第20話 新パーティーでグバルー魔霊街を街歩き

 僕、ダナン・アンテルドは仲間三人と馬車に乗り、ランゼルフ地区を南西に移動していた。


 新しく結成したパーティーメンバーを引き連れて、グバルー魔霊街まれいがいに行く。


 パメラ探偵と、僕の恩人、マリーさんに会いにいくためだ。二人は姉妹らしい。


 パメラさんたちには、僕の馬車の事故について、ぎぬをきせられた奇妙な写真について、アドバイスをもらおうと思っている。


「いや~、昼間からグバルー魔霊街まれいがいに行けるとはな~。遠足みたいで、楽しいぜ~」


 マルスタ・ギルドの元師範しはん、ランダース・ロベルタは笑いながら言った。酒はちょっとひかえているらしい。


「そ、そうだな。う、う、う、腕が鳴るな。ハハハ」


 パトリシア・ワードナスも真っ青な顔で言った。


 どうやらパトリシアは、お化けのたぐいがすごく苦手らしいのだ。


「パトリシア、無理して来なくて良かったのに。体が震えてるわよ」


 アイリーンが心配しながら言うと、パトリシアはキッとアイリーンを見た。


「な、なんのっ!」


 パトリシアは声を上げた。


「わ、わ、わ、私はお化けが怖いわけではない。わけのわからない、透明な化け物が苦手なだけだ!」

「それ、お化けだろーが」


 ランダースが突っ込んだ。


 というわけで、新しい魔物討伐とうばつメンバーは、僕──ダナン、そしてアイリーン、パトリシア、ランダースだ。


 全員魔法剣士というのが新鮮だ……。アイリーンは回復魔法を使えるし、まあ大丈夫か。




 僕らを乗せた馬車はルイベール工業地区の南西を通り、だんだんと薄暗い地域へと入っていった。


 ここはもうすでに、グバルー魔霊街まれいがいと呼ばれる地域だ。


 周囲の民家は、ツタや伸びきった木の枝でおおわれていて、誰も住んでなさそうだ。ガラスも割れている。


 ほ、本当にこんな場所に、パメラさんとマリーさん姉妹が住んでいるのか?


 僕たちは馬車を降りた。御者ぎょしゃはさっさと馬車を走らせて、逃げるように去ってしまった。


「しょ、商店街に、き、来たぞ」


 パトリシアも震えながら言った。


 商店街の店のほとんどは半壊はんかいしている。人通りも少ない。

 

 商店街には墓地が隣接りんせつし、いっそう不気味だ。


 ガサッ


「きゃあああ~ひえええ~!」


 パトリシアは半泣きで剣を取り出した。


 ネズミが、壊れた金物屋から出てきただけだ。金物屋に店主はいない。ただ商品が、床やそこらに散らばっている。廃屋はいおくだ。


「お前なぁ、いちいちビビって震えてんじゃねえぞ~」


 ランダースがパトリシアに注意すると、彼女はぷうとほおふくらませて怒った。


「な、何を! いい今のは剣士に対して屈辱的くつじょくてきな発言だぞ私はビビってなんかいないこれはむむむ武者震むしゃぶるいだ!」


 パトリシア……すごい早口だ……。


 すると……!


「お前たち!」


 急に後ろから低い声がした。


人語じんごを話せる魔物か?)


 僕はそう思い、後ろを振り返ると、そこには目つきの悪い中年の男が立っていた。


 う、うおおっ……。手にはナタを持っている。


 周囲にはいつの間にか、住人たちがいた。か、囲まれている? 人数は6名……。全員、農具を武器に見立てて持っている。


「敵か?」


 パトリシアは構えたが、僕は、「やめろ」と剣をおさめるように言った。


 武器──農具を持った姿勢、雰囲気などを見たところ、とても戦闘に慣れている者たちとは思えない。


 普通の民間人だ。


「あなたたちは?」


 アイリーンが聞くと、ナタを持った男が口を開いた。


「俺らは、このグバルー街の住人だ。俺は……副町長のギルバス・ルバール」

「どうしてその住人たちが、俺らを襲おうとしてるんだ?」


 ランダースが今にも剣を抜こうとしながら言ったが、ルバール氏は声を荒げた。


「よそ者は、この街に入ってきてほしくねぇ! 邪魔だ、出ていけ。それに、ここいらは魔物が出る。大怪我しても助けねえぞ」

「我々は、その魔物を討伐とうばつしようとしている!」


 パトリシアが声を上げた。


「あんたたちはここに住んでいるんだろう? いつも危険な状態にさらされているんじゃないのか?」

「余計なお世話だ」


 ルバール氏が声を荒げた。


「魔物を討伐とうばつ? できるわけがない。あんな恐ろしい魔物……。お前たちには絶対に倒せないね。とにかく邪魔なんだよ、出ていけ!」


 僕たちは顔を見合わせた。


 なぜだか分からないが、僕らは、この魔霊街まれいがいの住人たちに嫌われているらしい。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る