第27話 現地調査③

 禁足地は、思った以上に狭い。

 そいでいて、鬱蒼と生い茂っている木々が邪魔をしていて、歩くことさえままならない。

 出来ればこいつらを伐採してから、謎を解明したいところだけれど……。


「馬鹿。何のために禁足地と呼ばれているのか、忘れているのかしら? ここがそういった話があるかは聞いたことないけれど、大抵禁足地に入り込んだ人間は行方不明になり、禁足地を壊そうとしたら呪われる——そういったことが案外普通だったりするじゃない?」

「そういうものかね……。それこそ、オカルトじゃないか?」

「オカルトでも何でも、それが現実に起きているのだし、仕方ないのでは?」


 現実か、非現実か。

 されど簡単に結論づけられるものではないことぐらい、今のぼくでさえ分かっている話だ。大凡区別のつかない少年少女達——彼ら彼女らを悪く言うつもりはこれっぽっちもないのだけれど——ぐらいならば、そう言い訳を立てても何ら不自然ではない。

 しかしながら、もう数年もすれば法律的には成人として認められる存在であるぼく達からしてみれば、それはある程度白黒はっきりつけておかねばならない——というのは、喫緊の課題と言えよう。


「禁足地なんてそう簡単に決められた話ではないと思うけれど」


 和紗は、意外とあっさりした価値観の持ち主だ。

 意外と、などと言うと怒られてしまいそうだけれど。

 まあ、その意見については同意する。確かに、禁足地というのは大抵は、入ってはいけない理由を勿体振っているからだとも言われているし。……そう言ってしまうと、何か呪われてしまいそうだから、そういうケースもある——とぐらいぼかしておくか。

 概ね、禁足地にした理由は人間のエゴが多い。

 例えば隠しておきたいものがあるとか、或いはそんな理由なんてなかったのだけれど色んな不運が重なってそうせざるを得なくなった——とか。

 まあ、様々な理由はあるのだろうけれども、しかし、それを隠さないといけないとなるのならば——それをわざわざ公開してしまって良いのだろうか? 後世の人間が、勝手に開けっ広げにすることは許されるのだろうか。……それこそ、墓荒らしをしている気分になる。

 中に入ると、少し涼しくなった気がする。

 木々が出すマイナスイオンのお陰かもしれない——これを禁足地に入ったからだ、と結論づけるのは、あまりにも時期尚早だ。


「問題は、禁足地であったという鬼火だよな……」

「それ、ほんとうに鬼火だと思っているの?」


 和紗の言葉に、ぼくは首を傾げる。

 いや、まあ、超能力者は居ないと思っていたけれどさ……。


「超能力者が居ないということは、オカルトそのものを否定していると言って差し支えないのよね? となると、やっぱり……、鬼火だってオカルトではないかもしれない。いや、そもそも鬼火と思っていたものは実は違うものである——そんな可能性だって有り得るのではないかしら?」


 目から鱗だった。

 或いは、一本取られた……そう言って良いだろう。

 しかし、鬼火……そう言われているが、実際はどんなものなのだろう?

 興味がない、と言えば嘘になる。

 ない訳がないだろう。

 大方、自然発火——などと言いたいところだけれど、自然発火に必要な温度って相当高くなかったっけ?


「……あっ」


 そこで、和紗が声を上げた。

 何かあったのか? とぼくは問いかけようとしたけれど——。


「……あー……」


 同時に、答えを見てしまい、落胆する。

 こんな、呆気ないオチって有り得るのか?

 いずれにせよ、これは報告しなければならない。ぼくは思って、一度禁足地から出ることとした。



 ◇◇◇



「……ど、どうでしたか……?」


 真凜はおどおどとした様子で、ぼくに問いかける。

 帰ってきたということは、何かしらを掴んだのだろう——そう想像するのは、別に間違っちゃいない。

 しかして、こんなにも呆気ない真実を伝えるべきか——幾度か悩んだけれど、しかしながら依頼人は鬼火そのものを不安がっている以上、致し方ない。


「……鬼火の正体、それは鳥除けです」

「…………え?」


 真凜とアリスは、同時に声を上げる。

 とてつもなく、呆気ない言葉。

 今自分は何を聞いたのか——それを理解出来なくて、発した声とは言えない声。


「鳥除け……ってつまりCDとかを窓に吊して、その光を当てるという……あの?」


 うん、概ね合っているかな。

 それがどうして鳥が寄せ付けなくなるのかは、ぼくも直ぐに答えを出せないのだけれど、はっきり言って今それは関係ないから、割愛する。


「そうです。その鳥除けが……反射したのが、青く見えるんです。CDって、光に照らすと虹色の光が出るでしょう? けれども、一番強く出るのは青色系なんですよ。禁足地は風の通り道としても申し分ない。つまりは、風に靡いてかつ光が当たれば、まるで炎が揺らめくように見える……って訳です」

「いや、しかしそれだと疑問が残りませんか。禁足地なんですよね? 誰も立ち入らない場所——そこにどうして鳥除けが置いてあるんですか? つまり、人間が定期的に入る可能性があるからか、または鳥に来てほしくないからそうしているのか、その両方なのか……」

「それは、分かりませんね……」


 ただ、誰か人が立ち入る場所であることは——間違いないだろう。

 つまり、禁足地に必要な忌まわしき歴史など、存在しない。

 まあ、最初から予想はしていたけれど。謎は残ったがね。

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