第37話 国王はあの人だった! そして国王、刺される!①

 移動式ベッドで運ばれてきた、「国王」は……!


 僕の良く知る、マルスタ・ギルドのギルド長、ブーリン氏だった。


 ど、どういうことなんだ? どうしてブーリン氏が、国王なんだ?


 そしてなぜベッドに寝たきりになっている?


「ダ、ダナン君……!」


 国王が小さくそう言った。


「ブーリンさん!」


 僕が呼びかけると、執事しつじのマイケルダール氏が僕の肩に手をやった。


「国王は今、体力がものすごく低下しているのです。二日前、国王が就寝中、城に忍び込んだ者が、国王の腹をナイフで刺したのです!」


 な、何だって? ナ、ナイフで腹を?


 ざわっ……。


 剣術家たちが、ざわめく。


「犯人は逃げてそのままです」


 マイケルダール氏がそう言ったとき、ブーリン氏……いや、国王は目をつぶってしまった。


 そしてまた衛兵が移動ベッドを押し、外に移動させてしまった。


「剣術家たちに、衛兵が個別に、色々事情を説明いたします。ダナンさん、あなたは国王とつながりが深いようだ。個室に来て、特別にお話いたしましょう。──衛兵!」


 マイケルダール氏が言うと、衛兵たちが、僕の腕をつかんだ。


 え?


「あまり手荒てあらなことはするな」


 お、おいっ! なんだ? どういうことだ?


「来いっ! ダナン・アンテルド!」


 僕は衛兵に無理矢理、腕をひっぱられた。


 たくさんの剣術家が、僕のほうを驚いた顔で見ている。


「ダナンに何をするのよっ!」

「おいっ、ふざけるな! ダナンが何をした?」


 アイリーンとパトリシアが叫ぶ。

 

 僕はどうしようもできなくて、三名の衛兵に、ホールの外に連れ出されてしまった。


 い、意味が分からない……。




 ここは国王衛兵隊の会議室。


 僕はそこに連れ込まれ、強引に椅子に座らされた。


「ダナン・アンテルド、お前は何か知っておろう! 国王がナイフで刺された原因を! 知っておるなら、言え!」


 衛兵副隊長──ヒゲのズオーブリー・ドンチョスが声を上げた。


 な、何で僕が疑われているんだ?


 すると彼は、僕に写真を見せた。


 う、うわああああっ!

 

 ベッドに寝ている国王が、布団の上から、ナイフを突き立てられている写真だ!


 布団が赤く血で染まっている!


「これが犯行当日──二日前の夜の二時の写真だ。国王は寝室で、誰かに腹部を深く、ナイフで刺されてしまわれた。我々は証拠として、国王の痛ましい姿を、写真で残さねばならなかった」

「うーん……まさか」


 僕は衝撃の写真に、驚いて言った。


「国王は今現在までずっと容態が悪い。食べ物も受け付けず、やせ細ってしまわれた」


 ドンチョス副隊長がそう言うので、僕はあわてて聞いた。


「僕を疑っているから、僕を城に呼んだのですか?」

「お前に関してはそうだ! 国王と深いつながりがあったようだらな。もちろん、他の剣術家にも、色々話を聞く予定だが!」


 ちょ、ちょっと……ブーリンさんとつながりがあるからって、僕を疑うのか?


 僕がブーリンさんが国王だって知ったのは、今日なんだぞ?


 僕は聞いた。


「そもそも、国王のブーリン氏がマルスタ・ギルドを経営していたのは、なぜなんですか?」

「国王はギルド経営に、興味をお持ちだった。若い剣術家が、強くなっていくさま間近まぢかで見たいとおっしゃられていたのだ」


 僕はもう一度、写真を見た。ブーリンさんの痛ましい姿だ。


「その腹部のナイフには、『呪い』がかけられているそうだ」


 ドンチョス氏が言った。


「王国専属の白魔導師、治癒師ちゆしたちがて、国王の腹部から異様な『瘴気しょうき』が立ち昇っておられるのだ。我々は、この瘴気しょうきの正体を探っている」

 

 そしてドンチョス氏は、僕をジロッとにらんだ。


「しかし、お前は一体何者なんだ? 右足が不自由なのに、試合までしている。ドルガーとの試合を観たが、異様な強さだった」


 ドンチョス氏の顔は、いっそう険しくなった。


 衛兵も身構えている。


 ──確かに、僕は強くなったようだ。


 スキルのおかげでもある。


 しかしそれはマリーさんが、僕の能力を引き出してくれたおかげだ。


 それでも怪しまれるのは、仕方がないのか?


「お前、怪しげな妖術でも使っておるのか?」


 ドンチョス副隊長は、疑いの目を僕に向けている。


「まあ、化け物に変身した相手のドルガーとやらも、怪しいが。──お前が国王に近づき、国王の命を狙い、ナイフで刺したと考えることもできるのだ!」


 ばかなっ!

 

 完全に疑われている。僕だってブーリン氏……つまり国王を心配しているのに!


「こ、国王様は、マルスタ・ギルドのギルド長で、僕の恩人ともいえる人です!」


 僕は、抗弁こうべんした。


「それに、ブーリン氏が国王様だったということを知ったのは、今日が初めてだったんですよ!」


 僕がそう言ったとき、会議室の扉が勢いよく開いた。


「こりゃあっ! ダナン・アンテルドは何も怪しくはないっ。怪しい者は私が全て熟知しておる!」


 ん?


 この、子どもみたいなかわいい声は?


 聞き覚えがある……!

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