第36話 集結! ライリンクス王国の剣術家たち

 ドルガー戦から三日経った。


 その日の午後、僕──ダナン・アンテルドはマルスタ・ギルドで指導を終えた。


 ちょうど、僕てに茶色い封筒が郵送されていたようだ。


 僕はその封筒の差出人を見て、目を丸くした。


「ラ、ライリンクス国王からだ!」


 僕は声を上げた。


 封筒の中には、緑色のインクで書かれた、手紙が入っていた。




『魔法剣士ダナン・アンテルド殿


 誠にぶしつけな手紙、失礼いたします。


 デルガ歴2024年、1月10日、午後2時に、ライリンクス城、三階大ホールにいらしてください。

 

 この手紙で詳細は申し上げられないが、あなたにお頼み申し上げたいことがあります。


 この手紙のことは、内密によろしくお願いいたします。


 ライリンクス城 ライリンクス国王

 代筆 執事 ルゼリッカ・マイケルダール』




 手紙の文章は、たったこれだけ?


 手紙はライリンクス王国の旗印の封蝋ふうろう──シーリング・ワックスで、封がしてあった。


 本物の国王の手紙だろう。


 し、しかし、一体どういうことだ?


 なぜ僕が、城に行かなければならないんだ?




 1月10日、僕やパトリシア、ランダース、アイリーンは、馬車でガーランディア地区のライリンクス城に行くことになった。


 パトリシアやランダースにも、同様の文面の手紙が郵送されていた。


 アイリーンは魔法剣士をめているせいか、彼女には手紙が来なかった。


 しかし、僕の付きいということで、城に入ることをゆるされた。


 城の三階大ホールには、たくさんの人々が集まっている。


 百人以上はいる!


「す、すごいぞ!」


 パトリシアは目を丸くしている。


「ライリンクス王国の強豪剣術家たちと、その関係者ばかりじゃないか!」

「新聞や雑誌で見る、有名な剣術家……勇者、剣士、魔法剣士、戦士ばかりね」


 アイリーンも、感心しながら言った。


 僕も驚いた。


 世界剣術大会に入賞経験のある、ジョーダン・ベスタイルやベスター・マイクスの姿も見える。


 他には、戦士のピネータ・スワンソン。魔法剣士のブルックリン兄弟。


 その師匠ししょうや、本人が所属しているギルド長も来ているようだ。


 そして、あの勇者ランキング二位の、ヨハンネス・ルーベンスも来ている!


「どういうことなんだ? ライリンクス王は。こんなに剣術家を集めて」

「多分、今年の四月に行われる、『世界剣術大会』に関することだろう?」

「そうだったら、手紙にきちんとそのことを書かないか?」


 ホールに集められた人々は、そううわさし、首をかしげている。


 世界剣術大会?


 僕は無名なのに、招待されるはずはないだろう。


 ──するとその時、誰かがホールの檀上だんじょうに上がった。


 国王! ……ではない?


 ライリンクス城の使用人が着用する、青いタキシードを着ている青年だ。


「ライリンクス王国にお住まいの、剣術家と関係者の皆様。お集りいただき、ありがとうございます。私は、ライリンクス国王の執事しつじ、ルゼリッカ・マイケルダールと申します」


 執事しつじのマイケルダール氏は、真剣な顔をして言った。


 彼が、国王の手紙の代筆者か。


 そして、やはり剣術家とその関係者ばかりを、城に呼んだことがはっきりした。


「皆さんは我々、ライリンクス城からの手紙を受け取って、この城まで来られたと思います。意味の分からない手紙を郵送することになってしまい、大変申し訳ありませんでした」

「どういうことなのだ! 意味の分からない、本当に失礼な手紙だっ!」


 剣術家の一人が怒声を上げたので、マイケルダール氏は深く、頭を下げた。


「申し訳なかった。できるだけ、皆さんがここに集まることを、うわさにしたくなかった。だから、情報をそぎ落した、あのような奇妙な手紙になってしまったのです」


 剣術家たちは、眉をひそめたり、顔をしかめて、マイケルダール氏の言葉を聞いている。


 マイケルダール氏は続けた。


「ここにお集まりいただいた皆さんには、『世界剣術大会』に出場していただきたい」


 ドヨッ……。周囲の人々はざわめいた。


「やはり」という声も上がった。


「恐らく今月中に、皆さんには『世界剣術大会委員会』から、正式な出場招待状が届くはずです」


 マイケルダール氏は言った。


 ええっ? じゃあ、僕にも招待状が届くのか?


 僕が戸惑っていると、マイケルダール氏は口を開いた。


「そしてなぜ、剣術家の皆さんに、ライリンクス国王から手紙をお届したのか? その理由をこれからお話する」


 彼は言った。


「簡単に言えば──今年の世界剣術大会には、魔王の手下が出場するらしいのです。──皆さんには、魔王の手下を倒していただきたい。それが、我々からのあなた方に対する依頼です」


 な、なんだって……?

 

 場内がざわついた。


「おいダナン。あの執事しつじ野郎、頭がパーになっちまったんじゃねえのか?」


 ランダースがニヤニヤ笑いながら言った。


「魔王? そんなヤツの手下が、人間の大会にホイホイ出場するかよ」

「出場しますよ、ランダースさん。魔王の手下は必ず来る」


 マイケルダール氏がランダースをジロリと見たので、ランダースは、「や、やべぇ」と言って頭をかいた。


「魔王の手下が世界剣術大会に出場する証拠を、皆さんにお見せしなければならない。──衛兵っ!」


 マイケルダール氏が声を上げると、衛兵が周囲から五名やってきて、周囲をジロジロ見回し始めた。


(な、なんだ?)


 僕が驚いていると、ホールの横の扉が開き……。


 ガラガラガラ


 衛兵によって、壇上の前に、移動式ベッドが運び込まれた。


 誰かが移動式ベッドの上に寝ている……。


 老人……?


 マイケルダール氏が口を開いた。


「彼は国王です」


 ドヨッ……。


 ホール内の人々が大きくざわめく。


 国王?


 僕は今まで、実際に国王の姿を見たことがない。


 法律で、国王を写真にってはならないと、規制されている。


 僕は移動式ベッドに寝ている、「国王」に近づいた。


(国王は病気なのか……? ん?)


 あれ?


 僕、この人を見たことがある!


「あっ!」


 僕は思わず声を上げた。


 このベッドの上の国王……!


 僕がよく知っている人物だった!

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