第22話 怪進撃 2
夕日はコンバットナイフを構え臨戦態勢に入り、真紅の瞳を煌々と輝かせ扉を睨む。
木製扉を突き破った二本の腕は、部屋の中に戻っていった。立て付けが悪くなった扉がギィーっと音を立てゆっくりと開く——ズチャリズチャリとおどろおどろしい足音たて部屋の中から二本の痩せぎすの腕を肩から生やした狼犬が姿を現した……歯を剥き出しにし唸り威嚇する姿は獰猛と言う言葉がよく似合う出立ちであった。
あいまみえる宿命のように両者は相互が敵である事を認識した。姿形は命の言っていた通りであり夕日は不敵に微笑む。言葉も懸念もいらない敵が欲しかった。ただの犬探し、ガキのような狼人間、どれも退屈で刺激が足りない、あたしの生業に甘い物などいらない、欲するは血潮舞う争いだ!
「……犬公、主人はどうした」
夕日は狼犬に問うた。狼犬は、一瞬の間を持ち、血の付いた口が不敵に笑ったように見えた——狼犬の背後の部屋を見遣る、部屋は闇が口を開いてるみたいに昏く沈んでいた。夕日は悟る……あぁそうか、と
「それじゃ、遠慮なく、ぶちころす——」
夕日が喋り終えた瞬間に、仕掛けたのは狼犬であった。瞬発力を活かした突進は弾丸そのもの肩から伸びだ腕を突き出し襲いかかる——逃げ場のない廊下、夕日は正面からそれを受け止める。
狼犬は夕日の構えたコンバットナイフ噛みつき、武器を制圧そのまま夕日を押し倒そうと、痩せぎすの腕が首元に手をかける寸前のところで夕日は逆に狼犬の首を捻り上げ、柔道技の一つ体落としのように自身に引き込みフローリングに叩きつけた——狼犬は咥え込んだナイフは離さず痩せぎすの腕で応戦、鞭のようにしなる腕は夕日を薙ぎ払い玄関先まで吹き飛ばした。
「チッ」
舌打ちを鳴らし狼犬を睨む。攻めあぐんでいる自分に嫌気がさしたようだ。夕日の戦闘スタイルは常人離れした速力にあり、縦横無尽に駆け回り相手を翻弄することを得意としている。しかしここは豪華絢爛な富裕層の家と言っても所詮は家でしかなく夕日にとっては狭すぎるのだ、おまけに予想以上に痩せぎすの腕が厄介極まりない——先ずは狼犬から生えた腕を削ぐ。
夕日はナイフを構える。
違和感——狼犬の腕は先ほどまで二本だった、なのに今は三本……数え終える頃にはバキバキと音を立て四本目の腕が生えてきた——
「厄介——」
フローリングを砕く勢いで狼犬に飛び掛かる。
いとまを与えない速力で突っ込み横凪にナイフで切り付ける。だが狼犬は後ろに飛び、回避、そのまま器用に四本の腕を使い壁を蜘蛛のように登って行く。それを目で追うより速く身体を動かし、追撃——ナイフを上段に構え飛び掛かる真向斬り——しかし夕日の面を割る勢いの斬撃を片腕で掴み壁を踏み台にし夕日に突進した。そのまま壁を突き破り隣の部屋へと投げ出された。
狼犬がマウントを取る形で夕日の上に覆い被さりニ本の腕は夕日の腕を押さえつけ残った二本は首を締め上げる——だが、夕日は怯まない絶体絶命の状態であっても、真紅の瞳をギラリと輝かせ押さえつけられていた腕を押し返す。
そして腕の拘束を振り解き夕日自身も狼犬の首を両手で締め上げる——
「あはっ! ごんぐらべといごうぜ!!」
夕日の剛力で締め上げられた狼犬は全身をばたつかせ抵抗する。夕日に振り解かれた腕で殴りつける。夕日は狼犬を下から渾身の力で蹴り上げる、狼犬は天井に叩きつけられバウンドするように地面に戻った。
狼犬は自身を蹴り上げた敵を探す……いない狼犬は夕日を一瞬見失った——だがその一瞬が勝敗を分けた。夕日は狼犬を蹴り上げた瞬間に耐性をすぐに整え落としていたナイフを拾い上げ狼犬の背後をとった——ドスッ、夕日は刃渡り三十センチあるコンバットナイフを狼犬の頸椎辺りに深々と突き刺した
——決着
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