第29話 その頃、勇者ドルガーは⑦【勇者ドルガー視点】

 ドルガーとジョルジュ、ヨハンネス、グロードジャングスは魔王の城に入った。


 ドルガーの目の前には、魔王がいる。


「お前が、勇者ドルガーか」


 巨大な玉座に座った、魔王バルジェフ・グダラ・バルモーは、ドルガーたちをにらみつけた。


 魔王バルジェフはバカでかい玉座に座っており、体もまるで見上げるようなでかさだ。


 ギシイイッ


 ミシイッ


 魔王が座り直すと、玉座がきしんだ。


 魔王は金色のよろいを着ており、肌の色は青かった。腕、胸、ももの筋肉は、恐ろしくきた上げられていた。


 顔はまさに──鬼神、邪神──。


「勇者ヨハンネス、久しぶりだな」


 魔王バルジェフはヨハンネスを見た。


「魔王と友人になった勇者は、我が魔族一万年の歴史の中で、お前が初めてだぞ。改めて、我々は呆れているというか……。それで、今日は何の用だったかな?」

「バルジェフ、僕の友人、ドルガー君の力を、ちょいと引き上げてやってくれないかな」


 ヨハンネスは軽い口調で言った。


「ドルガー君は、強くなりたいんだってさ」

「ほほう」


 魔王バルジェフは、ジロリとドルガーを見た。


 真っ赤な獰猛どうもうな目だ。見られただけで、喰い殺されてしまいそうだった。


 ドルガーとジョルジュは、恐ろしさのあまり、体がブルブル震えた。


「勇者ドルガーとやら。お前……勇者の称号を金で買ったな?」

「ふ、ひっ」


 ドルガーは震えながら叫んだ。み、見抜かれているっ!


「そ、そうでしゅ!」


 魔王の圧力に負けて、正直に言った。緊張で、呂律ろれつがまわていなかった。


「お前からは、剣の実力がそれほど感じられぬ。まあ、我々魔族の闇の力をもってすれば、お前をたちどころに、すさまじい強さの剣士にしてやれるが」


 魔王バルジェフは、再び、ドルガーをにらみつけた。


「お前は、我が魔族と契約するのだな? 魔族と契約を結び、一週間に一度、人間の詳細な情報を我々に伝える。それが契約条件だ」

「はっひ……」


 ドルガーは変な声を上げたが、ヨハンネスはドルガーを腕でつついた。


「さっさと『はい』と言いなよ。せっかくバルジェフが、君を強くしてくれると言ってくれているんだからさ。ダナン・アンテルドに勝ちたいんだろ?」

「ダナン・アンテルド?」


 魔王がそうつぶやき、ピクリと眉を上げたような気がしたが、ドルガーはそれどころではない。


「は、は、はい! お、おっしゃる通りにいたします!」


 ドルガーはブンブン首を縦に振った。魔王バルジェフは、ニヤリと笑った。


「よかろう。では、闇の儀式の部屋に連れていけ!」


 魔王の使い魔、体の小さいリトルデーモンが五匹も集まってきた。ドルガーをひょいとかつぎ上げる。


「ひゃああ! 殺される!」

「まったく、うるさい人間だなあ。さっさと連れていけ」


 案内役の闇幽霊が、呆れて言った。


「待て。我が友、グロードジャングス」


 魔王は、ドルガーたちと一緒に行こうとした、大魔導士グロードジャングスに言った。


 彼もヨハンネス同様、魔王や魔族と契約を交わした人間である。


「さっき、ドルガーとやらは誰に勝ちたい、と言ったのだ? 少々気になる」

「ダナン・アンテルドという少年です。魔法剣士だそうで」

「……ダナン……アンテルド……。アンテルドだと? その者の持つ剣の名前は?」

「確か、ダナンの持つ剣は──。『グラディウス』という剣だと、ドルガーから聞いております」

「な、何と、グラディウス? 我が父──魔王ジャブラバン・ドスト・エルマスを斬り裂いた聖剣の名ではないか? おい! ……そのダナンという少年の情報を探れ」

「……はっ、御意ぎょい


 グルードジャングスは深々とお辞儀をした。




 魔王の城の地下には、無気味な薄暗い祭壇さいだんがあった。


 その祭壇さいだんの手前に、真っ赤な液体が入った、池のようなものがある。


「この洗礼池に入っているのは、古代から伝わる、魔族の血のエキスだ」


 闇幽霊は言った。


「このエキスにかって、念じるのだ」

「そ、そうなると、どうなる?」


 ドルガーが聞くと──。


 ボチャン


 さっきの使い魔の一人に、足蹴りを喰らい、温泉につき落とされた。そしてその使い魔は声を上げた。


「さっさと洗礼を受けろ! ノロマめ! お前は、このエキスを全身に吸収し、強者となるのだ!」

「ぎゃああああああっ!」


 ドルガーは叫んだ。す、すさまじい痛みだ。肌に突き刺さるように痛みが、全身に広がる。


「アハハハ!」


 勇者ヨハンネスは笑いながら言った。


「これで君は強くなれるよ!」

「人間には、ちょっと強すぎるエキスだからな」


 闇幽霊もケラケラ笑いながら言った。


「ふんぎゃあああああ!」


 ドルガーは声を上げ続けた。


 あわてて真っ赤な池から出ようとすると、使い魔に再び突き落とされる。


「うひいいい!」


 そんなこんなで、三十分、ドルガーは魔族のエキスにかっていた。

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