第48話 ドゥラクル

 顔色の悪いリンをルーナの家に置いて、俺はビアンコ古物商店に向かった。


「首尾よく行ったかの。良かった良かった。これでクレド商会の貿易も続けられそうじゃの」


 古物商店は変わり映えのしない様子で、ビアンコの描いた絵画の量は増えていた。


「まあ、良いことばかりではないんじゃが」


「どういうことです?」


「暗闇のジンクの死体がビアンコ商会の商館の前で見つかっての」


 ビアンコは曲がった腰を伸ばすと、一個のアイテムを取り出した。


「千里望鏡。奴が持っていた貴重品じゃ。本物と見て間違いない」


「それは、遺跡から盗み出されたもの?」


「いかにも」


 暗闇のジンク、あの根暗野郎が殺されただと? 一体何のために、誰が殺したって言うんだ。


「この千里望鏡はどこでも見通せる、いわゆる千里眼の能力を持った望遠鏡じゃ。お前さんにやろう」


「もらってもいいのか?」


「何、今回の件のわしからの報酬じゃ」


 俺は千里望鏡を覗いてみた。しかし、何も見えない。


「……ジンクは誰に殺されたんだ?」


「奴の体には深い切り傷があった。刀傷ではない。爪のようなもので切られたような……」


「アルカードか」


「いかにも」


 どういうことだ、仲間割れか?


「アルカードは今、どこにいるんだ?」


「それはわからん。じゃがのう、ここからは極秘の情報なんじゃが……奴はどうやら魔界へ行っていたらしいのじゃ」


「魔界へ? 何のために?」


「無論、自身にかけられた封印を解くため、じゃよ」


「封印?」


「このディバンを作ったのが元は三人の冒険者だったという話は聞いたじゃろうか」


「戦乙女ステラの話か?」


「ステラと、現協会長のセオドア、そしてもう一人おる」


「まさか……」


「そのまさかじゃ。アルカードの本当の名前はドゥラクル。ドゥラクルは強すぎる力と攻撃性を持ち合わせておる。故に魔公セオドアはドゥラクルを封印し、廃教会の地下に封印した」


 アルカードがこのディバンを作った冒険者の一人? にわかには信じがたい。


「目覚めたドゥラクルはアルカードという名で活動していたようじゃが、魔界の門が開いたことで、彼は魔王に謁見することができるようになった。そこでセオドアにかけられた封印を解いたのじゃ」


「じゃあ、今の奴は」


「本来の力を取り戻し、無敵じゃ。協会長のセオドアでも勝てるかどうか……」


 そんな奴を野放しにしたら、この世界が滅茶苦茶になってしまう。


「とりあえず、お前さんはよくやった。少し休息を取ったらどうじゃ? それに、屋敷と商館も必要じゃろう」


「いえ、俺にそんなことをしている暇は……」


「遠慮するでない。何なら、空いている屋敷を一つ買わんか? 商館も、ビアンコ商会のものが一つ空いておる」


「それは、いい話だが……」


「じゃ、決まりじゃの。心配せずとも、いい屋敷じゃよ。閑静で、庭付きじゃ」


 ついに自分の屋敷を買えるまでになった。それでも、アルカードの動静は気になる。ジンクが死んだとなれば、いずれ俺も狙われるかもしれない。


 不穏な空気を感じ取った。また一悶着起きそうだ。

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