。適材適所ってやつよ。大丈夫、大丈夫! もしあたしが死んだら、町に新しいあたしが配備されることになってるからさ。

 それに、双子ラクダちゃんもあたしに一番懐いてるし。

 うんそう、この子たち双子なの。

 ふふふ、他のラクダとの違い分かんない? ビミョーに違うんだよ。この子たちだって、ちょっと違うの。

 あたしの方はマチェットで、カラフさんの方はハチェット。マチェットはね、頭を撫でられるのが好きで、ハチェットは逆に、触られるのが好きじゃないの。


 うふふ! この子たちのこと人に紹介するの初めて! 他所の人が来てもすぐ出ていくんだもの。


 ああそうそう、ビッグミミックね。

 真四角の箱の形をした、すっごい大きなミミックなの。人間の三倍の身長なんだって!

 普通のミミックは宝箱に擬態して一箇所に留まる、って図鑑に書いてあったけど、そのビッグミミックは特別。自分から縄張りを見回って餌を探すの。ゴロゴロ転がってね。


 五百年前からこの星にいるみたい。古い文献とか噂話とかが残ってるんだ。

 ビッグミミックの中は神の隠した金銀財宝があるんだ、とか。いやはや中身は今まで食らってきた人間の骨でいっぱいだ、とか。

 あたしのお気に入りは、ビッグミミックの正体は強者を求めるダンジョンの入口、ってやつ。面白いでしょ?


 ……弱点?

 うーん。弱点かは分からないけど、面のひとつにお目々があるんだって。でも素早く転がって移動するから、その目を攻撃できた人はいないんだって。


 あっ、振動。ターゲットが近いみたいだね。

 静かに……するのはあたしのほうか。


 ▷俺は落とし穴作成機と電流網を取り出した。それを獲物の通るだろう地面に設置する。

 ▷傍らの娘が小声で尋ねる。


 なにこれ?

 ……へえ。これに落ちたら痺れるんだ。面白そう。


 ▷次に、俺はバックパックに繋げていた凍結灯を取り外す。


 それはなあに?

 ふうん、ぶつけると凍らせちゃうのか。もう徹底的に足止めさせるつもりなんだねぇ。


 ▷それから念のためカメレオンコートを取り出す。一応小娘にもやろうと、予備のも取り出し渡した。


 え、なにこれ? うん、使い方知らない。当たり前でしょここ田舎の星ですよ。あ、単に着ればいいだけ? おっけおっけ。


 ▷……俺はフェイスディスプレイに何も表示させず、娘の面を数秒見つめた。


 はいはい分かった分かった、もう質問しません。大人しくしてます。


 ▷娘が黙ると、ミミックのお出ましだ。俺達は岩陰に隠れて様子を窺った。

 ▷砂埃を巻き上げながら、巨大な真四角の箱が転がっている。俺は凍結灯とノールカ自動小銃を手に持ち、時が来るのを待った。


 ▷地響きがする。ドシン、ドシン、ドシン……、ドシャ。


 ▷俺はすぐさま岩陰を飛び出し確認する。ターゲットは穴に落ちて痺れていた。

 ▷しかしあまりに大きかったため、てっぺんまで網に入りきれていない。念の為凍結灯をぶつけて完全に動けなくさせる。

 ▷先程娘から聞いたミミックの目を探す為に、対象を浮かすことができる浮遊円盤を取り出しそれの頭上で起動する。ミミックは穴からふわふわ出てきた。宙に浮かせたまま転がす。すると、一つの面に細い切れ目を見つけた。そこだけ氷を取り除こうと、金づちで。


 へぇ、これがおめめかな? ……あたしがこれ潰していい? マチェットなら持ってるからさ。だめ?

 ……わあい、やったあ! あたしこういう冒険家みたいなことしてみたかったの。

 それじゃ、……えい!


 ▷少女が目を輝かせながら持っていた刃で切り目を刺す。ぷちゅりと気味の悪い音がした。

 ▷するとその目のついていた面全体が、血のような赤に染まっていく。


 うげ、きもちわる。なんじゃこりゃ。

 ……うん?


 ▷その赤から、普通のミミックと同じサイズの四角形が出てきた。赤と金の立派な装飾がついている。つまり、いわゆる宝箱だ。


 これって宝箱?

 わあすごい、開けていい?


 ▷少女は俺が止める前に、それに手をかける。


 ▷箱の中から鋭く尖った肉色のトゲが出てきて、俺の顔に血飛沫が飛ぶ。

 ▷誰かが傷ついた。でも、それは俺じゃない。

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