第16話 ざまあヒロインとSNS炎上Ⅲ

「あ!

 アタシちょっとトイレいってくるね!

 漏れちゃう!」


 雪村が席を立った。

 内木を一人残してトイレへと向かう。


 チャンス!?

 この隙に内木を強奪する!!


 私はタイミングを見計らい、内木の元へと歩いていった。

 内木の前に腕組みして立つ。


「なにしてんのよ」


 思ったよりも低い声が出た。

 声に出すと、フツフツと怒りが込みあげて来る。


「鎌瀬さん……!?

 なんでこんな所に……」


 私は問答無用で内木の手を掴むと、その場に立たせた。

 奴の手を引いたまま、カフェを後にしようとする。


「え……!? いま、雪村さんと一緒に来てるんだけど……!」


「いいから来なさい……ッ!!」


 声が震えた。

 内木に対する怒りと憎しみと悲しみで一杯だったから。


「だ、だめだよ……!? 急にいなくなったら雪村さん困るし……!」


「いいから……ッ!!」


 また声が震える。

 ギュッと握った拳も震えた。


 許せない……!

 いや許したくない……!


「よ、よくないって」


「いいの!!!!!」


 そんな風に感情がわだかまっていたせいだろう。

 私はついに叫び散らしてしまった。

 急に上がった声量に、周りの客たちはもちろん、内木もビックリした様子だった。


「いいから来るの!!!」


 私は構わず怒鳴りつけると、強引に内木の手を引っぱって会計レジへと向かった。


 なんで雪村なんかのこと好きそうなのよ!!!?!?!?




 ◇




「い……いい加減にしてよ!」


 通り沿いにある教会の前までやってきたところで、内木が私の手を振り払った。

 私は立ち止まる。


「急にどうしたのさ。

 鎌瀬さんらしくないよ……いや、らしいかもしれないけど……!」


 内木がまたグズグズ言っている。


「なにそれ。

 バカにしてる!?」


「し、してないけど……!

 ちょっと、雪村さんに連絡だけ入れるよ。

 悪いけど、鎌瀬さんの名前出してもいい?」


 内木が恨めしそうな口調で私に言ってくる。


 その口調、そして如何にも私のせいって言い方が非常に鼻についた。


「……好きにすればいいじゃない」


 私はそっぽを向いて言った。


 内木は返事もせずにスマホを弄り出す。

 奴はそうしながら、


「あーあ……せっかく楽しかったのに……」


 ボソボソと呟いた。

 それを聞いた瞬間、また私の怒りが爆発する。

 私よりも雪村と一緒に居た方が楽しいって言ってるようにしか聞こえないから。


「ハアア!?

 アンタ、私がどんな思いであの店に居たと思ってんのよ!!?」


「そんなの知らないけど」


 内木が私のことを考えてくれないのが悔しい……!

 私はこんなにも内木のことばかり考えているのに……ッ!!


「……で、なに急に。

 なにか俺に用でもあるの?」


「用?

 用ならあるわ!

 私とこれからデートさせてあげる!

 喜びなさい!」


 私は言った。


「……どういうこと?」


 内木が聞き返してくる。


「クソ……!

 正直アンタには腹が立ちまくってるわ……!

 ウッチーがこの場にあったら、蹴って殴って叩きつけて粉微塵になるまでブチノメしているところよ……!」


「ウッチー……?」


「でも!

 それもアンタの態度次第では許してやらなくもないわ!

 今後は雪村みたいな脳みそゼロの陽キャ女とは遊びに行かず、私だけと遊ぶって約束するの!

 そしたらこれまでの事は水に流してあげてもいいわ!

 私はいい女だから!」


「……」


「さあ行くわよ!

 ここからずっと坂を降りていった先に、私オススメの高級クレープのお店があるの!

 あんなクソザコパフェ全然美味しくないんだから!」


 内木はピーナッツチョコの他にクレープも好きだ。

 表参道にある内木が好きそうなお店は、ちゃんと事前に足を運んでリサーチしてある。


「いやだ。そんな気分じゃない」


 なのに内木が言った。

 どこか私を排斥するような声音に聞こえる。


「なんでよ!?」


 そんな声音が怖ろしくなって、私は堪らず内木に尋ねた。

 足が震えている。


「なんでって、フツーそうでしょ。

 っていうか、鎌瀬さんこそなんでこんな事をしたのさ?

 流石にちょっと酷いと思う……」


「そんなの、わかりなさいよォ!?」


 また必要以上に声が大きくなってしまった。

 何かとてつもなく大きな不安が、私の心をブチ壊しつつある。


 なんで分かってくれないのよ!!?!??!?


 心の中で、小さな私が泣き叫んでいた。


 内木コイツにだけは分かって欲しいのに……ッ!!!


「いや分かれったってムリでしょ……。

 言ってくれなきゃ……」


「アンタ!

 そんなんだからクソダサ陰キャなのよ!

 男なら私の気持ちぐらい悟りなさいよ!!」


「む、ムリ言わないでよ……!?

 あれ……?

 なんだこれ……?」


 内木がまたスマホを見る。

 驚いた様子だった。


「どうしたのよ……!?」


 私も内木のスマホを覗き込む。

 内木が目にしていたのは、


「……『雪村るな、ファンと半同棲』!?」


 雪村の炎上記事だった。

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