話が進むまで寝て待つ


母親が寝室から出ていったあと、俺はなにもすることがないため寝室の中を物色していた。鏡の入っていたチェストの一段目をもう一度引くと、俺は中に入っていた小さな本を取り出した。表面には十字架のようなマークと謎の筆記体が書かれている。ロー時にもアラビア文字にも見えるが生憎、俺はこの文字が読めない。まぁ俺の見た目からして、まだ文字を習っていない可能性のほうが高いけどな。


取りあえず俺はベットに横たわりながら中身を開いて行く。ちなみに母親から貰ったなぞの十字架はすでにズボンのポケットに入れている。あんなのずっと口に含んでいたら本当に熱を出すかもしれんからな。


本に書かれた文字は全く読めないが、所々挿絵のようなものがあった。表紙のマークや、絵の内容的にこの本は十中八九で宗教系だろう。たぶんこの地域に住んでいる民族が信仰している宗教の聖書のようだ。ちなみに絵はどこかキリスト教チックである。推察するに本の内容は天使のような存在が裸の男女に子を授け、その子供が旅の途中でドラゴンを従えて、魔法のようなものを使いながら悪魔か魔王だかと戦う話となっている。ちなみに本の途中では耳の長い人間や、背の短い髭もじゃの人間もでてきていた。この聖書に書かれている存在が本当に実在するのなら、いわゆるエルフやドワーフのような人間以外のヒト種も存在しているのかもしれない。


しかし魔法かぁ……しょせん神話の可能性もあるがもし魔法が本当にあるのなら一度ぐらい使ってみたいものだ。そんなことを考えながらも、聖書の中身を確認した俺はチェストの中に仕舞った。取りあえずこの聖書については、両親から早急に読み聞かせでもしてもらって理解した方がよさそうだ。この世界が本当に中世辺りなのなら、この時代で生きていくうえで宗教の枠から飛び出た事はしないほうがいい。もっとも俺を含め人間という者は本音と建前を使い分ける生き物だが、少なくとも使い分けるためにも建前を学ぶ必要はある。


今後の目標を一つ決めた俺は二段目のチェストを開ける。


「えっ?」


予想外の物がチェストにあったことで俺は咄嗟に声を上げてしまった。母親に今の声が聞こえたかと俺はすぐにベットの中に息をひそめた。


数分経っても母親は寝室に入ってこない。どうやら聞こえていなかったようだ。俺はまたベットから降りるともう一度二段目のチェストを開けて中身を確認する。


これは明らかに銃だ。しかも玉まである。

小さな子供でも両手なら簡単に持てる拳銃。

構造からして現代のハンドガンのようなものではなく、昔にあった銃口から玉を詰めるタイプだ。でも一つだけ気になったのだ昔の火縄銃のようなものは火薬と玉が分けられていたが、この拳銃の弾は紙で玉と薬莢が一つになっている。しかも火縄のようなものはない。火薬を打ち付ける部分に謎の石がつけられている。もしかして火打石だろうか。たしかこのタイプは火縄銃の後に生まれたものだ。

だんだんこの世界の時代背景も分かってきた。

次に俺は三段目のチェストを開けよとしたが開かなかった。もう一度取っ手の部分をつまんで強くひっぱても三段目のチェストはガタンと若干上下に動くだけで手前に引くことはできなかった。なぜだと確認してみれば鍵穴があった。


これではらちが明かないと俺は一度ベットの上に座り込んだ。鍵がかけられているということは他人に見られたくないか、奪われたくないものがあるのかもしれない。ここが父親の書斎であれば仕事道具かアダルト系かもしれないが、三つある枕のうち、一番左側には母親のものとみられる長いブロンドの髪があるため、ここは夫婦の共有空間だ。となれば二人にとって、正確にはこの一家にとって大切な物。あるとすれば金か契約書などの重要な書類だろう。


まぁ鍵がない以上は中身を確認することはできないから一旦チェストの物色は中止だ。あとはドアの横にある大きなクローゼットだ。俺は音が聞こえないようにゆっくり戸を開けた。案の定そこには衣服が仕舞われているだけだった。俺は衣服の端を触りながら服の素材を確認していく。毛皮の上着やズボン、これは綿だろうか?プラスチック繊維のものは一つもない。そしてスカートや子供の服もある。そして毛皮の上着やスカートを除いて、どうやら家族の服が仕舞われているようだ。そして毛皮の上着やスカートを除いて衣服の袖はどれも短く、だが数や種類は多くない。


俺はクローゼットの戸を閉めてまたベットに腰を下ろした。


窓にガラスはなく、照明もない。


十字架の金属を舐めさせるような迷信があり、それは司祭が言っていたからだどいう、非科学的な根拠を盲信する信仰心の高さ。


そして前装型のフリントロック式銃。


衣服は毛皮か綿で、綿製の上着の袖は短く女物はスカートだけ。


まだ寝室だけでこの家から出ることすらできていないが、少し調べだけでも俺が転生?した世界の文明レベルが分かってきた。


おそらくこの世界、というか俺の転生した地域は地球で言うところの16後半から世から18世紀の欧州のような状況なのかもしれない。


そしてこの家は一人息子を含めた3人家族。毛皮や綿製の衣服を買うことができ、しかも窓から外を見れば2階建ての家の窓が見えるからこの家は2階建てだ。外から人の声も多く聞こえるから都市部の可能性がある。


以上のことから俺は中世後半から近世あたりの、どこかの都市に住む、中流階級である市民の家に生まれた可能性が高い。そして家に銃があるということはこの町、もしくはこの地域は治安が悪いかもしれない。


こうして自分が生まれた場所と時代をある程度特定した俺が次にすることは…別途の上で病人のフリをすることだ。


だってそれしかすることがないからな。夕飯が運ばれてくるまで、俺は生きる喜びを噛み締めながら居眠りをすることにした。


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異世界でも闇バイトやってます 僕は人間の屑です @katouzyunsan

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