第21話 失礼しますね

 戻って風呂から出るとコマリがババ抜き対決を全員に申し込んできた。何やらトランプで一番自信があるらしいが…


「また負げましだぁぁぁ…」


 これで4連敗だ…


「コマリ、表情に出過ぎなのよ…よくそれでババ抜き対決って言い出したわね…」


「そんなことないですよっ!ねぇサクラさん!」


 コマリはそう言ってサクラに縋るように目線をやる。するとサクラは無言でコマリから目線を外す。コマリは驚きと絶望が混ざったような面白い顔をしていた。


「明日も早いですから、そろそろおしまいにしませんか?」


「明日は登山だったかしら?」


「登山というほど激しいものじゃありませんが、近くに景色の良い丘があるのでピクニックみたいに出来ればと思いまして」


「そっか、じゃあもう今日はこれでおしまいだね。コマリちゃんいいでしょ?」


「………」ムスッ


 明らかに拗ねてる…俺はやれやれとコマリに声をかける。


「コマリちゃん、明日の夜なら沢山できるから今日は我慢できないかな?」


「…分かりました」


「うん、ありがとね。それじゃあ皆んな部屋に戻って明日に備えようか」


 そして各々が自室へと戻っていった。けれどエリだけはその場に留まっていた。


「エリ、どうかしたのか?」


「明日食べるサンドイッチを先に作っておこうと思ったので」


「…エリがか?料理できないのにか?」


「サ、サンドイッチぐらい私も作れます!」


 エリはそう言うと頬を膨らませる。


「包丁の持ち方分からないのにか?」


「うっ!?」


「野菜の切り方分かんないのにか?」


「うぅ…」


「…手伝おうか?」


「お願いします…」


 ・・・・・・


「ふぅ…」


 結局俺が全部やってしまった…


「ありがとうございます、今飲み物持ってきますね」


 そう言うとエリは飲み物を持ってきてソファに座った俺の前にそれを置くと横に座った。


「横、失礼しますね」


「おう」


 俺はそう言ってエリの注いだお茶を飲む。


「ふぅ…賑やかなのもやっぱりいいな」


 するとエリは口を隠してクスクスと笑った。


「何で笑うんだよ」


「だってさっきのトシヤ、何だかおじいさんみたいでしたよ?」


「じ、事実なんだからそんなこと言うなよ!」


「ごめんなさい、でも…私の実はこうやって友人と楽しくお泊まりするのは久しぶりです」


「そのとき相手が誰だか、分かりますか?」


 そう言ってエリはイタズラな笑顔を浮かべる。


「どうせ俺だろ?確か3年生の夏だったか?」


「そうです、あの時トシヤが苦手なピーマン残してたのを私が注意したの覚えてますか?」


「…覚えてねぇ」


「えー?本当ですか?顔見て言ってください」


 そう言いながらエリはグイグイと身体を押し付けてくる。


「あーもう、なんなんだよ?」


 そう言ってエリの方を向くと、思ったより目の前にエリの顔があり俺たちはすぐ目を離す。


 そしてエリは慌てて口を開く。


「そ、そうですよね!?もう8年近く前のことですもんね!」


「そ、そうそう!そうだな!」


 俺は慌てて答えるとお茶を一気に飲み干す。どうやらエリも飲んでいるようだ。


 お互いが落ち着き取り戻すのを見計らって、俺はエリに1つ尋ねる。


「過去を乗り越えるってあの時言ったけどよ、何を乗り越えたって言うんだろうな」


 するとエリは一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに柔らかく微笑みを浮かべて答える。


「分かりません。トシヤはどう思いますか?」


「そうだな…俺もさっぱりだけど、乗り越えたら母さんの墓参りに行きたいと思ってる」


「そうですか…じゃあ『お母様に胸を張って見せられる自分』になったらというのはどうでしょうか?」


「だな、そのためにも俺もやれることやってかないとな」


「そうですね、私もできる限りお手伝いしますね」


 そう言うとエリは大きく欠伸をした。


「私、そろそろ寝ますね。おやすみなさいトシヤ」


「おう、おやすみ。エリ」


 エリが上階に上がるのを見送ると電気を消してソファに寝そべる。


 明日、コマリに自分のことを伝えようと決心し俺は夢へと落ちていった。

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