第38話 国王はあの人だった! そして国王、刺される!②

 衛兵の会議室に入ってきたのは、三角帽を被った、かわいい女の子だ。


 十歳くらいか?


 あ!


 僕は女の子を見て、声を上げた。


「パ、パメラ・エステランさん?」

「そうじゃあ~!」


 その女の子は、パメラ・エステランさんだった。


 マリーさんの姉で、探偵だ。


 パメラさんは、椅子に座っている僕に抱きついた。


「ダナン! かわいそうにのう~。こんなに疑われて。おお~、よちよち」

 

 パメラさんは、僕の頭をなでてくれた。


 ……あんまりうれしくないが。


「こりゃあっ! 衛兵どもっ!」


 パメラさんは呆然としている衛兵たちに、怒鳴った。


「ダナンは無実じゃ! 敬礼して、謝らんかいっ!」


 パメラさんが怒鳴ると、衛兵たちはあわてて敬礼した。


「ま、まさか? パメラ探偵と、お知り合いだとは!」


 ドンチョス副隊長が叫んだ。


「ダ、ダナン殿! も、申し訳ございませんでしたああっ」

「えーっと? パメラさんと国王様や衛兵さんたちとは、どんな関係が……?」

「パメラ探偵は、我がライリンクス城直属の探偵である。一年前、国王の妹君いもうとぎみが誘拐されたとき、解決なされた大恩人なのだ」


 ドンチョス副隊長は、敬礼しながら言った。


「そんな有能な探偵が、おぬしは信頼できると申しておるのだ。ダナン殿どの! 我々はもう、おぬしを疑うことができぬ。申し訳なかった」


 ドンチョス副隊長と衛兵たちは、僕に向かって頭を下げた。


あらためて、申し訳ございませんでしたあっ!」

「わ、分かりました。頭を下げるのはやめてくださいよ」


 僕はあわてて言った。


 国王が大変な事態なのだ。


 混乱しているのは分かる。


 僕だって恩人が心配だ。すごく動揺どうようしている。


「──我々は、剣術家たちの様子を見てきます」


 副隊長や衛兵たちは、外に出ていった。


 会議室は、僕とパメラさんと、二人きりになった。


「……それで、国王様はどうして、誰にナイフで刺さされてしまったのですか?」


 僕は聞いた。


「単刀直入に言おう!」

 

 パメラさんは声を上げた。


「この国王襲撃事件の黒幕は、ヨハンネス・ルーベンスだと思われる!」


 えっ? ヨハンネス? さっき、三階大ホールにいたっけ。


「勇者ランキング二位の、若手最高の勇者だ。知っておるな」


 僕は思い出していた。


 ドルガーとの試合前、確か、ヨハンネスと会話した。


 ヨハンネスには、思い出しただけで、背筋もこおるような不気味な雰囲気があった。

 

 彼の剣……まるで死体の血を吸い込んでいる不気味なイメージだったのだ!


 僕は額の汗をぬぐいつつ、パメラさんに聞いてみた。


「ど、どうしてヨハンネスが、国王をナイフで刺した者と関わっている、と疑っているのですか?」

「彼には前から、奇妙な噂がある。魔族とかなり親しくしている……。そんなところを、草原で見たという証言がたくさん出てな」

「ま、魔族と親しくだって? それもたくさんの証言?」


 そんなことが可能なのか?


 い、いや、確かに、人語じんごを理解する魔族はたくさんいるらしいが……。


 僕はなぜかドキリとした。


 ヨハンネスと話した時の──彼の不気味な姿と、魔族と親しくしているという噂……僕の中では一致いっちしてしまったからだ。


「そしてヨハンネスは、かなり危険な性格でな。勇者とあろう者が、しょっちゅう、周囲の者といざこざを起こしている。ナイフを振り回し、人を負傷させる事件も起こしているのだ」

「ええっ?」


 ナ、ナイフを振り回して負傷!


 そんなことがあったなら、確かにライリンクス王を刺した犯人と、関わり合いがあると疑われてもしょうがない。


 しかし、その負傷事件が本当なら、王立警察に捕まるに決まっているが……。


 ん?


 僕の背中に、冷や汗が流れたような気がした。


 さっき三階大ホールに、ヨハンネスがいたが……僕は気づいた。


「か、彼はそれでも、逮捕されないということ?」


 パメラさんは大きくうなずき、言った。


「問題はそこなのだ。もし今回の犯行にヨハンネス・ルーベンスが関わっているのだとしたら、この事件はかなり、やっかいなことになるぞよ!」

「やっかい?」

「ヨハンネスの親、一族が大問題なのじゃ!」

 

 パメラさんは、神妙な顔をして声を上げた。


「ルーベンス家は、世界最大の大貴族であり、王族をしのぐ権力を持つといわれる」


 そしてパメラさんは、強く言った。


「だから逮捕されない! ──そして最近では、魔族と密約をして、闇の力を手に入れているとうわさされているのじゃ!」

「えっ……」


 僕は思い出していた。


 昨日の試合中、ドルガーが魔獣に変身してしまったこと……。


 まさか、そのことと関係があるのか? 


 ドルガーの試合前に、ヨハンネスと話した。


 もしかしたら、ドルガーとヨハンネスは親交があるのか?


「だけど……考えれば考えるほど、国王が襲撃された理由、犯人が分からないです。すべて憶測おくそくですから」

「その通り」


 するとパメラさんは続けた。


「だが、ヒントはある。この事件のかぎを持つ人間がおるのじゃ」

「えっ? それは誰ですか?」

「ダナンよ!」


 パメラさんは僕を見て言った。


「お前が身をていして救った少女……お前が足を大怪我した原因! ゲルダ・プリシッチ!」


 えっ……どういうことだ?


「その少女が、今回の事件の解明のかぎを握っておる!」


 な、なんだって?

 

 僕は驚いて、呆然とパメラさんを見つめた。

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