第17話 ざまあヒロインと悪事

「……」


 内木が黙って記事を読んでいる。


 ウソ!?

 私の計画は失敗したはずじゃ……!?


 慌てて私が自分で流したツイートを確認すると、


『雪村終わったな』

『カワイイ女に男いるとか当たり前だろ』

『ファンなら食い放題。羨ましい』


 といった他人事かつ悪辣なコメントが多数見られた。

 リツイート数は1万を越えており、フォロー数もめっちゃ増えている。

 通知消してたから気付かなかった。


 それだけじゃない。


 私が流したのは、本人と分からないように加工した内木と雪村が楽しそうにおしゃべりしている短時間の憶測動画だけだったんだけど、それに今や尾ひれが色々ついて、やれ『親公認の半同棲』だの『彼氏は40代』だのと、根も葉もないことが書かれていた。

 一番伸びてるツイートは、既に3万リツイートを越えている。

 中には『詐欺罪に問える』といったコメントすらあった。


 ちなみに炎上しているのは雪村だけではない。

 パパ活疑惑を載せた明星院もだし、コネ入学の噂を流した小金井にも同様に批判が集まっている。

 もちろんそうした疑惑を偽りだとする連中も多数居るが、お祭り状態になっているのは間違いなかった。


 なんか知らんが今頃バズりまくってるううううう!?

 よよよよっしゃあああああ!!

 徹夜で頑張った甲斐があったわ!!!

 これで内木の中の雪村たちの株は完全に暴落した!!!!!

 私の勝ちよ!!!!!


 私は心の底から喜んだ。

 神さまはまだ私の事を見捨ててなかったのである!

 やはり私という一途で罪も汚れもない真のヒロインこそが、内木と付き合うに相応しい!


「ねえ!?

 雪村のやつ、男がいるのにアンタとカフェでお茶してたのよ!?

 アイツ最低じゃない!?」


 私は鬼の首を取ったような勢いで内木に尋ねた。

 だが内木は私を見ず、黙ったままスマホのニュース記事を何度も読み返している。


「……いや、まだこれが事実かどうか決まったわけじゃないし。

 っていうか、なんでそんなに嬉しそうなの?

 友達のことなのに……」


 改めて私の方を向いて言った。

 私を見つめるその瞳には、嫌悪に似た感情が籠っているように私には感じられる。

 そう思った瞬間、私の脳裏が真っ白にスパークした。


 うっ!?

 内木に嫌われる!?!?!?

 ヤバイ!?!?!?!?!


「あ、うん!?

 そうよね!!!

 とっ、とっ、突然、だったから私、ちょっと気が動転しちゃって!?

 こんなのウソに決まってるわよ!!!

 きっとどっかのバカが雪村さんたちの悪評撒き散らそうとしてるんだわ!!!

 ワホホホホホホホッ!!!」


 私はつい雪村たちを擁護してしまった。


 いや擁護したらダメでしょ!?

 ここはなんとか事実だって内木に思わせないと!?


「………………………………」


 内木がドン引きしてるうううううううううううう!??!!?


 なんで!?

 もしかして私がやったってバレてるとか!?

 そそそそんなはずぅぅぅッ!?


「ほ、本当よ!?

 私、雪村さんたちのことを心から心配してるんだから!?!?

 この目を見て!!!!」


「……………………………うん。まあ、そうだとは思うけど……」


 内木が長い沈黙の後に言った。


 よ、よっし!?

 とりあえず言質はとったわ!

 後はこのままうまく隠し通すわよ!!

 そしたら何もかも元通り!


「……とりあえず、本人たちの反応を待とうか。

 さっき雪村さんにしたLINEもまだ返って来てないし……」


 話している内に通知が鳴った。

 また内木のスマホだ。


 雪村からの返信かしら。


「……え……!?」


 内木が驚いている。

 その目の見開き具合は、さっき雪村の炎上記事を見た時以上だった。

 心臓に悪い。


「な、何よ……!? 

 もっと酷い記事みつけたとか……!?」


「いや……鎌瀬さんこれ……!」


 言いながら、内木がスマホの画面を私に見せ……ッ!?


「!?!?!?!?」


 次の瞬間私の目に入ってきたのは、私の例のツイートの返信欄に書き込まれた次の呟きだった。


『このツイート流した奴特定したかもwwwwwwwwwwwwwww』


 その文言を見た途端、心臓が一瞬震えあがって、止まる。

 直後に復活し、


「わっ!?」


 私は内木の手からスマホを奪うと、画面をスクロールしていった。


「!??!?!?」


 全てが暴かれていた。

 私の動画がフェイクであること。

 その動画を流した犯人が、鎌瀬麗子という女子高生であること。

 私の学校や住所までが曝されていた。


 頭がちっとも動かない。

 何が起きているのかも、分からなかった。

 なんとか深呼吸して文章を見直そうとするが、何度見直しても全然内容が頭に入ってこない。

 汗がダラダラ流れるし、手もブルブル震える。

 オマケに過呼吸まで起こし始めた。

 内木が……!?


 なんで!?

 なんで私が犯人と特定されてるのよ!?

 しかも住所までッ!?!?!


 何度も何度も何度も何度も見返して、ようやく頭に入ってきた情報を繋ぎ合わせると、どうやら次の流れでバレたらしかった。


 まず私の動画だが、背景に使った画像(私の部屋の写真を加工したもの)と人物のの解像度のズレや、パースの僅かなズレやバランスの崩れによる不自然さから偽物だと割り出したらしい。


 その上で、私が犯人と特定するに至れたのは、私が誤爆したツイートからだ。

 実は先日私は加工した動画を流した後、内木の妄想アカでもそれを呟いた。

 妄想の中の内木は私にとってもとってもとぉっても従順な忠犬ウチ公だから、当然雪村を罵倒しまくった。

 だが、ここで問題が発生する。

 誤爆してしまったのだ。

 私が妄想アカで垂れ流そうとした雪村への罵倒を、間違って本アカで呟いてしまった。

 誤爆に気付いたのは、20分くらい経った後。

 もちろん速攻で削除したんだけど、どうやら私のウソを特定した奴はそのツイートも確認していたらしい。


 私のアカウントなのに、別の男子の視点や言葉で呟かれている事に違和感を持ったそいつは、試しに私が暴露に使ったアカウントにログインしようとした。

 ツイッターでは、アカウントにログインしようとすると電話番号下2桁とメールアドレスの一部が表示される。

 それが私のアカウントの電話番号下2桁とメールアドレスの一部と全く同じだったことから、特定するに至ったらしい。

 その流れは全て暴露した奴の呟きに書かれてある。


 後は、暴露者自体の『というわけでるなの彼氏疑惑はゼロ。これ作った鎌瀬とかいうやつ許さねえ』という怒りの呟きと(たぶんこの暴露者は雪村のフォロワー)、それに対する無数の呟きだった。


『いや疑惑はなくなってないだろ』


 という暴露者を疑うものもあれば、


『ってかこいつ誰だよ。るなの友達?』

『やな奴そう』

『嫉妬ぶかそう』

『女の世界コワ』


 といった、私に対するアンチツイートらしきものが並んでいる。


「……これ、本当?」


 内木が私に言った。


「ち……!

 違うに決まってるでしょ!?

 こんな事私しないし!!

 ほら、この目を見て!!!!」


「……本当なんだ」


 内木が半ば驚いた様子で言った。


 な、なんでよォ!?


「はあ……!

 なんでこんなことするかな……!

 締め切りもあるのに……!」


 内木がイライラした様子で、後ろ頭をボリボリ掻く。


 ヤバイ。

 珍しく内木が怒っている風に見える……!


「……鎌瀬さん、とりあえず雪村さんのところに行こう。

 みんなで話しないと」


「う……!?」


 内木にそう言われた瞬間、私の体がビクンと跳ねる。


「……な、なんでよ……!?

 わたし……知らないのに……!!」


「知らないってことはなさそうだけど……。

 仮に知らないとして、だったら尚更雪村さんたちと話さないと。

 じゃないと、このままじゃ鎌瀬さんが犯人ってことになっちゃうし……」


「知らないって言ってんのおおおおおおおッ!!!」


 内木がまだ話している最中に、私は叫び散らした。


 もうそんな話は一秒たりとも聞いていたくない。

 堪らなくなった私は、その場から駆け出す。


「鎌瀬さん!?」


 内木の声がする。

 珍しく大声。

 私はその声を振り払うように坂道を下っていった。


 なんで!?

 なんでいつもこうなるのよ!?!?

 私は一ミクロンも悪くないのに!!!!!

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