【17】師弟対決の決着

 本来の力を取り戻した今。俺とアリネの剣の実力はほとんど同じか、アリネの方が少し上ぐらいであった。勝負の決め手は魔法。それも炎鎧えんがいで打ち消されないほどの魔法。


「うちを倒すって言ってたけど、あれだけ時間をあげたのにこんなもんなのかい?」


 確かに剣の実力自体はさほど変わっていない。それもそうで一番力を縛っていたのは魔法の方なのだ。というのも、魔力量、そして魔力を魔法に変える効率をあえて悪くするような制限をかけることによって自分の力を縛っていた。


「アリネ。昔みたいに授業をしてみようか」


「……はぁ!?」


「とりあえず……、離れようか」


 アリネの体に手を当てて魔頸まっけいで吹き飛ばす。ただ溜めた魔力を手のひらから一気に放出するだけのこの技で、殺傷能力自体はないものの、敵と距離を取りたいときには重宝する。それでも、アリネを転ばすことはできない訳だが。


「こほっこほ……!! あんた、色んな技が使えるんだねぇ」


 腹をさすりながら立ち上がるアリネであるが、それほどのダメージは受けていなさそうだ。


「まず、俺は魔力量と魔力変換の効率をあえて下げて自分の力を制限して生活していた。もしその制限を解除した場合、どうなると思う?」


「何を言って……」


石弾ストーンバレッド


 拳ほどの大きさの石の塊がアリネに向かって飛んで行く。


「な……!! くそっ!!」


 咄嗟に大剣で防いだアリネであったが、先程までの余裕に溢れた表情は消えていた。


「魔法の威力が上がるんだ。まぁ、火を消す時に水溜りよりも湖、コップよりもバケツを使った方が素早い消火ができるのと同じだな」


 続けて魔力を変換する。今まで封じられていた魔力がこれ幸いといわんばかりに全身を駆け巡っているのを感じる。


「さて、久しぶりの授業はここまでにして……」


 アリネに剣の切っ先を向ける。


「アリネ。今まで不甲斐ない姿を見せて悪かった。時間も時間だ、そろそろ終わりにしようか」


「……そうだね。うちもいい加減この戦いにも飽きてきたところなんだ」


「全力でこい。さっきまでの俺とは思わない方がいいぞ」


「ハハハ……、そうだね。これはあまり使いたくなかったけど、全力を出すにはこれを使うしかないから……。後悔しないでね」


 アリネはそう言って不敵な笑みを浮かべるとガクンっと俯いた。いや、俯いたというよりも全身を脱力させたに近いかもしれない。


 いったい何をしてくるのかと相手の出方をうかがう。すると、炎鎧えんがいが解けたかと思うと、アリネの体から黒に近い紫色のもやのようなモノが出てきているのが見えた。


 あれは……、まさか狂化バーサークか? これはまた珍しいスキルを……。


 狂化バーサークは俺の制限開錠アンロックリミットと似たスキルなのだが、根本的な部分が違ってくる。制限開錠アンロックリミットは抑えていた自分の力を元に戻すことによって自分を強化するのに対して、狂化バーサークは本来の自分の力を上回る力を手に入れることができるスキルだ。ただ、思考が攻撃的で残虐的になり過ぎてしまうという点が欠点なのだが……。


 そんなことを考えていると、アリネがゆっくりと顔を上げた。楽しくてしょうがないといった様子で口元には笑みを浮かべてはいるものの、その瞳には狂気が宿っている。


「アリネが狂化バーサークを使えるなんて驚いたよ。やっぱり、12年という年月は人の新しい一面を表に出すって訳だな」


 アリネに語り掛けてみるも、聞こえていないのか無視しているのか分からないが、何も言わずにただただ俺を見つめている。


 刹那、アリネが間合いを詰めてくる。振り下ろされる大剣。強化されたアリネの振り下ろし攻撃をこの剣で受けるのは得策ではない。体を捻りながら横に避ける。


「やるじゃないか。ただ、前にも言ったけどアリネは魔法が使えるんだから、剣の練習ばかりじゃなくて魔法の練習も……」


 薙ぎ払われる大剣。大木ですら横一文字に切り裂けるほどの鋭さではあるが、目で追えないほどではない。石盾ストーンシールド石籠手ストーンガントレットで的確に防ぐ。予想通り、石盾ストーンシールドは割られてしまったものの、石籠手ストーンガントレットまでは割れなかったようだ。


 今度はこちらの番だと魔法を放とうとしたのだが、危険を感じたのかアリネは即座に後ろに飛んで距離を取った。狂化バーサークによって、そういった感覚もより敏感になっているのだろう。


「アリネ、お前の全力が見れて嬉しいよ」


 アリネとの距離を詰める。すると、アリネも同様にこちらに向かって走り出した。間合いに入った俺に向かって振りぬかれる大剣。正確であり、尋常ではない速度で首をはねられたかのように思われたが……。


「幻影だよ」


 自信の幻影を生み出す魔法の幻影ファントムによって生まれた隙を見逃さず、アリネの懐に潜り込んで手のひらをアリネの腹の上に乗せる。


「確かに油断しなければお前は勝てるはずだった。ただ、ちょっと相手が悪かった」


 ゼロ距離で放たれた雷波サンダーウェーブはアリネの体を駆け回る。力なくもたれ掛かってくるアリネの体を受け止めて抱きかかえると、ソファーまで運んでそっと寝かせた。


「……なんとか勝てたけど、情けない勝ち方だったなぁ」


 戦いの反省をしつつ、起きたアリネに暴れられても困るため一応拘束魔法をかけておく。ヨウ達のことも心配だったが、アリネがいつ起きるのか分からないため、ひとまずこの場に留まることにした。


 苦戦を強いられた師弟対決であったが、何とか勝利を収めることができたのであった。

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