第22話 ざまあヒロインと悪事Ⅵ

 雪村たちに謝った後、私は自分の教室へとやってきた。

 1人じゃ多分、いや絶対入れなかったけれど、雪村たちが一緒に入ってくれたのでなんとか入れた。


 なんて思っている内に、クラスの連中が私に気付く。


「おい、鎌瀬のやつ……!」

「よく来れんな……」

「なあ。アイツって捕まんのか?」

「死刑でしょ」

「犯罪者……!」


 皆のヒソヒソ話が聞こえてくる。

 明らかに私に対して敵意を向けてくる子も居た。


 強気だった頃の私なら、こんな言葉や視線は意にも解さなかっただろう。

 モブが何を言おうとどうでもいいとか、言ってたに違いない。


 だけど今は刺さる様に痛い。

 なぜなら、私がそこまで大した人間じゃないって自分で分かっちゃってるから。

 もし今こいつらから一斉攻撃を受けたら、私は身体的もしくは社会的に抹殺されてしまうだろう。

 それがただただ怖ろしかった。


 ちなみに内木は……。


 思って内木の席を見る。


 内木は頬杖を付いたまま窓の外を見ていた。

 私が来たことに気が付いているのか、分からない。

 ひょっとしたら気が付いていて、私が登校したのを嫌がってるのかも。

 そう思うと、凄まじく辛かった。

 内木にだけは嫌われたくない。


「……」


 雪村たちも、なんだかんだ教室までは付いてきてくれたんだけれど、今はもうそれぞれの席に座っていた。

 私のフォローまではしてくれるつもりはないらしい。

 当然のことだ。

 自分でやったことの後始末ぐらいは、自分でやるべき。


 そこまで考えて、私は席から立ち上がった。

 胸に手を当て、深呼吸して、それから周りを見る。


「クラスメートのみんな、ごめんなさい!」


 私は机に両手を突いて頭を下げた。

 すると、それまで私のヒソヒソ話を続けていた人たちや、スマホを片手に動画を見てたり本を読んだりしていた連中が一斉に私を見る。


 内木は見ない。


「あの、私、みんなに迷惑をかけちゃって、とても申し訳なかったと思ってるわ。もし直接言いたいことがあったら言って欲しいの」


 私はそう言って頭を下げた。

 すると、


「は?」

「いやそんな事言われても」

「急にどうしたアイツ」

「ウザ」


 一部の男子たちが騒ぎ出す。

 だが他の人たちの反応は皆無だった。

 もう私に興味を失くしたのか、動画を見ていた人は再び動画を見てるし、居眠りしている人もいる。

 内木も頬杖を突いたままだ。


 私は教室で一人立ち尽くしている。


 ……。

 これも、当たり前だ。

 当たり前なんだけど、すごいショックを受けている。

 無視されるのって辛い。


 だけど一番辛いのは内木の反応。

 謝って無視ってことは、たぶん内木にも嫌われてる。

 この現実が、底なしに辛い……ッ!


 そんな風に私が悲しんでいると、


『ピロン♪』


 私のスマホが鳴った。

 雪村からのラインだ。


『とりあえずグループラインで謝っとけば?

 今日来てない子もいるし』


 気付いた私が雪村を見ると、彼女は小さく手を振ってくれる。

 更に、


『謝罪したなら、後はクラスの連中に任せればいい。

 気になってる人は自分から言ってくる』


 明星院まで、素知らぬ顔でラインを送ってくれた。


 小金井も私の方を心配そうに見つめてくれている。


 な、なんて良い人たちなんだろう……!?

 嬉しくて涙が出てくる。


 ……。

 ちなみになんだけど、私は今『私にとって都合が良すぎる』から泣いている。

『いい感じに私のフォローをしてくれる良い手駒だな』って感じ。

『いざって時には私を守る壁になってもらおう』とか、そういう事も考え始めている。


 いや、誓ってそういう事を考えようとしたわけじゃないんだけれど、直感というかなんていうか、本能レベルで浮かぶのよね、こういうの。


 あ、それも送っておきましょ……!

 私がどう正しくてどう間違ってるかを理解するためにも、思った事は正直に伝えないと……!


 なんてやってると、即座に明星院から返信がくる。


『あとで殴る』


 ひ、ひい!?


 ちなみに雪村は、『あちゃ~』と言わんばかりに額に手を置いて、溜息吐いている。


 小金井はプイっと窓の外を向いてしまった。

『もう知りません!』みたいな感じだろうか。


 ……。

 な、なんか私、クズ芸人みたいになってるわね……?

 もちろん、自分のしたことを考えればむしろ有難いぐらいなんだけれど……!


 私がそんな風に思っていると、


「鎌瀬か」


 近場で野太い中年男性の声がした。

 私のクラスの担任である。


「ラインは見たか?

 後で話があるから、職員室に来なさい」


 そうね。

 クラスのみんなにも謝ったし、次は先生にも謝らないと。


 思いながら、内木の席を見る。


 ……内木にも、謝らないと。


 私は視線を前に向ける。


 前しか、向けない。




 ◇




 放課後。

 私は一人で職員室を後にした。

 たった今、先生からみっちりお説教を食らったところだ。


 ちなみに学校側の処分だけど、


 ・今回の件が初めての不良行為であること。


 ・日頃の学習態度(成績マウントを取りたいがため、私は小学校から無遅刻無欠席であり、時々授業から逸脱することはあったけれど、課された課題等はきちんとこなしていた)。


 ・精神的な被害こそ大きいものの、実害に関しては殆どなかったこと。

(私のアカウントが曝されたこともあり、既に雪村たちの噂はウソだと世間に知れ渡っている)


 この3点に加え、職員室での私の反省の態度を考慮した結果、

『停学処分(3日間)』および『反省文の提出』に加え、後日『校長先生から直々にお説教を頂く』という形でひとまず落ち着いた。

 正直退学もありうると思っていたので、非常に有難い。


 更にはうちのパパの仕事の件だけど、そっちも上手くいっていた。

 もちろん小金井のお陰だ。

 私が充分に反省している旨を伝えてくれたらしい。

 うちとの取引は今まで通りにしてくれるそうだ。

 ただ、私と友達として付き合うことに関しては再三注意を受けたらしい。

 小金井パパ曰く、私のような種類の人間とは『ビジネス以外では付き合わない方がいい』らしい。

 それは『信用に値しない人物』だからだそうだ。

 めっちゃ厳しいけど、その通りだなと思わざるを得ない。

 なんとなくだけど、この件は後々尾を引きそうな気がする……。


 ……。

 ここで『みんな案外チョロいわね。これも日頃の善行のおかげだわウフフ!』とか調子に乗ったら一瞬でブチ殺されるんだろうな。


「まあでも正直そう思っちゃう所あるのよね……!

 私の調子に乗るクセは一生直らないのかも……!」


 マジで雪村が言ったみたいに、私の前世魔王とかなのかもしれない。

 それか悪役令嬢か。

 とにかく注意していくしかないわね……!


 そんなことを思いながら、私が校舎昇降口までやってくると、


「ん……!?」


 下駄箱の前に見慣れた人物が立っている。

 ボサボサの頭に、入学時よりもやつれたせいか、ブカブカになった制服を着た陰キャ男子。

 内木だった。


 う、内木っ!?!?

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