第32話 ダナン VS ドルガー①

 僕とドルガーの試合が、開始された。


 ドルガーはニヤリと笑って言った。


「俺の『闇』の力を見せてやる」


 こいつ……! 何を言っているんだ? 悪魔に、魂でも売ったわけじゃあるまいし?


 この試合は、魔力模擬剣まりょくもぎけんという、人対人試合用魔法武具を使用する。刃の部分が、魔法でできているのだ。


 相手も斬っても、電撃が走るだけで、致命傷ちめいしょうにはならない。ただ、電撃は強烈だ。完全に急所を斬られると、一~二日、寝込まなければならない。


 ドルガーは、魔力模擬剣まりょくもぎけんを振りかぶり、何度も上から斬り落としてきた。


 ガキッ

 

 ガキイイッ


 ガシイッ


 僕は右腕に持った、自分の魔力模擬剣まりょくもぎけんで、それを受けた。


(なるほど)


 ものすごい力だ。まるでハンマーを落とされているような感覚だ。しかも連撃!


 左手の松葉杖でしっかり支えないと、バランスを崩し、倒れそうだ。


 ドルガーのこの力は……人間の力なのか?


 ヒュッ


 ドルガーの四撃目、僕は上体をそらして彼の剣をけた。


(よし、すきあり!)


 僕は右から、ドルガーの右脇を斬り上げようとした。しかし、それはあまりにも大振りのため、けられたが──。


 角度を変え、剣の軌道きどうを──真上から落とした!


「う、うおおっ」


 ドルガーはうめいて後退した。


 ビッ


 そんな音とともに、僕の魔力模擬剣まりょくもぎけんが、ドルガーの右頬みぎほおをかすった。


「き、貴様~!」


 ドルガーはほおを気にしつつ、大きく突進してくる!


突進剣技とっしんけんぎ!」

 

 ドルガーは声を上げ、思い切り剣を突いてきた。


 ここだっ!


 僕は突きをかわし、彼の魔力模擬剣まりょくもぎけんを振り払った。


「もらったぞ、ドルガー!」


 僕は距離を縮めつつ、剣を回転させ、逆手さかてに持ち替えた。そして!


 ──下段剣技げだんけんぎ! 逆手足甲突さかてそっこうとつ


 ドルガーの右足の甲目がけて、魔力模擬剣まりょくもぎけんを突き刺そうとした。


「あ、足の甲だと!」


 ドルガーがわめく。


 ガキイイイッ


「くううっ」


 ドルガーはあわてて横に飛び、それとともに自分の剣を拾い、また構えた。僕が放った右足の甲への攻撃を、何とかけたか。


 僕の剣は、舞台床を突き刺していた。


「な、なんなんだ、お前は?」


 ドルガーは目を丸くして僕を見た。


「な、なんでそんな芸当ができるんだ? 試合中に、剣を逆手さかてに持ち替えるだとぉお?」


 ギリイイッ


 ドルガーは歯噛はがみしつつ──思いきり、魔力模擬剣まりょくもぎけんを──!


 上段で横に振ってきた!


 僕の側頭部を狙っている!


 ガイイイイン


 僕はまたしても、魔力模擬剣まりょくもぎけんで受けた。


(なるほど、やはりすごい力だな)


 僕は三メートルは後退させられた。あまりの力で、僕の右手がしびれている。


 しかし僕は松葉杖を使い、徐々じょじょにドルガーに近づいた。


 ブワッ


 ドルガーは今度は横に、魔力模擬剣まりょくもぎけんを振ってきた。


 僕にとって後方にかわすのは造作ぞうさない。


 しかし、僕は思い切って前に進み出た。


「ま、前に出るだとっ!」


 ドルガーは声を上げた。


 松葉杖と動く左足、動かない右足を支えにして効率よく動けば、最短距離で接近できる!


 ここなら死角! ドルガーの攻撃は当たらない。


「はああっ!」


 僕は魔力模擬剣まりょくもぎけんで、彼の右肩を斬ろうとした。


「うっ、うおおおおっ」


 ドルガーはうめき、飛んで後退し、その場を離れた。


 ガキイッ


 僕の剣は、地面に当たった。かわしたか……。


 ドルガーは声を上げた。


「や、やるじゃねえか。松葉杖をついているくせに、速すぎる。俺は『闇のスキル』を植え付けてもらったっていうのに──」

「闇のスキル?」


 何だそれは? 普通のスキルとは違うのか?


 その時!


 ヒュ


「うっ!」


 何かが僕の腕をかすめた。


 その瞬間、僕の右腕がビリリとしびれた。


 手前の舞台床を見ると、光る矢が突き刺さっている。


(魔法の矢だ! まさか!)


 後ろを振り返ると、東側の最前列席に座っていたジョルジュが、あわてて弓矢をカバンにしまいこんでいた。

 

 あれは魔力模擬弓まりょくもぎきゅうだ!


 あの弓と矢は、人対人で使われる、試合用魔法武具だ。矢は魔法で作られており、当たると致命傷ちめいしょうにはならないが、体がしびれてしまう。


「もらったあああ!」


 ドルガーの僕の足狙いの下段斬り! 僕の弱点の右足をついてきたか!


 ガキイイイッ


 僕は咄嗟とっさに、彼の攻撃を魔力模擬剣まりょくもぎけんで防いだ。


 しかし、腕がしびれる。


 原因はさっきの矢だ。


 矢はかすった程度だが、僕の斬撃の正確性に、狂いが生じるか?

 

「じょ、冗談じゃないわっ!」


 西の最前列席に座っていたアイリーンが、審判団席に詰め寄って声を上げた。


「ドルガーの完全な反則です! 1対1の剣術勝負のはずなのに、部外者がダナンを矢で攻撃した!」


 しかし、審判長は首を横に振るだけだ。


「矢が飛んできたのは見た。だが、矢を放ったのは、ドルガー君の仲間とは限らない。さあ、試合続行!」


 ドルガーは審判長の言葉を聞いて、ニヤア~ッと薄気味わるく笑った。


「ガハハ! ま、さっしろよ」


 ドルガーはそう言った。なるほど、審判長を買収しているのか?


 僕は再び、剣を構えた。

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