第15話 ざまあヒロインと表参道デート

 週末。

 私は表参道に居た。

 雪村が言っていた店がここにあるのだ。

 事前の調査で、店の前で直接待ち合わせることを内木から聞き出していた私は、入り口が見えるテラス席で待ち伏せしている。


 もちろん私と分からないように帽子とグラサン、ジャージで変装している。

 ちなみに断じてストーキングではない。

 内木におかしな虫が付かないようにすることは、奴の将来を預かる妻として当然の行為である。


 店内は花や緑が飾られ、シックで落ち着いた雰囲気だった。

 ここは食事のシメに食べるパフェ、通称『シメパフェ』が有名なお店である。


 しっかし雪村の奴、意外とオシャレな店知ってんな……!

 てっきり六本木とかのギラギラした反社会的なお店に行くのかと思ってたのに。

 その辺も内木の好みに合わせようとしてんのか?

 チッ。

 姑息な奴め。


 イライラしながら2人の到着を待つ。

 先に姿を現したのは雪村だった。


 雪村は流石にオシャレだった。

 格好自体はいかにもギャルって感じのショートパーカーにへそ出しのショートパンツ姿だが、生地に高級感を出すファーを使用したり、チェーンブレスやブランドモノのショルダーバッグ、ロングブーツを合わせることで、大人かつ甘めな印象を持たせている。


 ふ、フゥン!?

 そこそこカワイイじゃないの!?

 でも断然私の方がカワイイわ!!

 今日はお忍びだからカラコン外したりダサいジャージ服着てたりするけど、いつもの私なら秒殺よ!

 ケバイ格好で私の内木に近寄らないでよね!!


 なんて思っている内に内木もやってくる。


「……あ、雪村さん……おはよう……」


 内木こそパジャマだった。

 いや、それでも一応外出着のつもりなのか、全身ヨレヨレのスウェットとチノパンである。

 しかも寝不足なのか、目の下にクマが出来ており、髪もボサボサ。

 とてもじゃないが、これから女の子とデートする格好には見えない。


 ははーん?

 そうか、アイツ昨日も夜遅くまでマンガ描いてたな。

 よしよくやったぞ内木!

 これならワンチャン雪村もドン引きするかも……!?


「うわ!? 内めろ寝ぐせついてるじゃん!! ウケる!!」


 すると案の定、雪村が内木のダサい身なりをディスり始める。

 内木は気まずそうだ。


「え、ひょっとしてマンガとか書いてた?」


 雪村が尋ねた。


「あ……うん……徹夜……じゃないけどちょっと、夜遅くまで書いてて……。

 それで、その、お、起きたのさっきで、し、しかも外用に買ったズボン穿こうとしたら、や、痩せてたのか、いつのまにかズボンがダボダボになってて、それでその、ご、ごめん……!」


 内木が申し訳なさそうに顔周りをペタペタ触りながら話している。

 話しながらもどんどん声量は減るし、早口になるし、ドモるし、果ては謝り出すしで、男として全く魅力に欠けていた。



 よかったアイツめちゃくちゃ緊張してる!

 たぶん元々恋愛初心者の上に、雪村が思った以上にカワイかった、とか、万全の状態で来れなかった、とか色々あっての事だろう!

 正直私以外の女を相手にそういう事考えてるのはムカつきまくるんだけど、今回に限っては許す!

 だって、これだけのクソダサ陰キャっぷりを発揮したんだもの!

 さすがの雪村もドン引きしているに違いない!


 内木よそのままフラれろ!

 そして今すぐ私と結婚式だ!!

 ダッシュでウェディングドレス借りて親御さんに挨拶しに行くぞオラァ!!!


 なんて私が貧乏ゆすりで机をガタガタガタ揺らしながら内心考えていると、


「カッコイイ」


 雪村が言った。


「「え……?」」


 私と内木が同時にポカンとする。


「アタシってすぐ飽きるからさ。そんなに頑張ったことってないんだよね。だからめっ~ちゃ尊敬する!」


 雪村がそう言って、内木の髪に触れた。


「この寝ぐせもオトコの勲章だね?」


 愛おしそうに内木の顔を覗き込んで言う。


 あっあっ……アイツウウウウウウウ!?

 落としてから上げやがったあああああ!?

 男の扱いに慣れてやがる!?


「え!? え……! そそ、そうかな……?」


 内木もチラと雪村を見返して言った。


 嬉しそう!?

 内木のやつ嬉しそうおおおおお!!!!?


 思ってまた机をガタガタ揺らす。

 さっきから店員や近くの客が迷惑そうに私を見てくるが、そんな事はどうでもいい!


「早速入ろ♡」

「あ、うん……」


 2人が店内に入ってきた。

 2人にバレないように、私は一旦テーブルの下に隠れる。

 再度頭を上げて店内を見回すと、窓際の明るい席に2人は座っていた。

 メニューを開いて楽しそうに話をしている。


 チッ!

 雪村の奴上手くやりやがって……!


「うわ!? なにこれメ~~~チャ美味しそう!? ねー内めろ! とりあえずこのパフェ全部頼まない!?」


「え……!? そ、そんなに食べられないでしょ……! それに結構高いし……!」


 2人の話を聞いて私もメニューを見た。

 パフェの欄を見ると、だいたい2000円はする。


 たっか!?

 内木のやつ、金持ってんの?


 思って、再度内木を盗み見た。

 案の定内木は困った顔をしている。


 するとそんな内木の様子を見て、


「大丈夫! お金なら気にしないで! 私奢るし!」


 雪村が言った。


「そ、そんなの悪いよ……!?」


「いいのいいの! アタシこーみえて結構稼いでるし!」


 そりゃインスタで100万人もフォロワーがいる現役女子高生モデルなんだから、金なんか稼ぎ放題だろうな。


 ……。

 ちくしょう!

 なんで私のフォロワーゼロ人なのよ!?

 雪村がフォロワー100万人なんだから、私なら1兆人くらい居てもおかしくないのに!


「で、でも、わるいよ流石に……いっても2000円だし……」


「内めろって誕生日いつ?」


「……は、半年前……」


「じゃー四捨五入したらだいたい今日だね!

 誕プレってことで!」


「ぜ……ぜんぜん四捨五入になってないんだけど……!」


 そのうちにスイーツが次々と運ばれてきた。

 白桃が乗ったものや、お花のブーケみたいなデコレーションされたものや、苺が何個かわからないぐらい使われている奴とか。

 他にも分厚いフルーツサンドとか、ソフトクリームが何本もテーブルに置かれる。


 そして最後に件のピーナッツチョコのパフェが運ばれてきた。

 ブランデーでも入ってそうなグラスの中に、ソフトクリームやらジュレやらピーナッツチョコやらが綺麗に詰められている。

 そのトップにはモンブランみたいなケーキ……恐らくピーナッツで作られたのだろう……が丸ごと一個乗っていた。


 う、うまそう……!

 私もたまにはパフェ食いてえ……!


 ダイエット中の私には苦行すぎる光景だった。

 口元が寂しすぎるので、仕方なくお冷をチビチビやる。


「す……すごいね雪村さん、これ……!

 ありがとう……!」


「うん♡

 ってかパフェ溶けちゃう!

 早く食べよ!

 はいアーン!」


 雪村がパフェの天辺にデコレーションされていた渦巻き型のピーナッツチョコを1つ摘まんで、内木の口元へとつき出した。


「え……あ、い、いいよ……!

 自分で食べるから……!!」


「そう?(パクッ)……じゃ、内めろがアタシにアーンして!」


 言って、今度は雪村が口を開ける。


「え……」


「は・や・く! 

 パフェ溶けちゃう!」


「う、うん……!」


 内木は恐る恐るチョコを雪村の口元へと運んだ。

 すると、


 パクッ!


 雪村は、内木の指ごとチョコを食べてしまった。


 あ……!?

 アイツ内木の指咥えやがった!?

 私ですら内木が切った爪をこっそり拾って舐めたことしかないのにイイイイイイッ!?


「ちょ……!? 雪村さん……!?」


「むぐむぐ……えへへ♡ 食べちった♡」


 ペロリ、舌を出して謝る雪村。


 誰がどう見ても2人は仲よさそうだった。

 まるで本当の恋人みたいに見える。


 それを受けて私は、


「イッイッイッ……!

 愛しのラバーと変態ウィークエンド……ッ!

 内木とカフェでラブラブエロタイム……ッ!

 ウッウッウッ……!」


 血の涙を流しながら雪村を睨みつける。


 ぢぐじょおおおおおおおおッ!!

 私も内木とあんな事やこんな事したいのにイイイイイイイッ!!!


 もう1秒たりとも見ていられなかった。

 雪村の性格からして、いつ告白するか分からない。

 一刻も早く2人のデートを阻止しなければ……!


「あ!

 アタシちょっとトイレいってくるね!

 漏れちゃう!」


 雪村が席を立った。

 内木を一人残してトイレへと向かう。


 チャンス!?

 この隙に内木を強奪する!!

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