最終話 海がくれた勿忘草(後半)
「そういえば、佳澄ちゃんなんか話したいことあったよね?」
「あっ、はい!でも大したことないので忘れてくださいっ!」
「いいよ、私の話聞いてくれたから。なんでも聞いてよ」
と拳で胸を軽く叩く七海華先輩は先駆者のように誇らしい。その優しさと強さに甘えてみる。
「じゃあ……」
「うん」
「先輩は、なんでボトルメールを流そうって思いついたんですか?」
「それはね、友達がほしかったの。人魚だけど、私」
「人魚?先輩は人魚……なんですか?」
「そうだよ?って言っても前世だけどねー!」
「ぜ、前世?前世なんてわかるものなんですか?」
「うーん。上手く言えないけど、夢を見たというか」
「そうなんですね!」
あの時見た夢は、前世の私たちなのだろうか?それとも――予知夢なのか?
「佳澄ちゃんにはやっぱり嘘つけないな」
先輩は、ついに信じられない事実を明かした。
「佳澄ちゃんが拾ってくれたあのウイスキーの瓶は私に手をあげていた父を殺めた時の毒入りウイスキーが入ってたの」
「……え?」
「まあ、普通に引くよね。でも、私は……欲しかった。男性でも女性でも、私を『好きだ』って言ってくれる、心から一人の女として愛してくれる人を」
「男性でも、女性でも?」
「カミングアウトするとね、私……バイセクシュアルなの……」
「えぇ!?」
「だからさ、本当は誰でも良かったの。私を好きになってくれる人なら。フィクションの映画じゃなくて人生の。まさか、凛ちゃんがあの佳澄ちゃんだって分かった時は、かなり動揺した。それ以上に嬉しかった。なぜなら、私は佳澄ちゃんが好きだから」
「あの、七海華先輩……私はレズなんです。先輩は私の初恋の人で、一人の女性として好きなんです!」
私は勇気を振り絞って言った。こんな私だからこそ嫌われるのを覚悟で。
しばらくの沈黙の後、先輩はこう言った。
「良かったー!両思いで。引かれたらどうしようかと思った。私は浮気しないから、大丈夫!」
嘘なのか本気なのかわからないけど、七海華先輩を信じようと思った。
「せっかく実った恋だけど、私は行かなきゃいけない。人を殺めたから。ごめんなさい」
「えっ?」
「人魚が人に害を与えると泡にならなきゃいけないの!だから、本当にごめんなさい!」
そう言って七海華先輩は部屋を出た。
焦って引き止めようと掴んだ先輩の腕を彼女は振り払う。追いかける私を浜辺で引き寄せ、クリームソーダのアイスが溶けたような甘くてクリーミーなキスをした。
それからすぐに私を置いて、七海華先輩はそのまま海へ飛び込んで泡となってしまった――
握っていた掌を開くと私の手の中に勿忘草の絵が描かれた紙があった。
七海華さんが最後に遺した私へのプレゼントだった。
海がくれた勿忘草 りつな @knity627
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