第19話 自覚

 今日はエリの親戚が管理している別荘に掃除も兼ねて泊まる日だ。話によると電車で2時間揺られればあとは徒歩10分もせずに着くらしい。


「うへぇ、電車緊張します…」


 そういうコマリの表情はどこか不安そうだ。


「コマリちゃん、もしかして電車苦手?」


「あっ!えっと…実は電車にあまり乗ったことがなくて…」


「なるほど、今日乗る電車は人が多く乗る線じゃないから普段乗り物酔いしなければ大丈夫だと思うよ」


 するとコマリは安堵の表情を浮かべる。


「でもはしゃぎ過ぎると酔うかもね?」


 また表情が固くなった…面白いな


「そろそろ電車の時間です。行きましょうか」


 ・・・・・・


「着きましたよ」


 そうして辿り着いた建物は南国風のいい感じの雰囲気の建物だ。


「良い感じのとこじゃない?それじゃあ早速中入って掃除するわよ」


 そして俺たちは中に入る。わざわざ掃除を条件に出してきたくらいだから相当埃が溜まってるかと思ったが、当ては外れており以外と小綺麗だった。


「思ってたほどじゃないな」


「まあ、埃出すような人も出入りしてなかったってことでしょ?」


「そうだな、早速掃除するが…5人いることだし分担するか。エリ、間取りの話は親戚から聞いてないのか?」


「はい、まず一階がLDKとお風呂やトイレなどですね。そして2階には個人の部屋が4つあるそうです」


 なるほど、4つか…4つ?


「それって、誰か1人個室なしってことにならないかな?」


 そのサクラの言葉にお互いがお互いを見合わす。


 しかし、流石に女性陣に不便をさせる訳にはいかない。俺は手をあげて言う。


「俺は別に部屋なくて良いぞ。ソファもあるし寝るのも難しくないしな」


 俺がそう言うとエリが申し訳なさそうに俺に話しかける。


「ごめんなさいトシヤ、うっかり失念してしまいました…」


「そんな悲しい顔するなよ、楽しむために来たんだから、な?」


「そうですね…フフッありがとうございます」


 ・・・・・・


「ウミだぁぁぁぁ!!」


「こらコマリ!走らないの!!」


 掃除を終えた俺たちは即座に水着に着替えで海へと向かった。プライベートビーチらしく別荘から直接徒歩で30秒もかからない。


「全く、コマリったら……」


「うわぁ…海、綺麗ですね…」キラキラ


「エリ…はぁ、ワタシも行くからせっかくだし一緒に行く?」


「いいんですか!?」


 そう言ってエリとユイが海は駆け出す。


「サクラはいいのか?」


「うん、移動と掃除で疲れちゃって…」


「そうか、実は俺もだ。日陰で休むか?」


 するとサクラはフルフルと首を横にふる。


「せっかくだから浜辺でも歩こうかなって」


「そうか、じゃあ俺もいいか?」


「っ!?も、もちろんだよ!」


 ・・・・・・

 そして今、私はトシヤさんの一緒に浜辺を歩いている。


 な、なんでか凄く緊張する!


 落ち着け私!と、とりあえず何か話さないと!


「う、海、綺麗だね」


「そうだな、天気も良いから透き通って見える」


「だねー。晴れて良かったよ」


「………」


 ダメだっ!?会話が続かないよぉ…


 すると不意にトシヤさんが口を開いた。


「そういえば、似合ってるなその水着」


「ふぇっ!?そ、そうかな!?皆んなに選んでもらったんだけど…派手じゃないかな?」


「そうか?確かに目立つけど別にサクラも負けてないと思うぞ」


「あ、ありがとう…ございます」


 な、なんか凄く恥ずかしい!


 でも…


「嬉しいな」


「ん?何か言ったか?」


「エヘヘ、何でもないですよ♪」


 すると向こうでお姉ちゃん私たちを呼ぶ声が聞こえた。


「おっ、呼ばれてるぞ。帰ろうぜ」


 私はそう言って戻ろうとするトシヤさんの腕を無意識に握っていた。


「えっ、どうしかしたのか?サクラ」


「え、えと…」


 どうしよう!?無意識だったなんて恥ずかしくていえないし、えっと…


「トシヤさんのこと、トシヤくんって…呼んでもいいかな?」


 私は顔を真っ赤にしながらそうトシヤさんに尋ねる。


 するとトシヤさんは不思議そうな表情を浮かべて答える。


「そんなことか、別に好きに呼んで構わないよ」


「そ、そっか…それじゃあよろしくね?トシヤくん」


「うん、よろしくな、サクラ」


 そう言ってほほえむトシヤくんに、私の胸がトキメクのが分かった。


「私、もう少しここで浜風浴びてから行くね」


「そうか、気をつけろよ」


 そうしてトシヤくんと別れた私は顔を覆ってうずくまる。


「やっぱり、そういうことだよね…」


 何で私がトシヤくんとは仲良く喋れるのか、一緒にいると楽しいのか、もっと知りたいと思うのか、やっと分かった。


「私、トシヤくんが好きなんだ…」

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