第28話 理由

 エピローグ。

 或いは、ただの長い後日談。


「……結局、あれは何だったんだ?」

「一応、確認をしてみたのだけれどね」


 アリスの言葉に、ぼくは首を傾げる。


「知っていたのか、それを?」

「知っている訳がないでしょう。わたしだって、あれを見てからちゃんと調べ直したのよ。……でも、まさかこんなにあっさりと出てくるなんてね。流石に、今回は大失敗と言って良いでしょう」


 失敗を認めるのか。

 こないだの話では、ぐだぐだと言っていたような気がするけれど——成長したのか? それならそれで良いのだけれど。


「成長した……と思っているのなら、それは大きな間違い。わたしは超能力者を探しているし、それを見つけ出すまではここに居続けるのだから」

「それはどうかな?」


 ほんとうにそう思っているのなら、流石にそろそろ方針転換を検討すべきと思うけれど。


「超能力者が居ないことを、そろそろ本気で自覚するべきだと思うけれどな」

「あら、どうして?」

「だって、未だ一度も確認出来ていないんだろ」

「確認出来ていないということは、未だ現れていないということではなくて? 簡単に言えば、居るかどうかは未だ言及出来ないけれど、同時に居ないことについても言及出来ないと思うけれど」


 シュレーディンガーの猫みたいに言うんじゃねえよ。

 この場合は、シュレーディンガーの超能力者か?


「超能力者は全然出てこないんだよね。何でなのか知らないけれど、もしかして、嫌われているのかなあ?」

「何に?」

「超能力者に」


 超能力者は居ない。

 それをいつになったら認識してくれるのか——さっぱり分からないけれど、まさかぼくはずっと居ないといけないのか。


「超能力者がさ」

「うん」

「居るとして……居るとして、だよ。ほんとうに出会える保証があるのか?」


 気になる点は、そこだ。

 ぼくが幾ら証拠も骨組みもない話を延々と続けたところで、結果としてそれは時間を無駄に消費しただけに過ぎない。

 超能力者が居るのか、居ないのか。

 はっきり言って、そこに尽きる——そうだろう?


「超能力者は」


 ぽつり。

 アリスは呟いた。


「居ると思っているよ。わたしは。間違いなく」

「ほう? どうしてそんなことを言えるのか。何かしらの理由があるから、だよな?」


 自分が信じているから、なんて理由は成立しないぞ。


「見たことがないなら、居るかどうかも分からないでしょう? それに——」

「それに——?」


 何か他に追加で理由があるのか。

 だったら、教えてくれ。言いたくないのなら、仕方ないけれど。


「……今は、言わないでおくよ。いつかは、話す日が来るかもしれないけれど」


 何だよ。

 ……何だよ、それ。

 結論を棚に上げられてしまったような気がするけれど、正直ここから話を掘り下げる気にはならなかった。何故なら、これ以上話題が進展するとは——思わなかったからだ。

 消化不良、とはこのことを言うのだろうな。

 そう思って、ぼくは今回の一件を締めくくった。

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学園アリスは、推理しない 巫夏希 @natsuki_miko

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