第16話 禁足地②

 禁足地、と言ってもただの森だ。

 昔からそこに入ると呪われるとか祟りがあるとか言われているのだが、しかしながら実際にそうなった人間を見た訳ではない。

 だが、都市伝説或いは七不思議の一つとして数えられている——それだけは間違いなかった。

 禁足地とは何か——文字通り、立ち入りを禁じられる場所だ。

 その理由は総じて言い伝えによるものである。例えば、入ってしまったら二度と出ることが出来ないとか、呪われてしまうとか……。

 八幡の藪知らずとか、一番有名かな。近場であるがゆえに、有名であるのかもしれない。


「森の奥に、ぼんやりと光が見えたんです。それは、そう……。太陽光だとか人工光じゃなくて、炎みたいな感じ……。でも、青っぽかったんですよ」


 青い炎。

 一般的には、炎の色はガスの燃焼度合いで変わる。

 一般的に良く知られる赤やオレンジの炎は、完全燃焼とは言い切れない。

 完全燃焼、または酸素過多とも言える状況になれば、炎は青くなる。

 つまり、青い炎ということは——。



 ◇◇◇



「……すいません、話しますと意気込んだ割には大した話にならなくって」


 話は、簡単に終わった。

 纏めると、部活動の練習中に禁足地で光る炎を見つけた……ってだけだ。

 一文で終わってしまう。けれども、非現実的ではない現象だ。


「禁足地……。わたしも聞いたことはあるけれど、見に行ったことはないのよね。この学校の七不思議の一つに数えられているけれど、そういったことは見に行こうともしないから」

「一番超能力者が関与していそうじゃないか?」

「いやいや、そうではないでしょう。わたしだって、超能力者が関与しているそれとしていないそれの区別はつくわよ」


 こないだの瞬間移動は、結果的に超能力者は居なかった訳だが?

 そもそも超能力者など一人も居るはずはない——科学技術が発達しているこの時代に、超能力なんて概念が存在するはずもない。十六世紀ぐらいの、蒸気機関が誕生する前ならばまだしも、今は二十一世紀だ。令和の世の中だぞ、少しは考えてみようぜ。


「別に科学技術を全否定するつもりはないのだけれど……。でも、超能力者だって居ても良いじゃないか。こんな時代だからこそ、表に出づらいだけかもしれないし」


 いや、それはないな。

 この時代に超能力者なんて、一人でも出てくればSNSで話題沸騰してテレビ番組に引っ張りだこだぞ?


「鬼火についての見解はありますか?」

「幾つか気にはなるけれど……、ほんとうに青い炎を見たのか?」


 そこだけは確定しておいた方が良いだろう。


「ええ、そこは間違いないと思いますけれど。はっきりと見えたか、と言われると微妙なところですが……」

「いや、なら良いです」


 それ以上に、追求する必要はない。


「……何を考えているのかしら? どう見たって、超能力者が関わっているとしか言いようがないでしょう」

「じゃあ、どんな超能力者が居るのか教えてもらおうか」


 いつも超能力者と言っているが、今回はどういった超能力を想定しているのか?

 そこだけは一応聞いておく。

 まあ、前回は瞬間移動という分かりやすい能力ではあったけれど……。


「パイロキネシス、じゃないかしら」


 パイロキネシスって、最初はスティーブン・キングの小説からじゃなかったっけ?

 確か、火を発生させることの出来る能力だったかと思うけれど。


「パイロキネシスって?」

「いわゆる、日本語で言えば発火能力……かしらね。文字通り、火を生み出すことの出来る能力のことを指すわ。古くは存在していたけれどその名称が確定されていなかった……。けれども、とある小説家が名称を確定してからは、超能力者界隈でもその名前を知られるようになったの」


 超能力者界隈って何だよ。

 そんな明らかに狭そうな界隈、聞いたこともない。


「パイロキネシスの発生原理を説明出来るか?」

「さあ。一説には、静電気をコントロールして、ある一点に集中させることで火花を散らせることが出来るらしいけれど」

「静電気のコントロールって……、そんなこと人間に出来るとでも思っているのか?」

「だから、超能力者の仕業だって言っているじゃない」


 不味い、堂々回りに陥りそうだ。

 そもそも超能力者が仮に居るとして、だ――どうしてそこで炎を出す必要がある?


「理由は分からないわよ。だってそれは……本人じゃないと分からないのだし」

「いや、そうは言ってもだな……。考えておくべきだろう? そこに超能力者が居たのなら、そこで能力を使う理由があるはずだ」


 そこから上手くトリックを暴けるかもしれないし。


「……うーん、でも謎なのは間違いないわよね。だって、パイロキネシスを見せたいのならもっと広いところでやっても良いでしょうし。練習をするにしても、森の中でやるかしら?」

「理由は?」

「パイロキネシスの要因として、静電気のコントロールを挙げたでしょう? それはまあ、あくまでも仮説に過ぎないのだけれど、その仮説通りとするならば……森の中でやるのはちょっと難易度が高い、という感じがするのよね」

「湿気が多いから……か」


 未だ梅雨入り前とはいえ、四月も後半に差し掛かろうとしている。だから、森の中はマイナスイオンで満たされている――あまりジメジメとした感覚はないけれど、少なくとも何もない場所よりかは湿気を多く含んでいるはずだ。

 それならば、パイロキネシスに必要な静電気は愚か、仮に火種が出来てもそれが燃え移ることもなさそうだ……。もしかしたら、練習のため、という仮説なら後者は都合の良い条件なのかもしれないが。

 まあ、そんなことを並び立てたところで、超能力者など居るはずがないのだけれどね。

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