絶奏Ⅴ:「男の人は誰でも、歌って戦うTSFアイドルになれる!」

 陸上任務隊の防衛線より、少し突出した一点。

 そこには横転破損し行動不能に陥った、一両の96式装輪装甲車。そしてその傍には、二名分の動く人影があった。


「――装填ッ!」


 その姿格好は隊員の物、いずれも陸曹の男性隊員だ。

 内の一人、長身の二等陸曹が叫ぶように発し。構えていた89式小銃を下げ、足元に散らかすように置いていた弾倉を掴み取り、再装填作業に入る。


「ッ!」


 それを庇うように、もう一名。中背だが体躯の良い三等陸曹が、5.56mm機関銃MINIMIを突き出し構え、引き金を引いた。

 そして撃ち出された弾が飛び込み撃ち飛ばしたのは、一体の小型オブスタクルだ。

 二名はどちらも普通科中隊に所属する隊員、そして後退時に殿を務めた者等の一角であった。

 しかしその最中に二名は味方と分断され孤立。そしてオブスタクルの一群に包囲される状況に陥ったのであった。


「ッ、装填ッ!」


 一体の小型オブスタクルを撃退した所で、今度は体躯の良い三曹が叫ぶ。彼の扱う軽機もまた、このタイミングで弾切れを起こしたのだ。

 丁度小銃へ弾倉を叩き込んだ長身の二曹が、入れ替わり三曹をカバー。三曹を装填作業に入らせ、自身は小銃を突き出し構え発砲。また迫っていた一体の小型個体を仕留める。

 ――グシャ、と。

 鈍い金属の拉げる音が、背後で響いたのはその時であった。

 二名はすぐさま反応し振り向く。そして目に映ったのは、遮蔽物として利用していた96式装輪装甲車の胴が、真っ二つに分断されている光景。そしてその向こうに、それを成した元凶。その巨大な脚の一つで装甲車を潰し分断した、オブスタクルの巨体があった。

 中――いや大型サイズの個体。この場で抵抗を続ける二名に、小型個体では埒が明かないと業を煮やし、回されて来たのか。

 二人の手元にあった対戦車火器等の重火器類はとうに尽き、今や対抗手段は無い。

 万事休す。


「ッゥ――」


 しかし二名の内の長身の二曹は、心のどこかで覚悟を決めながらも。相方の三曹を庇うように前に出て、小銃をそのオブスタクルへと向ける。

 ――横殴りに何かが飛来し。

 爆炎が上がると共にそのオブスタクルが弾き飛ばされたのは、その瞬間であった。


「ッ!?」


 長身の二曹と、そして体躯の良い三曹は同時に目を剥く。

 そんな彼らの真上を、切り裂くような音を立てて複数の何かが飛び抜ける。視線で追えば、それはUAV。そして内の何機かが舞い戻り、上空で旋回滞空を開始。そのUAVから流れ聞こえたのは、歌、音楽。


「――――――」

「!」


 そして、次に二人がその耳に聞き留めたのは、歌。

 流れ始めた曲に乗せるように奏でられる歌声。


「――――――」

「――――――」


 曲は先に香故と中隊長が歌い奏でたそれと同一の物、その第二章。歌詞は、訪れた衝撃の鼓動が、己の心身を奮い立たせる感覚を謳うもの。

 それが二つのそれぞれ気質の異なる、可愛らしくしかしパワーのある歌声で紡がれ聞こえる。

 そして歌声が届き周囲へ広がり始めたと同時に、二人の真上を再び高速で何かが飛び抜ける。それが飛び抜けて行った方向に見えるは、先に横殴りにされ飛んで行ったオブスタクル。爆炎をその身に受けてなお、差したダメージは無い様子でその巨体を立て直そうとしていた。だが、その体に白煙の軌跡を描いて何かが飛び込み、瞬間二度目の爆炎がオブスタクルを襲った。


「ッ!?」


 白煙の軌跡を追いかけ、それを見た長身の二曹が一層の驚きを見せたのはその次。

 明かせば、二度に渡り発生したそれは、対戦車ミサイル攻撃によるもの。

 一度目のミサイルの直撃ではほとんどダメージを受けた様子の無かったオブスタクルに、しかし今は大穴が空いていた。そして直後にはオブスタクルはその身を煙へと変質させ、掻き消えるように消滅していったのだ。


「何が……――!」


 自分等の陥っていた窮地を突如として覆した、怒涛の如く訪れた現象の数々。それに思わず言葉を零す長身の二曹。

 ――だが直後。二曹等の前に現れ増えた気配、そして人影が二曹等の意識と視線を引き付けた。


「ッ!」

「えッ?」


 滑らかにしかし素早く。飛び込むように現れたのは二人分の人影。両名は、二曹と三曹を庇い守る様に立ち、布陣している。

 しかしその者等の姿に、二曹と三曹はそれぞれ思わず声を上げた。

 彼等の前に現れ立ち構えていたのは、美少年と美少女。その肌を褐色で彩った中性的な美少年。そして同じく健康的な褐色と眩しい金髪が目を引くギャル。姿格好はお揃いのジャンパーにインナーと、ホットパンツ。

 その正体は――町湖場と宇桐だ。

 そんな今現在の泥にまみれた戦場に、まるで不釣り合いな二人の存在の登場に、二曹と三曹は別の驚きを抱いたのだ。


「――――――」

「――――――ッ」


 そんな二曹と三曹の驚愕をよそに、現れた二人から聞こえ響くは歌声。宇桐の男の子特有の声色で、そして町湖場のパワーに溢れながらも可愛らしい歌声で、紡がれ奏でられるは先の曲の続き。

 そしてその歌声を割り、しかし同時に絡ませ乗せるように。まったく別種の連続的な金属音が上がった。それは町湖場の両腕にそれぞれ構えられるFN MAGとMINIMIの両機関銃。そして宇桐の繰り出し構えた89式小銃。それ等が唸り銃弾を吐き出し始めた音だ。

 見れば、二曹等の居る地点へは周囲各方から、多数の小型オブスタクルの群れが囲い押し迫っていた。しかし、歌声に乗せられ撃ち放たれた火線がそれに飛び込む。それぞれの銃火は飛び込んだ先に居たオブスタクルの身に風穴を開け、煙へと変えて消滅させる。さらにそれぞれの銃火は横薙ぎに描かれ、並び群れて迫るオブスタクル達を攫えるように撃ち抜き、消滅させて行く。

 本来であれば銃弾レベルは物ともしないオブスタクル達だが、それが今は面白いまでに脆く消し飛び掻き消えてゆく。

 それを可能とするは、宇桐と町湖場の声で奏でられ響き広がる歌だ。

 二人の歌声の持つ特別な力が、未知の敵を脆く変え無力化し、そして火力による撃破を可能としたのだ。

 なお、補足すれば。宇桐にあっては男性の身のままそれを成している。彼にあっては元の男性の姿のまま、その歌声で未知の敵を無力化できる、また別種の特異体質の存在なのであった。


「――っと」

「――うしッ」


 迫っていた小型オブスタクルの一群はさほど掛からずに一掃された。

 それを確認し、宇桐と町湖場はそれぞれ射撃行動を、そして歌唱を一度止め。一言を零しながら、自らの装備火器を降ろす。二人の歌声が一度止み、周囲にはUAVが流し降ろす音楽だけが引き続き響く。


「大丈夫っスか?」


 その元で、二人の内の町湖場がその眩しい金髪を靡かせて振り向き。褐色に彩られた整う顔を見せ、そして二曹と三曹に向けて無事を尋ねる言葉を寄こした。


「!……あ、あぁ……」


 ここまでの光景に呆気に取られていた長身の二曹が、それを受けて戸惑いつつも肯定の言葉を返す。


「き、君たちは……?」


 そして続け、町湖場等にその正体を尋ねる言葉を発し返す。


「おっと失礼。自分等は〝絶奏音楽作選隊〟。対オブスタクル打撃作戦担当の音楽任務ユニットっス」


 尋ねる言葉を受け、町湖場は自らの所属を名乗る。


「通称、フォース パフォーマーね」

「遅れて申し訳ない。防衛線をひっくり返すために、ただいま参上したッス!」


 そして宇桐が部隊が呼ばれる通称を補足。さらに町湖場は、到着が遅れた事を詫びると共に、可愛らしいその口元にニカッと笑みを作り八重歯を覗かせ、眩しい笑顔で決め台詞を紡いで見せた。


「フォース パフォーマー……あの、噂の歌で戦う新編部隊……!」

「マジか……」


 二人の口から名乗られ明かされたその正体に、二曹と二曹はそれぞれ戸惑い冷め止まぬ様子で言葉を零す。

 それは宇桐と町湖場のその正体はもちろん。オブスタクルの群れを一掃して見せた実力。そして何よりそれを成して見せた二人が、泥臭い戦場に不釣り合いな美麗な美少年美少女である事に、驚きを示すものであった。


「っとッ?」

「あら?」


 そんな二人を他所に、町湖場と宇桐はそこで何かに感づいた様子を見せ、視線を前方へと戻す。


「ッ!」

「!」


 その動きに気付き。それに続き二曹と三曹も視線を起こす。

 四名の視線は周囲へと向けられ、そして見えた物。それは周囲各方よりまた大挙して迫る、オブスタクルの群れだ。


「ありゃりゃ。次のファンの入場が始まっちゃった」

「へへっ。熱狂的なファンが多いと大変だなっ」


 しかしそんな光景を前にしていると言うのに。宇桐はどこか他人事のような様子でオブスタクルの群れをそんな言葉で表し。町湖場あってはその顔を可愛らしい顔でしかし不敵に笑い、そんな冗談交じりの言葉を紡ぐ。


「まだ来るか……ッ!」

「ッ!」


 一方。その背後の二曹と三曹は。新たに大挙して押し寄せるオブスタクルを前にその顔を苦く険しく染め。しかし同時に応戦すべく、それぞれの火器装備を構え直そうとした。


「――ッ!?」

「っ!?」


 しかし。その二人のそれぞれの手が唐突に握り掴まれ、そして二人が強引に引き起こされたのはその直後であった。


「はいゴメンなさいね」

「ちょいと失礼っスっ」


 それぞれを引き起こし立たせたのは、いつの間にかそれぞれの前に立っていた他ならぬ宇桐と町湖場。


「な、何を……?」

「申し訳ないっ、お二方にもご協力いただきたいっス」

「説明の時間は無いから、手早く行くよっ」


 代表して疑問の声を上げた二曹に、しかし町湖場と宇桐はそんな要領を得ない要請の言葉だけを寄こし。そして宇桐は二曹へ、町湖場は三曹へ。それぞれの空いた片手を、二曹と三曹のそれぞれの胸元へとそっと当てた。

 ――瞬間、それは発現。

 二曹と三曹、それぞれの足元で発光現象が発現。光のベールが形作られ、それは両名の身体を登り始めた。


「えッ!?」

「おわッ!?」


 唐突に自分の身で始まった現象に、驚きの声を上げる二曹と三曹。しかし二人を他所に現象は進行し、光のベールはそれぞれの身体を包み登り。頭部までを潜り切った所で消失した。


「な、何が……――は?」

「――え?」


 突然身に巻き起こった異質な現象に。二曹と三曹はそれぞれ困惑の色を見せつつ、無意識的にお互いに相棒の方へと目をやり――そしてそこに在った者に、呆けたような声を思わず上げた。

 互いが立っていたはずの横隣に、しかしそれぞれの想定した姿は無く。互いの目に飛び込んだのは、それぞれ気質の異なる〝美少女〟であった。


 ――まず長身の二曹に変わりそこに立つは、長い黒髪が映える美少女。

 身長は160cm半ば、年齢は17~8程に見える。

 整う小顔の中、姫カットに切りそろえられた前髪の元には、緩やかに目尻の釣り上がる凛々しい瞳が覗き。そのスタイルはスレンダーながらも胸元や尻は、品を崩さない程度に豊かに主張している。


 ――そしてもう一人。体躯の良い三曹に変わりそこに立つは、金髪のツインテールが眩い美少女。

 身長は150cm少し、年齢にして16歳ほど。

 端麗の顔の中には、強気そうな凛々しく麗美な釣り目が主張。そしてそのスタイルは、小柄気味な慎重に反して、胸、尻共に欲張りなまでに豊かに膨らみ主張している。


 明かせば、二人の異なる美少女は、二曹と三曹自身。変貌したそれぞれだ。

 両名の身に起こった現象は、先の中隊長の物と同様。フォース パフォーマーのメンバーの手による、支援要請に伴う性転換措置であった。

 姿服装にあっては、両名とも先に中隊長が纏った物と同様の、三種制服を模したユニフォームを纏い。その肩章にはご丁寧にそれぞれの階級を反映した階級章が記されていた。


「まさ、か……」

「お前、か……?」


 黒髪姫カットの美少女となった二曹と、金髪ツインテールの美少女となった三曹は。直後には嫌が応にも互いの目の前の美少女が、姿を変貌させた相棒であると察しを付け、それぞれ困惑の言葉を零す。


「これは、一体……!」


 そして二曹は、その回答を求めるべく。自身の手を掴み握る宇桐へ向き、言葉を紡ごうとした。しかし――


「――え?」

「――!」


 直後に二曹と三曹の身が覚えたのは、身を引っ張られる感覚。そして気付けば、周囲の景色が流れ始めている。

 そして両名の目の前には、それぞれの手を引いて躍動感ある動きを見せている、宇桐と町湖場の姿。そこで二人は状況の変化に気付く。二曹と三曹は、町湖場と宇桐にそれぞれ手を引かれ、まるで飛ぶように地上を駆け進んでいたのだ。


「ちょ――何を……!」

「悪いけど、詳しく説明するのは後で」


 引き続き戸惑いながらも答えを要求する二曹に、しかしその手をひく宇桐は、少し不躾な色で言葉を返す。


「大丈夫、しっかり導くから」

「俺等に、続いてくださいっ」


 しかし続け宇桐は、そして町湖場は。手を引く二曹と三曹に一度振り向き、少し悪戯っぽくもしかし柔らかい笑みを見せ、そう促す言葉を寄こす。


「――――――」

「――――――」


 そして、二人はその口から歌声を紡ぎ始めた。

 上空を追従飛行するUAVが流す曲に合流するように。丁度曲の幕間に入り静かに響く音楽に合わせ、静かな声色で。生涯一度の恋を、貴方の心に委ねる事を謳う一節を紡ぐ。


「――――――」

「――――――」


 続け、誰にも憚る事のない口づけに焦がれる一節を。静かに紡ぐ町湖場と宇桐。


「!」

「ッ!」


不思議なことに、それを耳にした二曹と三曹の心には、それに続く歌詞が自然と浮かび上がった。

 そしてそのタイミングで、UAVが流す音楽は、その曲の最期のサビへと突入。


「――――――」

「――――――」

「――――――!」

「――――――!」


 町湖場と宇桐がリードし。二曹と三曹がそれに続くようにして。

 四人の口から高々と歌声が紡がれ始める。歌詞は、たとえ身体が朽ちようとも、声が届かぬ物となろうとも。揺ぎ無き信念を貫くことを訴える。

 その四重奏を響かせながら、四名が飛び駆け突っ込むは、オブスタクルの群れ。オブスタクル達からは、その身に備える火器による火力投射が襲来、炸裂。

 しかし四人はそれに臆する事無く、駆け掻い潜り進む。


「――――――」

「――――――」

「――――――」

「――――――」


 続く歌詞、歌声を奏で続けながら。町湖場と宇桐、そして二人に導かれる二曹と三曹は、ついにオブスタクルの大群の元へと強襲。

 四重奏の元、未知の強大な敵たちを、翻弄し始めた――





 場所は、また変わり戻る。

 そこは先にウラジアと、取り残されていた隊員が合流相対した一点。今もまたウラジアと隊員の彼は相対し。そしてその場でもまた、驚くべき現象が巻き起こっている最中であった。


「――っ!?」


 その場に佇み驚愕の色にその顔を染めているのは、対戦車火器を操っていた隊員の彼。今は彼のその身を、その足元より発現した光のベールが包み潜っている真っ最中であった。

 程なくして、光のベールは彼の身体を登り切り消失。

 そして、尖り精強さを感じさせる姿であった彼に変わりその場に立っていたのは、一人の美女であった。

 身長170cm近く、年齢は20歳程か。

 女としては少し高めのその身は、その顔は、鮮やかな褐色に彩られている。黒く長い髪はポニーテールで纏められ、前髪の元には釣り上がった端麗な眼が主張。バスト、ウエスト、ヒップは豊ながらも神がかったバランスを誇り、手足は鍛え上げられながらも艶やかな線を保っている。

 姿服装は、三種制服を模したユニフォーム。

 その正体は、他ならぬ隊員の彼。彼が変貌した姿。

 これまでの御多分に漏れず、彼もまた支援要請の元、女の体へと変貌を遂げたのだ。


「……これは……」


 発光現象が収まりを見せた後に、隊員の彼は自らの身に視線を落とし、その範囲で確認できる己が身の変貌に、驚愕の色を見せている。


「お兄様、よければ」


 そんな隊員の彼に、ウラジアは――隊員の彼に性転換措置を施した元凶は、手鏡を差し出す。

 そしてそこに映った褐色の美女に。そしてその美女が自分と全く同じ動きを見せる様子に、隊員の彼はまた驚く事となった。


「まさか……――ッ!」


 彼に会ってはウラジアより簡単な各種説明はここまでで受けていたのだが、それでも想像を超えた驚愕の現象に、驚きの色は冷め止まずにいた。

 しかし、直後に響き聞こえた爆音。そして先に見えた多数の爆炎が。それを中断させ彼の意識を引いた。

 視線を起こし見れば、広がる一帯の先。その向こうより大挙し迫っていたオブスタクルの群れが、爆炎に包まれていた。


「賑やかに、奏でられ始めたようですね」


 同様に振り向きそれを見たウラジアは、その耳に掛かった白髪を可憐に掻き上げながら、そんな一言を紡ぐ。


《――ウラジアさん、大丈夫か》

「あぁ、田話さん大丈夫だ。こっちも始める」


 そこへ、ウラジアの装着するヘッドセットから声が響く。声の主は、ここから離れた建物屋上に配置した田話。その田話からの呼びかけに、ウラジアは一度キャラを解き、その美麗な幼女の姿に反した言葉遣いで返す。

 今も爆炎の出本は、遠方に配置展開した〝野戦科〟のりゅう弾砲。その砲撃が成した物。フォース パフォーマーのメンバーの一人である田話は、野砲科を原隊とする前進観測員で、あり、彼の部隊の一部がフォース パフォーマーの作戦支援のために展開しているのだ。


「さ、私達も後れを取ってはいられませんわ」


 その田話からの呼びかけに返したウラジアは。それからまた隊員の彼へと振り向き、またスルとキャラを作り、そんな言葉を零す。


「参りましょう、お兄――いえ、お姉さま」


 そして可憐で、しかしどこか悪戯っぽい色でそんな言葉を紡ぎながら。隊員の彼をそう呼び、そしてその手を取る。


「――了」


 それを受け、隊員の彼はどこか毒気を抜かれた様子ながらも。同時に何かを理解し、そして意思を固めた様に了解の返事を返す。

 ――瞬間直後。

 二人は超常的な踏み切りを見せ、上空へと跳躍。

 先のオブスタクルの大群を眼下に見る。


「――――――」

「――――――」


 そして二人もまた、可愛らしく。あるいは麗しいそれぞれの声色で。

 歌を奏で始めた――





 ――そこからは、驚愕の光景の連続であった。

 美少女、美女の姿となった彼等は。歌声を奏で響かせながら、未知の巨大で強大な敵の蠢く中を飛び駆け巡り。そしてその敵を翻弄した。

 それぞれが奏でる歌声は、オブスタクル達の身を、力を脆くし減退させ。そこを狙い叩き込まれた各種火力が、オブスタクル達の身を消し飛ばしてゆく。

 まるで、揶揄い遊ばれるかのように。

 絶望を体現したまでの脅威であったはずのオブスタクル達は、しかし今や脆い菓子細工でも崩すかのように。美少女及び美女となった彼等の前に、崩壊していく様子を見せて行った。


「――……すごい」


 そんな驚異的な光景を、その場を動かないよう先に促されていた補佐官の女二尉は。呆け、どこか見惚れるまでの様子で眺めていた。


「――っと」

「――っ!」


 そんな彼女の目の前に。二つの影がふわりと飛び込み降り立ち、姿を現したのはその時。


「わっ!」


 思わず驚きの声を零す二尉。

 しかし直後に、彼女の目に飛び込んだその姿が、その正体を判別。それは他ならぬ、香故と中隊長であった。


「ちゅ、中隊長!」


 現れた内の片割れが自身の上官である事に気付いた二尉は、身を起こして中隊長へと駆け寄る。


「ご無事で!」

「あぁ……未だに、何が何やらだが……」


 中隊長へと駆け寄りその身を案ずる声を上げる二尉に対して。

 未だにセミショートの美少女姿の中隊長は、戸惑う様子でそんな言葉を返す。

 中隊長はつい先ほどまで、香故と共に歌声を響かせ、オブスタクルの群れを相手取り、戦場を縦横無尽に飛び駆け巡って来たばかりであった。

 しかし、先までは自身の身体を駆る謎の激情から、無我夢中であったものの。それが終わりいくらか心が落ち着いた今、中隊長の心情は再び困惑に占められる事となった。


「――!」


 しかしそんな所へ、中隊長は背後にまた別の、いくつかの気配を感じ取る。そして振り向き見れば、先の自分等と同様に、いくつもの人影が周囲に飛来し降り立つ姿が見せた。


「――中隊長……ですか?」


 その内の、三名程。

 中隊長と同じ三種制服を模したユニフォームを纏う、黒髪姫カットの美少女や、ツインテールの美少女、褐色ポニーテールの美女等が。それぞれ各方より、戸惑い訝しむ様子を見せながらも、中隊長へと駆け寄ってくる。


「?――!……まさか……皆かッ?」


 中隊長は最初、自らに寄ってくる見知らぬ美少女や美女等を訝しんだが。

 その様子や格好。そして、ご丁寧に彼女等の〝元の姿〟の情報を記した名札や階級章類が。彼女等の正体が中隊長の配下隊員の皆であるとの答えに導いた。


「やっぱりですか……ッ」


 駆け寄って来た三者も、中隊長やそれぞれ互いの正体に確信が持てたのだろう。代表して、長身の二曹――であった黒髪姫カットの美少女が、驚きと同時に少し呆れ疲れたような様子で、言葉を零す。


「……ハァ――皆も、同じといった所か……?」


 対して、中隊長も驚きつつも少し気の抜けた様子で、そんな言葉を零す。ここまで来れば、最早配下隊員の各員に、自分と同じ事が起きたであろう事は、想像に難くなかった。


「えぇ……彼、いや彼女?――等に救われました」


 今度は、隊員の彼――である褐色ポニーテールの美女が発し、そして背後を促すように振り向く。

 その先、少し離れた位置に、雑把に並びそれぞれの様子で立ち構える者等――

 氷の女王のような香故。

 褐色黒ギャル、町湖場。

 褐色美少年の宇桐。

 人形のような美幼女のウラジア。

 王子様のような美女、田話。

 〝絶奏音楽作選隊〟――フォース パフォーマーのメンバー等の姿があった。


「――皆さん。ご協力、ありがとうございました」


 そのメンバーの内から。ユニットリーダーである香故が前に出て、中隊長始め各位に向けて、冷たいまでの声色で淡々と礼の言葉を述べる。


「歌声により、連中は脆くなった。後は、各隊各方からの火力投射で片付くでしょう」


 続け、そんな説明の言葉を紡ぎ、香故は背後へ振り向く。その先には、まだ少なくない数のオブスタクル達が、蠢く様子が見えていた。

 が、バタバタという何かが激しく羽ばたくような音が聞こえたのは、その瞬間。

 直後にはその音は急激に大きく激しくなり――そして香故や中隊長等の真上上空に、グアと何か巨大な物体が現れる。

 ――AH-56W〝チーフ〟。

 陸上任務隊の対戦車ヘリコプター隊の有する対戦車ヘリコプター。

 その腹や翼に、対戦車ミサイルやロケット等の火器をふんだんに抱えた鋼鉄の怪鳥。それが、上空へと飛来したのだ。

 真上に飛来した4機のAH-56Wを始め、周辺上空には何機もの偵察ヘリコプターや汎用ヘリコプターが飛来。これ等は、フォース パフォーマーの作戦支援のために控えていた飛行隊であり。フォース パフォーマーによる音楽浸透が完了し、それをもって突入飛来して来たのであった。

 飛行隊各機は行動を始め、上空より強力な火力投射が開始される。

 さらに、ヘリコプターより更なる高高度を、切り裂くような音を響かせて何かが飛来。直後にはオブスタクルの群れの真ん中で、これまで以上に大きい爆炎が上がる。

 それは、飛来した航空任務隊の〝F-3A戦闘機〟による対地攻撃であった。

フォース パフォーマーの歌声によりその身を脆く変じていたオブスタクルの残党達は、それらの開始された火力投射を前に、端から吹き飛び掻き消えて行った。


「――こちらこそ。私も部下も、危ない所を救われた」


 そんな様子光景を向こうに見つつ。中隊長は香故に向けて、まだ戸惑い残る様子をしかし取り繕い。礼の言葉を返す。


「いえ」


 それに対して、香故はまた冷たさを感じるまでの様子で、端的に返す。


「……あの、所でこれはどうなるんで?」


 しかしそこへ、また戸惑う声でそんな問いかけの言葉が飛び来る。その主は、体躯の良い三曹――であった金髪ツインテールの美少女。

 自身の現在の姿を見降ろしつつ、言葉を寄こした彼もとい彼女。

 その意図は、美少女ないし美女と変貌してしまった彼等の身体が、これ以降どうなるのかを尋ねるものであった。


「あぁ、ご安心を。身体は、数時間経過すれば自然に元に戻ります」


 それに対して、香故はそう回答の言葉を述べる。


「ただ、ひょっとしたら身体がなんかの拍子で変わる癖が残るかもっス」


 そこへ続け、横に居た町湖場がどこか悪戯っぽい様子で、そんな補足の言葉を付け加える。


「マジか……」


 それに、また若干の戸惑う様子で、言葉を零す金髪ツインテール美少女、もとい三曹。


「戸惑いっぱなしだな……」


 それに同調するように、中隊長も言葉を零す。


「――だが、救ってくれた事。そして連中に報いる力を貸し与えてくれたこと。多くの事に、君等には感謝したい」


 しかし、続け中隊長は、香故等に向けて再び改めての感謝の言葉を口にする。


「――気を付けッ――敬礼ッ!」


 そして、中隊長を筆頭とする5名の美少女ないし美女等(内四名の正体は男性)は。

 中隊長の掛け声と同時に姿勢を正し。そして香故等に向けて、感謝と敬意を示す、挙手の敬礼を行って見せた――

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