第21話 ダナン VS アイアンナイト①

 僕ら、魔物討伐とうばつ隊は、探偵のパメラさんと占い師のマリーさん姉妹に会うために、グバルー魔霊街まれいがいに侵入した。


 しかしさびれた商店街で、魔物ではなく住人──人間に取り囲まれたのだ。


「魔物討伐とうばつなど、余計なことをするなって言ってるんだ。出ていけ!」


 副町長のルバール氏は、ナタを構えて言った。素人の構えだ。


 僕はルバール氏に言った。


「僕らはパメラさんと、マリーさんという人に会いにきただけです」

「……パメラ……マリー……」

「でも、パメラさんとマリーさんを探している最中、魔物に遭遇そうぐうしたら、討伐とうばつするしかありません」

「その魔物は恐ろしいヤツらだ。俺らは魔物に上納金じょうのうきんを払って、この街で生きているんだ!」


 じょ、上納金じょうのうきんだって? この人たち、魔物に金を払って生きているのか?


 ルバール氏は、チッと舌打ちをして言った。


「そういうことだ。魔物に上納金じょうのうきんを払って、俺らは一応、安全に生活できてんだよ。だから、余計な騒ぎを立てるなってんだ」

「どれくらい払っているんですか?」

「……まあ、隠す必要もないから、堂々と言ってやろう。……毎月百万ルピーだ」


 するとランダースが、「お、おいおい! 百万だと?」と声を上げた。


「魔物に、そんな大金を払ってんのか? バカか? あんたたちは」

「うるせえっ」


 ルバール氏は声を荒げた。


「俺たちの生き方を否定するな。これは三十年以上、続いているんだ。今さらやめるわけにいかねえだろ」

「……なるほど。この魔霊街まれいがいを見ると、とても商売をやっていけるような街には見えないね。その金はどこから出てくる?」


 今度はパトリシアが聞いたが、ルバール氏は首を横に振った。


「それは言えない」

「では、当ててやろう。あんたたちがどうやって、金を手に入れているのか」


 パトリシアがそう言ったので、僕やアイリーンは驚いた。ルバール氏たちも眉をひそめた。


「別の街に行き、スリか強盗をしているんだろう?」

「うっ……」


 ルバール氏は一歩後ずさりをした。パトリシアはため息をついた。


「金を作ることができないのなら、どこからか金を盗むか、別の悪事を働く。それなら、手っ取り早く金を作れるからな。そもそも、別の街で、グバルー魔霊街まれいがいの住人たちが、強盗をしていると噂になっているんだよ」

「……黙れっ……とにかくだ!」


 ルバール氏は叫んだ。


「魔物……特に、アイアンナイトには手を出すんじゃないぞ! 絶対に殺される。とくにお前らのような弱そうな魔物討伐とうばつ家たちはな。今までそんなヤツらを、たくさん見てきたんだ。おい、もう行こう」


 ルバール氏はそう言うと、他の住人とともに、商店街の奥に去っていった。


「……なんなんだよ、あいつら」


 ランダースは腕組みした。


「自分から、不幸になりにいっているようなもんじゃねえか」

「そうね」


 アイリーンがうなずいた。


「人間は、心の表層部分では幸せを求めている。だけどあの人たちは、心の奥底では自ら悪の道や不幸を求めてしまっているわ」



 僕らは、商店街に隣接りんせつした墓地に進むことにした。


「この墓地を突っ切りましょう。地図を信じれば、この墓地の奥に、マリー先生たちの住む大屋敷があるはず」


 アイリーンが言った。


 墓石は倒れ、コケが生えている。この墓地は廃墟はいきょといって良いだろう。


 しかし、本当にこの墓地の奥に、パメラさんとマリーさんが住んでいるのか? にわかには信じがたいが……。


「魔物の気配がするわ」


 アイリーンがつぶやいた。彼女は、魔物の気配を察知する能力があるようだ。


「魔物か。じ、実体があるならば、勝負になる。行くぞ」


 パトリシアは少し顔を上げた。


 僕らが墓地を歩いていくと、周囲の森からガサゴソと音がした。


 そして──。


 バキバキバキッ


 森から枝をかきわけて出てきたのは──。


 骸骨剣士──スケルトンナイト、鬼系の魔物──レッドオーガ、触手系魔物──ビッグローパー! そして鉄のよろい、鉄のかぶと、鉄の剣を装備した魔物の剣士──アイアンナイトだ!


 アイアンナイトは、体長3メートルはありそうだ。で、でかい!


 すると、スケルトンナイトはナイフを投げつけてきた。


 ガイン


 パトリシアはそれを愛剣ムラマサで受け──。

 

「たああっ」


 バキイッ


 スケルトンナイトを斜めから斬り下ろした。


 スケルトンナイトは骨ごと斬り裂かれ、パトリシアの剣によって破壊された。


 するとスケルトンナイトは、その瞬間、青色の宝石に変化した。


 魔物は宝石からできており、絶命すると宝石に変化してしまう。噂では、魔王が特殊な術で、宝石から魔物を作り上げているらしい。


「あらよっ」


 ランダースは、レッドオーガの棍棒こんぼう攻撃をけ──。


 ズバアッ

 

 はがねの剣で、魔物の胴を横払いで斬った。レッドオーガの死体は、赤い宝石に変化した。


 ちなみにランダースには、愛用の剣というものはない。武器屋で売っている気にいった剣を、ただ装備する。刃が欠けたら、さっさと新しいのを買うらしい。


 一方、アイリーンは愛用の剣──ジュレ・ブランシュを構えた。異国の言葉で、「しも」の意味らしい。


 青白く波打った、珍しい形状の剣だ。


 シャッ


 氷の魔法剣で、ビッグローパーを斜めから斬り裂いた。


 ビッグローパーは氷属性に弱い魔物だ。


 ビッグローパーは断面が氷結し、絶命すると、そのまま宝石に変化してしまった。


「さあてと」


 ランダースはニヤリと笑って、今まで微動びどうだにしなかったアイアンナイトをにらみつけた。


 アイリーンもパトリシアも構えている。


「手合わせといこうぜ、デカブツ」


 すると──。


「クオオオオオッ」


 アイアンナイトはそんな声とともに、全身から衝撃波しょうげきはを放った。


 アイリーン、ランダース、パトリシアたちは5メートル以上もふっ飛ばされ、墓石や地面に体を打ちつけてしまった。


 しかし、僕は吹き飛ばされなかった。松葉杖をついていたが、気を高め、とっさに魔法の結界を瞬時につくり出していた。


 ──自分で、「結界を作る? こんなことができたのか」と驚いたが。


「ぬう……?」

 

 アイアンナイトは声を上げた。


「俺の衝撃波しょうげきはを受けて、ふっ飛ばされなかった人間は……初めてだ」


 アイアンナイトの目が光った。人語じんごをしゃべった! 知的レベルが高い魔物のようだ。


「少年……お前、何者だ? いや、その前に……」


 アイアンナイトはそう言いつつ、右手を出した。


上納金じょうのうきんをもらいうける。いまなら150万ルピーでどうだ? 宝石や金塊でも良いぞ」

「残念だな」


 僕はアイアンナイトに言った。


「お前を倒し、逆に宝石になってもらう」

「ぬうう……! こしゃくな」


 アイアンナイトは一歩前に進み出た。


 戦闘開始だ!

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