第39話 ゲルダに会いに行く

 僕は、国王がなぜナイフで刺されたのか、解明しなくてはならない。


 国王は僕の恩人、ブーリン氏だったからだ。


 パメラさんが言うには、この国王襲撃事件は……。


・ヨハンネスという少年が黒幕である。


・この事件の解明のかぎは、ゲルダ・プリシッチという少女が持っている。


 ゲルダについては、僕が右足を大怪我した原因となった、事件を思い出さなければならない。


 僕がまだドルガーの魔物討伐とうばつ隊に加入しているときだ。


 トードス草原で、魔物のジャイアント・オーガが、とある少女を襲った。


 僕は少女を身をていして、守った。


 そのジャイアント・オーガの棍棒こんぼうが、僕の右足に当たり、棍棒こんぼうの魔力が僕の骨に侵食しんしょくしてしまった。

 

 そのときから、僕の右足が不自由になってしまったのだが……。


 僕が守った少女の名は、パメラさんの情報によれば──。


 ゲルダ・プリシッチという名前だった。


 ◇ ◇ ◇


 城の会議室にて──。


「なぜゲルダが、国王襲撃事件の解明のかぎを握っているのですか?」

 

 僕はパメラさんに聞いてみた。


 するとパメラさんは答えた。


「ゲルダは、事件の黒幕、ヨハンネスのことをよく知っているからじゃ」


 どういうことだ?


「ええっと……そのゲルダは、一体、どういう子なんですか?」

「私の調査では、今現在、車椅子に乗っている」

「ええっ?」


 僕は驚いた。


 僕は彼女を守ったはずだ。僕は大怪我してしまったが……。


「お前さんはゲルダを守ったはずだ。が、その後、彼女は別の魔物に襲われてしまったのだ」

「そ、そうだったんですか?」


 な、なんてことだ……。


 僕は首を横に振った。


 僕は女の子を守れたと思っていた。


 でも、それは違っていた、勘違いだったのだ……。


「しかしゲルダは、弱い少女ではないぞよ」


 パメラさんは言った。


「彼女の『今』を知りたいか?」

「え? は、はい」

「ゲルダ・プリシッチは、勇者ランキング三位──。おそろしく強い『勇者』になっておる」

「え? ど、どういうことですか?」


 僕は眉をひそめた。


 ゲルダは車椅子に乗っていると聞いた。


 しかし、勇者ランキング三位だって?

 

 勇者ランキングの三位ならば、剣術の使い手、どころではない。


 世界最強に近い称号だ。


 あれ? しかも彼女は……一年前、十二歳くらいだったぞ?


 パメラさんは神妙な顔で言った。


「彼女は十三歳で、勇者ランキング三位になったのじゃ」

「ええっ?」


 僕は信じられない、という気持ちだった。


 しかし、パメラさんはものすごく真剣な顔だ。


 冗談を言っている顔ではなかった。


「い、一体、ゲルダとは、何者なんですか?」

「言葉では説明できんな。会ってみるかね? 住所は調査済みだ」


 パメラさんがそう言うと、僕はうなずいた。


「では、西の県のバーデンロールという村に行くがよい。そこにゲルダがいる」

「彼女に会うと、どうなるんですか?」

「国王襲撃事件の黒幕、ヨハンネスのことが分かる。そしてダナン、お前さんもゲルダを見て、今後の剣術活動に影響を受けるだろう」


 そしてパメラさんは言った。


「お前は、東方の国で、世界剣術大会に出場する予定なんだからな」




 そして三日後──。


 僕らは馬車に乗り、バーデンロールという隣県に旅立った。


 県境けんざかいの林の道を突き抜ける。


「パメラさんに聞いても、ゲルダって子の謎は深まるばかりなんだ」


 僕は馬車の客車にられ、いつもの仲間たちにゲルダのことを話した。


 馬車の客車に乗っているのは、アイリーン、パトリシア、ランダースだ。


「おいおいおい~」


 僕の目の前に座っている、ランダースが声を上げた。


「十三歳で勇者ランキング三位? しかも車椅子に乗っている? おい、そのパメラってばあさん、まともな情報を得ているのかよ?」

「こらっ!」


 パトリシアは、ランダースの耳を思い切り引っ張った。


 ランダースは叫び声を上げる。


「いててっ! いてえって、バカ!」

「パメラさんは、ダナンの協力者だぞ。無礼なことを言うなっ」

「だってよ、信じられねーじゃねえか。勇者って、剣術も魔法も、相当なレベルに達してなきゃ、『全国勇者協会』に選ばれないだろうがよ」

「私も色々調べてみたわ」


 僕の右隣に座っている、アイリーンが言った。


 馬車はゴトゴトと、ゆっくり農村地帯に入った。


 もうバーデンロール地区に入っただろうか。


「ゲルダって子は、本当に勇者ランキング三位よ。勇者名鑑の名簿にもっているし、間違いない。しかも一年前に背中を大怪我し、本当に車椅子に乗っているようよ。原因としては、魔族の魔力を背中に受け、両足が効かなくなってしまった」

「だから、それがおかしいっての」


 ランダースは言った。


「車椅子に乗っているのは分かるぜ。だけど、そんな少女が、勇者ランキング三位? しかも十三歳。剣術の常識がくつがえっちまうぜ」

「確かに」


 パトリシアは腕組をして、つぶやく。


「ゲルダは一体、何者なんだ? どういった剣術、戦術、魔法、魔法剣を使用する? 想像がつかない」

「分からない」


 僕は答えた。


「実際に、彼女に会ってみるしかない」




 僕らは馬車を降り立った。


 そこは農村地帯だったが、村の奥に、美しい白い建物がそびえている。


 パメラさんに教えてもらった住所によれば、あの白い建物が、ゲルダの住む場所のようだ。


「礼拝堂……?」


 僕は思わずつぶやいた。


 白い建物は本当に美しく、神に祈るための礼拝堂のようだった。


 玄関扉もすりガラスでできており、繊細せんさいな雰囲気だ。


 玄関横に備えつけられているかねを鳴らすと、やがて扉が開き、人が出てきた。


「どなたかな?」


 せた中年男性が、出てきた。


 おや? 格好をみると……聖職者か。


 なるほど、本当にここは礼拝堂なのか。


 するとアイリーンが、僕の代わりに答えてくれた。


「一年ほど前、このダナン・アンテルドがゲルダさんという女の子を、身をていして助けたことがあるのですが……。ご存知でしょうか?」

「え?」


 中年男性は僕を見て、目を丸くした。


「き、君は! ダナン君……ダナン君じゃないか!」

「はい、僕はダナンですが……あっ」


 僕は思い出した。


 この中年男性は、僕が助けようとしたゲルダのお父さんだ。確か、当時は、商人の格好をしていた。


「よくぞ、来てくれた! 私はゲルダの父──ラッセル・プリシッチです」


 ラッセルさんは、僕らと握手をしてくれた。


「娘を助けようとしてくれた、ダナン君に会えるとは……さあ、どうぞ。他の三人は、お友達ですかね? ゲルダと会ってください。彼女は礼拝堂にいます」


 僕らは顔を見合わせ、うなずきあった。


 僕らは、ゲルダに興味があった。


 ゲルダ……謎に包まれた女勇者……。


 よし、会ってみよう!

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