第54話 高額落札

 奴隷市場、沸く観衆たち。

 その鎖に繋がれた銀髪の娘は俺の方を見て、目で訴えかけた。


 助けて、と。


「金貨120枚!」


「金貨150枚!」


 どんどん値段がつり上がっていく。


「金貨200枚!」


 と俺は言った。それ以上の値を提示する者は誰もいなかった。


「では、金貨200枚で落札です!」


 さすが夕陽のクレドだ、クレド商会は景気がいいな、などと野次が飛び交う中、その娘を迎えに行く。


「お前、名前は?」


「……メリル」


 先程とは打って変わって気まずそうに目をそらすメリル。そんな彼女の手を取る。


「行くぞ」


「……はい」


 メリルのドレスを脱がせ、下腹部に奴隷印を刻む。


 それに対応した指輪をはめて一連の儀式は完了だ。


「じゃあ行くぞ、メリル。まずはそのボロボロのドレスを買い替えないとな」


「はい」


 従順だが、リン以上に口数の少ない娘だ。俺は彼女の手を引いて往来を歩く。


 道行く人が振り返らずにはいられないほどメリルは美少女だった。上等なドレスを着せれば、もっと美しくなるだろう。



 ビアンコ古物商店にいつもの店主はいなかった。


「どうした、クレド」


 代わりに、ウォルゲイトが憮然とした表情で店番をしていた。


「ビアンコさんならいない。今は俺が店番を任されている。魔晶石貿易のことなら心配はいらない。信頼できる部下に任せてある」


「いや、今日はその件じゃないんだ」


「というと?」


「この娘のドレスを買いたくてね」


「ん?」


 ウォルゲイトがメリルに視線を移すと、彼女はばつが悪そうに目を逸らした。


「その娘はどうしたんだ」


「新しく手に入れた奴隷だ」


「そうか。とやかくは言わないが、その奴隷に見合ったドレスを探せばいいのだな」


 ウォルゲイトは店の奥から漆黒のドレスを探して持ってきた。


「背中は開いている形だ。サイズが合えばいいが。裏で着てみるといい」


 メリルはドレスを持って奥へと入って行った。


「クレド、ヘルダーの討伐は見事だった」


「ああ、たまたまいい銃弾があってね」


「それはそれとして、一つ、不穏な動きがある」


 ウォルゲイトは声のトーンを落として言った。


「というと?」


「ウロボロスの幹部が全員、殺された」


「何だって?」


「それをやったのがどうやら、アルカードという奴らしいんだ」


 アルカード、俺を遺跡に置き去りにした首謀者。許してはならない敵。


「お待たせしました」


 店の奥からメリルが黒いドレスを着て出てくる。


 それは銀髪に映え、夜光蝶のようによく似合っている。


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