第53話 銀髪の少女

「アイアンランクからブロンズランクへの昇進、おめでとうございますぅ~」


 冒険者としてようやく底辺から一歩上り詰めた喜びが込み上げる。あれ以来、魔王軍を追い返した英雄として俺は有名になった。あの場を遠くから見ていた冒険者が都市中に広めたようだ。今では、夕陽のクレドという通り名で呼ばれている。


「冒険者ギルドのまたのご利用、お待ちしていますぅ~」


 イコーヌの間延びした声を聞きながら外に出る。報奨金もたんまりもらった。魔王軍の脅威は未だにあるとしても、とりあえずは良しとしよう。



「よう、兄ちゃん。今度は魔王軍を撃退したんだって? やるじゃねえか」


「あんたにもらった聖弾が役に立った。本当に感謝している」


「やはり、使ったか。どうだ、アンデッド系には効いただろう」


 ダンデは白い歯を出して笑う。


「次の戦いに備える必要があるだろう。ほら、ご注文の品だ」


 そう言ってダンデは青色に鈍く光る弾丸の入ったケースを取り出した。


「ミスリル弾だ」


「ほう、これはすごいな」


「加工費だけいただくぜ。後は、自由に使ってくれ」


 ミスリル弾をアイテムボックスにしまう。


「今後も、活躍を期待してるぜ。夕陽のクレド」


「ああ。また何かあれば頼む」



 その日、リンとエリーシェを連れて来なかったのには理由がある。


 まもなく奴隷市場の開幕の時間だった。席に着いて奴隷たちが鎖に繋がれてやって来るのを待つ。


 今の資金力なら、買い放題だな。


 どれほど美しい奴隷が買えるか楽しみにしつつ、女奴隷たちが落札されていく様を見る。


 中には嫌がりながら奴隷印を押される者もいる。少し哀れみを感じつつも、金で買われたのだから仕方のないという気持ちにもなる。

 この都市では金の力は凄まじい。だからこそ、俺も真っ先に着手したのは貿易だった。


 冒険者というのは命を張る割にもらえる報酬は少ない。それに気づくのに大した時間は掛からなかった。もちろん、レベルを上げて強くなりたいというのはあるが、元々チート級の武器を持っているので後回しにしていた。


 賑わいを見せる奴隷市場、そんな中で俺は一人の奴隷に目が釘付けになった。


 銀髪ロングに白い肌、スレンダーだが胸はあり、華奢である。薄布を身にまとい、銀色の瞳は憂いを帯びている。

 まつ毛が長く整った目鼻立ちはかなりの美少女。こんな娘を首輪で繋いで奴隷にするなんて神への冒涜のようだ。


「この奴隷はドゥーリアから仕入れた18歳、元は領主の娘だ」


 ドゥーリアと言えば東の森の先にある辺境の領主国のはずだが、その娘、いわゆる貴族が奴隷になっているなんてどういうことだ?


「金貨100枚!」


 いきなり破格の値段が提示された。その娘は、何か助けを求めるような瞳を宙に浮かべている。その横顔も女神の生き写しのように美しい。


 俺は、その娘がたまらなく欲しくなった。

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