第10話 松葉杖の見習い魔法剣士、派遣され感謝される

 僕はダナン。ダナン・アンテルド。


 僕がランゼルフ・ギルドで師範代しはんだいを始めてから、約一ヶ月が経った。


 ランゼルフ・ギルドの魔法剣術道場は、今や道場生が四十九名になっている。


 たった十名だった、一ヶ月前とはえらい違いだ……。


「さてと、やっと着いた」


 僕は馬車から松葉杖をついて降り立った。ここは、隣町のマルスタという港町だ。

 

 その町のマルスタ・ギルドで、急遽きゅうきょ、魔法剣術を教えることになった。


 マルスタ・ギルドの師範しはんが急病になったため、マリーさんの紹介で、臨時りんじで助けにいくことになってしまったのだ。




「今日は、魔法剣術の基礎きその一つ、魔法の発動の仕方について説明します」


 僕は、マルスタ・ギルドにある魔法剣術道場の、少年少女部の道場生たちにいった。


 ここは、マルスタ・ギルドの道場の庭。


 約二十名の道場生たちが、真剣に僕の指導を見ている。


「皆さんの体には、七つの『門』があると想像してください」


 僕は皆に説明した。


 あれから魔法剣術をかなり勉強した。このように説明できるのは、【スキル・英雄王の戦術眼】のおかげでもあったが。


「七つの門は、魔法剣術の達人だと、だいたい三つくらい開いています。それ以上の人は英雄、偉人レベルですね」

「門ってどこにあるの?」


 道場生から質問が飛んできた。僕は答えた。


「この門はね、見えないんだよ。お尻の下、お腹、へそ、胸、のど、眉と眉の間、頭の中にあると、想像してください」


 この門とは、想像上のものだ。しかし、魔法使いや賢者、霊能者など、「霊視れいし」ができる人には見えるという。開いている門が多ければ多いほど、剣術の能力が発達しているというわけだ。


「ないのに、あるの?」

「そう。一つ目の門が開いているイメージで、魔法を放つと──こうなります」


 僕の体に、空中から魔力が集まってきた。


「はあっ!」


 僕は氷の魔法を、松葉杖をついていない右手で、庭に設置された練習用人形に向かって放った。


 ビキイッ


 練習用人形は、一瞬にして、氷けになった。

 

 道場生から、歓声があがる。


 魔法は、僕がマリーさんからスキルを開花させてもらって、放てるようになった。


「わあー」

「あれが魔法なんだね」

「人形が凍っちゃった!」


 道場生の子どもたちは、驚きの顔で僕と練習用人形を見た。


 僕はすぐに、持参してきた魔力模擬刀まりょくもぎとうを取り出した。


 この武器は主に対人試合で使用され、実際には人を斬ることはできない。魔法の刃で斬るわけだ。斬った人体の部分はしびれるだけで、無殺傷むさっしょうの魔法武具だ。


 そして、その魔力模擬刀まりょくもぎとうに雷の魔法を放出し──。


「魔法剣──雷龍斬らいりゅうざん!」


 バリイイッ


 片手で、さっき凍った練習用人形とは別の練習用人形に、叩き込む。


 すると練習用人形は帯電たいでんし、バリバリと音を立てて煙を発した。


 この魔法剣は対人試合で使えるかどうかは、ルール次第だ。だが、道場生には見せておいたほうが勉強になるだろう。


「わーっ」

「雷の魔法剣だ」

「カッコイイ!」


 道場生たちは目を輝かせて、僕を見た。


 僕はこの不自由な右足のおかげで、戦う力はないが、こうやって人に教えることができる。


 エクストラ・スキルの【大天使の治癒ちゆ】で一時的に右足を治すことはできるようだが、それは自分の意志ではできない。【大天使の治癒ちゆ】が勝手に、その「時」を選ぶ。残念だけど。


「ねえ、どうやるの?」

「先生、教えて」


 僕の実演は、子どもたちに良い影響を与えたようだ。


 さっきの魔法と魔法剣を見せた後、質問攻めにあった。




「とても良い指導だったよ、ダナン君!」


 指導後、マルスタ・ギルドのギルド長、ブーリン氏が言った。ヒゲの太った中年男性で、気の良さそうなまん丸な顔をしている。


「君は指導がすごく丁寧ていねいだ。自分で道場生に、魔法剣術を実演して見せているし、分かりやすい。実は今、休んでいる魔法剣術の師範しはんのバンスリーさんは、大酒のみでさ」

「ああ……剣術の先生って、お酒を飲んでいる人が多いですよね」

「そうなんだ。まともに指導しないんだよ。口では道場生に、ああしろ、こうしろと言って、自分じゃ何もしない。『今日は調子が悪い』とか言っちゃってさ」

「うーん、そういう人、いますね」

「何しろ、魔物討伐とうばつから引退した魔法剣士が多いだろ。気持ちもだらけちゃっているのさ。だが、今日の道場生は、目の輝きが違った。君の指導のおかげだよ」


 僕は照れくさかった。


 ブーリン氏は、僕に謝礼の封筒を手渡しながら言った。


「何回か、来てくれると嬉しいんだけどね」

「はい……あれっ? 五万ルピーも入っているじゃないですか。三万ルピーの約束でしたが……」

「感謝の気持ちだよ。受け取ってくれ。また来てよ、頼むよ」

「あ、ありがとうございます」


 僕は多めの謝礼を受け取り、馬車でランゼルフ・ギルドに帰った。




 ところが、ランゼルフ・ギルドに到着すると、事務員になったポルーナさんが僕の方に走り寄ってきた。この間、マリーさんに無理矢理、魔法剣術の師範代しはんだいにされてしまった女性だ。


「た、大変なのよ、ダナン君! マリーさんが!」

「ど、どうしたんですか?」

「ギルド長をやめさせられちゃったのよ~!」

「えっ! そうなんですか?」


 驚いた。僕の恩人ともいえるマリーさんが、ギルド長をやめさせられるなんて? ん? となると、今のギルド長は……。


「でね、さっき新しいギルド長が就任したの。すぐにギルド長室に挨拶あいさつに行って」

「え? あ、はい」


 僕は急いでギルド長室に駆けこんだ。


 そこには、見覚えのある少年が、椅子に偉そうに座っていた。


 勇者、ドルガー・マックス……!


 僕を魔物討伐とうばつ隊から追放した男だった!

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