【16】アリネとの師弟対決-2

 振るう剣はより鋭く、放つ魔法は、火魔法であればより高温に土魔法であればより硬くなっている。先ほどまで押されていたのが嘘であったかのように、今度は逆に俺がアリネを押しつつあった。俺に押されてじりじりと後退しているアリネであったが、そんな中でも何とか攻撃を防いでいる。


「くっ……。どこにそんな力が……!!」


 制限開錠アンロックリミットは自分が持っている本来の力を制限する魔法の制限施錠ロックリミットと対をなす魔法である。この魔法自体は何てことない魔法だが、これを使える者は俺ぐらいであろう。なんせこの魔法を開発したのは俺なのだから。


 力を制限した状態を維持したうえで鍛えるためにこの魔法を自分自身にかけていたのだが、今のアリネに力を制限して勝てるほどの余裕はない。


「ほらほら、形勢逆転じゃないか?」


「へっ、随分と……、生意気だな!!」


 横に薙ぎ払われたアリネの攻撃を後方に飛んで避ける。アリネもただただ一方的にやられているだけではなく、攻撃を受けつつも反撃の機会をうかがっていたようで、攻撃と攻撃の合間の隙を付いてくるのは流石だなと感心する。


「どうやったのか知らないけど、いきなり強くなるなんて……。うちも負けてられないね!!」


 アリネの手のひらからゆらりと揺らめく炎が上がったかと思うと、その炎が徐々に大きくなりアリネの体を包んでいく。


 あれは……、炎鎧えんがいか。なるほど、中々いい魔法を使うじゃないか。


 身体に炎の鎧をまとう炎鎧えんがいという魔法。その魔法自体はただの炎であるため刃を防いだりする力はないものの、相手が懐に入ってくるのを牽制したり、弱い魔法を防いだりすることは可能である。そのため、アリネよりも短いリーチで戦う俺にとっては嫌な魔法であった。


「魔法が苦手だったお前がそんな魔法を使えるようになってるなんてな。成長したなアリネ」


「さっきから上から目線でイライラさせる子供だねぇ……」


「アリネだって俺からしたらまだまだ子供だよ」


 ハンッと鼻で笑ったアリネは一気に間合いを詰めてくる。先程までであれば攻撃を防ぐだけでよかったが、炎鎧えんがいを身にまとったアリネに不用意に近づくのは危険だ。


「形勢逆転だね!! 逃げてるだけじゃ勝てないよ!!」


 アリネの攻撃を防ぎつつ、距離を取りながら戦ってはいるが防戦一方であった。いくら制限していた力を解放したとはいえ、元々アリネが強いこともあり中々反撃に転じることができない。


 何とか距離を取って魔法で攻撃しようにも、


地割斬ちかつざん!!」


 地面を割りながらこちらに飛んでくる斬撃を躱している間に距離を詰められる。


「くっ……!!」


 弱い魔法では炎鎧えんがいで塞がれてしまう。それを打ち破るにはある程度強い魔法を放てばいいのだが、そんな魔法を放つ魔力を練ることすら許されない。どこまでも接近戦での戦いに持ち込まれ、立場は逆転してじりじりと後退せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。


 くっそぉ……、前の体だったら苦戦なんかしないのに……!!


 以前の肉体、つまりクレザスの体であれば魔法の使い方が体に染みついていたため、魔法を使うのに時間はかからなかった。ただ、今の肉体はフェリガンの体であるため、より上位の魔法を使おうとするとどうしても時間がかかってしまう。


「ほらほら!! ここからどうやって勝つのかを見せてくれよ!!」


「まったく……!! どうしてこんな力を持ちながら盗賊になったんだ!!」


 これほどの力があれば、いくらでも働き口はあったであろう。冒険者にしろ騎士にしろそれなりのところに到達することは難しくない。そのため、何故盗賊になって人に迷惑をかけながら生活しているのかといったことが気になって仕方ない。


「あんたがうちに勝てたら教えてあげる……よ!!」


 薙ぎ払われた大剣を紙一重で後ろに飛んで躱したと思ったが、腕からツーっと真っ赤な血が流れる。致命的な攻撃はくらってはいないものの、体の至る所に切り傷や軽いやけどの負っていた。この程度の傷であれば回復魔法でどうにかなるが、そんなことをしている時間すら惜しい。


 部屋の中を見渡す。洞窟をくり抜いたとしてはかなり広く、家具も必要最低限の物しかないため走り回る空間はありそうだ。


 このまま戦ってもどうせ負けるだけだし、やれるだけやってみるか……。


 大きく息を吐き、走り出した。


「おいおい、何してんだよ」


「アリネ。お前を倒すための準備だよ」


 アリネに返事をしながら足を止めずに走り続ける。いくらアリネといえども、俺をそのままにしておくということはせずに俺を追いかけて攻撃をしてくる。ただ、足を止めることなくアリネの攻撃を躱しながら走り続ける。


「はぁ、はぁ……。おい!! いつまで逃げ回ってんだよ!! さっさとかかってこい!!」


「はぁ、はぁ……」


 アリネの言葉も無視してとにかく体を動かしまくる。アリネは遠距離を攻撃できるような魔法は使えないようで、距離を詰めてくるアリネを魔法を放ちながら一定の距離を保つ。


 一見ただ逃げ回っているように見える行動ではあるが、もちろんこんなことをする理由があった。制限開錠アンロックリミットで解放された力をいきなり発揮することはできず、徐々に徐々に体に慣らす必要があった。そのため、今はとにかく時間を稼ぎつつ解放した力を体に慣らせることが最優先である。


「あー、もう!! 勝手にしな!!」


 そう言うとアリネは追いかけるのに嫌気がさしたのかソファーで寝っ転がった。普通に考えればありえない事ではあるが、アリネの様子からして別に俺を殺すことを目的にしていないことは明らかだった。それよりかは、この戦いを楽しむことを目的にしているようであったため、愚かな行動だと思いながらも賭けに出ることにしたのだ。


 最初の強敵がアリネで良かったよ。普通の奴だったら、こんなことできなかっただろうからな……。


 部屋の中を走り回ること十数分、アリネも呆れた様子でソファーに寝っ転がりながら俺のことを眺めていた。転生していることに気が付いてから力を制限していたため、12年分の制限を元に戻すにはそれなりの時間が必要であったが、ついに体と力が一致を感じることができたため足を止めた。


「はぁ……、はぁ……」


「お、やっと終わった? まったく……、それで? うちを倒せる作戦でも思いついたのかい?」


 起き上がったアリネは立ち上がって、肩を回しながらこちらに向かって歩いてくる。


「はぁ……、はぁ……」


 大きく息を吐きながらある程度息を整えて、アリネに向き直して手をかざして魔法陣を展開した。


「……焔龍えんりゅう


 魔法陣から放たれた龍の形をした炎はアリネに向かって飛んで行く。燃え上がる龍はまるで吠えているかのような音を響かせてアリネを襲う。


「な……!? クッソ!!」


 アリネは焔龍えんりゅうを横に転がりながらも避けるも、焔龍えんりゅうは踵を返して再びアリネを襲う。


「あー、うざい!!」


 そう言いながら振り上げたアリネの大剣は焔龍えんりゅうを真っ二つに切り裂き、焔龍えんりゅうは空気中に消えた。


「まさか、まだそんな力を隠していたとはね」


「待たせてすまないアリネ。ここからは本当の全力で行くぞ」


「はんっ!! いいよ、かかってきな!!」


 師弟対決の最終戦が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る