第4話

 燃えていたのは、華ちゃんの働くお店だった。


 街の人たちが見物しにやってきていて、炎の明かりに照らされて見物人の顔が見えるが、華ちゃんのおやっさんは見えなかった。



「……私のお父さん、……まだ中にいる」


 華ちゃんは、水をかぶって燃えている店へと飛び込もうとする。


「ばか! 危ないよ!」

「でも、でも……」



「せっかくの白い肌がもったいないよ。私がいく!」


 私は、華ちゃんから水を奪い取って、それをかぶって中へと入っていく。





「おやっさんー! いるー?」


 燃える店内。

 中の柱が倒れていて、店も倒壊寸前だと思われた。

 そんな倒れている柱にのところに、おやっさんがいた。

 柱に足が潰されているようだった。


「向かいの団子屋か。すまんな、わしなんかのために……」


 おやっさん初めて見たけど、華ちゃんに似てる……。

 可愛らしい顔をしていた。



「わしの団子屋の事なんて恨んでいたじゃろ。客が減ってしまって」

「悪いことは無いです! 私が拗ねていただけ。ここの団子屋は最高にいいよ。娘さんも!」


 おやっさんは優しい笑顔になった。


「お前さんみたいな子が、あの娘と一緒になってくれたらな……わしの最後の願いじゃ……」

「そんなこと言わず、まだ死なないでね!」


 ――ゴオゴオ。

 ――ガタン


 燃え盛る炎によって柱が崩れて、来た道がふさがれてしまった。

 流石にこれじゃあ出れない……。


 どうしよどうしよ。

 ……私もここで終わりか。


 ……華ちゃんに悪いことしちゃったかな。

 私は良いからせめておやっさんだけでも。


 けど、どうやっても助けられそうにない。

 ゴメン……華ちゃん……。




「こっち!」


 その時、華ちゃんの声が聞こえた。

 いつもはか細いのに、大声で。


「早く!!」


 勝手口の方から回ってきてくれたんだ。



 細くて長い手を私に伸ばす。

 その手を掴むと、ひんやりと冷たい。


 こんな手をしてたんだ。


「諦めないで!」



 私は、最後になるかもしれないと。

 伝えずにはいられなかった。


「私は華ちゃんのことが好きだったよ。認められなかっただけなんだ。お団子屋さんとか抜きにしたら、華ちゃんのこと、とっても好きで」


 華ちゃんは、いつもは見せない表情を見せた。

「いつでも明るいのが取柄でしょ! 目を覚まして下さい!」


 そういって、私を励ましてくれた。


 助けに来てくれた華ちゃんと二人で、おやっさんの肩を支えながら炎の中を進んでいった。



 続く。

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