第20話 ちょっとだけ

「じゃあ、今日の料理担当の2人、よろしく頼むわね」


 2泊3日の泊まりだが、初日は俺とサクラが当番だ。俺は普段料理を作る身として胸を張って答える。


「おう、不味いもんは作らないから安心しろ。なあサクラ」


「え、う、うん!」


 そういうサクラの顔はどこか紅潮していた。俺はもしかしてと思いサクラの額に手をやる。


「ふぇっ!?ト、トシヤくん!?」


「いや顔が赤かったから熱あんのかなって、でも大丈夫そうだな」


「う、うん。大丈夫だよ…」


「………」


 ・・・・・・


「出来たぞー」


「待ってましたぁ!お腹ペコペコですよ!」


「…にしては元気だねコマリちゃん」


「はいっ!元気が1番ですから!」


 そういう意味で言ってないんだけど…


「にしても美味しそうです!」


「当たり前ですよ、トシヤは普段からバリエーション豊富な料理を作ってくれてますから」


「サクラもしょっちゅう料理作ってくれるけど味はかなりのものよ」


 そう言われて俺とサクラの口角が緩む。やはり正面から褒められるのは嬉しい反面照れ臭い。


「と、とりあえず早いうちに食べるぞ」


「そうですね、それでは皆さん手を合わせて」


「「「「「いただきまーす!」」」」」


 ・・・・・・


「ごちそうさまでしたっ!」


「コマリ…随分と食べたわね」


「たくさん食べる子は大きく育つんです!」


「そ、そうね…」


 こいつ今絶対に失礼なこと思ったな…


「皆さん、もうお風呂入ってしまわれますか?」


「うん、いいよ。誰から入る?」


 そこで俺は答える。


「俺は最後の方がいいだろ?だから少し夜風浴びてくる」


 ・・・・・・


「ふぅ…」


 俺は1人砂浜に腰を下ろし息をついた。


 今日1日はすごく充実していた。けれどそれと同等に疲労感も感じていた。普段のエリとの生活はどちらかというと落ち着きのある生活だから今日みたいな賑やかな日は珍しい。


「…そういえば、周りに誰もいない時間って久しぶりだな」


 もちろん部屋に1人ということは何度もあるが家に俺1人ということはほとんどない。1人っきりになるのは、もしかしたら前の家の時ぶりかもしれない…


「俺は、変われてんだろうか…」


 俺はエリと過去を乗り越えると約束した。母さんの死とか、それで色んな人に迷惑をかけたこととか…それを無かったことにせずに受け入れたうえで共存していかなければいけない。


「けど、まだまだダメだな…」


 俺はまだ、コマリに本当の自分を明かしていない。勿論それは誰にでも明かすものではない。けど、今となってはコマリとはただの級友と呼ぶには親交が深い。だけど、それを伝えるためにはそれと向き合わなきゃいけない。それはただざっくりと言葉にするのとは重みが違う。


 俺にはまだ、その重みに耐える勇気がない…


「なーに辛気臭い顔してんのよ?」


 そう言われて振り向くと、そこにはユイの姿があった。


「ユイか、向こうはいいのか?」


「うん、片付けは終わったしワタシも外出てくるって伝えてるから」


 そう言ってユイは俺の隣に腰を下ろして持ってきたコーラを俺に渡す。


「ねえ、アンタが何考えてたか当ててあげよっか」


「別にいい」


「コマリちゃんのことでしょ」


「いいって言っただろ…だけどまあ、当たりだ」


「だと思った」


 俺は純粋に何故分かったのか疑問を口にする。


「だって、アンタまだコマリに対して外面じゃない?それに辛気臭い顔もしてたしそれ絡みかなって」


「敵わないな、お前には」


「まあね♪」


 そして俺は重ねてユイに尋ねる。


「コマリに、伝えた方がいいのかな?」


「それはアンタが決めることよ」


「だよな…」


「でも、それは自分を殺してまで伝えることじゃない。少なくともそれは勇気を出したとはいえない」


「どういうことだ?」


「察し悪いわね…つまりあれよ、伝えなきゃって思ったから伝えるんじゃなくて、伝えたいと思ったから伝えるようにしなさいってこと」


「なるほど、確かにそうだよな。ありがと。やっぱり頼りなるな」


「知ってる」


 そして優しい浜風とともに静寂が訪れる。けれどその静寂をユイが破る。


「そしたら次ワタシから質問いいかな?」


「おう、いいぞ」


「アンタから見てワタシってどう見える?」


 一瞬、何を答えればいいのか分からなかった。けれど、ユイの俺を見る瞳は真っ直ぐで、正直に質問を聞いて思ったことを答えないといけないと思った。


「そう、だな…すごく心強く見える。お前がいなかったら学校はもっと息苦しかったし、多分あの時期から学校も行って無かったと思う」


「あと、お前がたまに見せるハジけるみたいな笑顔が…」


「可愛いなって思う」


「な、ななっ…何急に可愛いとか言ってくれちゃってるのよ!?」


 そこで俺は我に帰る。そこでユイの顔が真っ赤になっているのに気づいた。


「わ、わりぃ!つい…」


「そういうの!あんまり他人に言わない方がいいの分かってる!?」


「分かってるよ!もう言わねえから!」


「そ、それはそれで癪だけど…まあ分かったわよ。ほら、そろそろ戻るわよ」


 ユイはそう言って立ち上がり俺に手を差し伸べる。


 俺はその手を取って隣並んで戻っていった。

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