第13話 過去 十一 光

 こうが珍しく、食事中に立ち上がった。

 立ちスクむ紅が、窓辺マドベに近づく。

 カーテンをメクって、外の景色をウカガった。

 今居イマイる建物から、通りを面した洋館から点滅光テンメツコウがする。


「先生。何か光ってます。」


 明継あきつぐが、紅の側に寄り添う。

 の一瞬の光は、太陽光とも思えず、人工的な物と思われた。

 其の上、辺りは薄暗く、近頃、日本に伝来した電気グライしか、光の正体を説明する事が出来ない。


 気の所為セイかと思ったが、やはり注意を引かれて目を細める明継。


 直ぐ、紅を窓から離れさせた。


 硝子越ガラスゴしに注意した。光の元を探す。真っ正面の建築物に目をやった。何ら変化はない。

 道の人通りも通常並みである。


 瓦斯街路灯ガスガイロトウが通っているために、脇道よりは明るいが、夜目には分かりづらい。


「先生、ご飯が冷めてしまいます。」


 紅が、カーテンから顔を出した。

 又、点滅した。怪しくなって、明継は硝子ガラス張付ハリツく。


 やはり、前の洋館から光が放たれている。

 核心した。素早く人影が、窓際マドギワから、物陰に隠れるのを確認。

 男……、其れも明継と同じくらいの背丈。



 絶句する明継。


 外の怪しい人影は、アキらかに紅をネラっている。


 通りに面した此の洋館建築物ヨウカンケンチクブツは、内装も外装も似通っていて、同じ階に住んでいれば、真向マムかいの家がノゾけるのである。


「先生。今、何かが光りましたね……。」


 近頃、導入された電気によっての事故なら、あの様な、此方側コチラガワを、照らす光は出ない。其して、人影が、明に|気付き逃げている。


タシか、ドイツ製の写真機しゃしんきが、あのクライの光を放った……。」


 何分も動かずに待って、動けば幽霊写真の様になる銀塩写真ギンエンシャシンではなく、数秒で被写体を撮れる物が開発されて、やっと海を渡って日本に上陸したらしい。

 写真機が重く、撮影者の動き鈍くなるのが、難点だった。


「写真ですか。先生。」


 倫敦に留学時、明継は其の最先端な発明に、関心を持った。


「はい。大通りとはいえ、道端ミチハバも広くはない建物からの撮影なら、可能です。」


 ハタから見たら、光も人影も気の所為セイせつの言葉と佐波さわの動きで敏感になっているのかもしれない。



 紅の方へ足を運ぶ明継に、階段を上がる重低音が耳に響く。直ぐ足を止めて静かにしたが、玄関辺りが騒がしい。


 扉をノックする音がする。


 光の件もあって違和感を感じ動けなくなる明継。人影が此方コチラに来たのか……と息を飲んだ。


 紅に目で、音を立てるなと合図した。ぐに、明継の命令に従う紅。



 胸で大きく深呼吸する明継は、玄関の方に向かった。


 ドアに耳を当てて、様子ヨウスウカガう。扉の後ろは、どうやら人数と呼べるほども居ず。声がした。


伊藤いとう様はいらっしゃいますか……。」


 声色からは従者ジュウシャの気配する。

 ノゾキき窓から姿を見ようとしたら、体勢が悪かったタメか、肩が引き戸から離れた時に、ガタンと音がしてしまう。


「伊藤様ですか。急ぎの用でマイりました……。」


 円状の穴からは小綺麗こぎれいな使いらしき男が立っていた。不信な点は全くない。


「誰の使いだ……。」


 今は取り込み中だとわんばかりの、対応をする明継に、嫌な顔一つせず男は続けた。


佐波さわ様の使いです。ジカに話を……。」


 佐波の名を出すのは、内々の用事以外考えられなかった。

 しかし、佐波の使いなら宮廷製の仕立ての良い侍従服ジジュウフクを着ているはずであるが、見慣れない和服を着ている。


『信頼できる馬子マゴを付ける……。』


 佐波の言葉を思い出す。

 下男ゲナンにしては、年齢が高い。其の上、明継の周りに立て続けに、不信な出来事デキゴトが多すぎて信用も出来ず。


「すまないが、其処ソコで話してくれないか。」


「いいえ。其れは出来ません。主人に伊藤様と確認をとってから伝えろとおっしゃいました……。」


 開けなければ用件を知る事も出来ず、余程ヨホド重要な内容と踏んだ明継は渋々シブシブ、扉を開けた。


 紅に目配メクバせをしてノブに手を当てて、重く押す。


「伊藤様ですね……。」


 どうやら其の従者は、明継の顔を見知っている様だった。普通ならば此処ココまで、慎重シンチョウに行われない。


「此れを……。主人からタマワりました。読んだら燃やせとの、指示です。」


 和紙に包まれた文をフトコロから取り出した。


 内容を要約するとこうなる。


『急ぎの公務コウムは、中止とする。其の後は、後見人コウケンニンが英国人教師を迎えするので後任を任せられる様に、英国人教師に、指導助言を願う。』


 明継は開いた口がフザがらない。意味が分からずマバタきが早まった。


 一方的に、礼儀正しく、帰る事を、明継に伝えると、其の使いは身をヒルガエした。

 直ぐに階段から、男の後ろ姿が見えなくなった。

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