第47話 魔晶石トロッコ
鉱山都市で数週間休むうちに状況は好転してきた。
魔晶石鉱山の元の持ち主はロックスに奪われた鉱山を取り戻し、これまで通りディバンにも魔晶石を供給することを決定した。
俺は崩れた魔晶石鉱山を地の宝珠で直す作業に追われたが、手伝ってくれる鉱夫がいたおかげで首尾よく進んだ。
これで、クレド商会の未来も明るい。
慈善的な謎の仮面の男、として噂になったのはいただけなかったが。
「リン、体の調子はどうだ?」
「はい、かなり良くなりました」
ポーションと雑貨屋で買った適当な薬だけで回復してくれたのはありがたい。
「そろそろ帰れそうか? みんなに報告もしたい」
「動けます。馬にも乗れます」
「いや、馬は売った」
「ええ?」
リンは複雑そうな顔をした後、口を開いた。
「それはつまり、この町で私と暮らしたいと、そういうことですか?」
「いや、違う」
「ええ!?」
まだ熱でもあるのだろうか。額に手を当ててみたが特に異常はない。
「じゃあ、どうやって帰るのですか?」
「トロッコを使って帰る」
「トロッコ?」
「魔晶石で動くトロッコだ。まあ、下り坂だから推進力だけで行けそうだが」
とりあえず宿屋から帰る準備をする。
ディバンの様子も早く知りたいしな。
「ご主人様、本当に、これでディバンまで……」
「かなりスピードは出るから、振り落とされないように注意しないとな」
「いえ、そういう問題では……」
トロッコは鉄の箱に雑に車輪がついたような作りだった。一応手すりはあるようだが、人を安全に運ぶ設計にしては問題がある。
「じゃあ、行くぞ」
「え、少し待っ――きゃあああああああああああ!」
すごい速度で暗い坑道を滑り降りるトロッコ。ディバンまで続いている……という話である。
途中でレールが壊れたりしていないといいが。
ジェットコースターだと思えば、意外と楽しめるかもしれない。
リンの絶叫がトンネル内を響き渡るのを聞きながら風を感じていた。
トンネルを出て、速度はゆるやかになっていった。後は魔晶石の力で推進する。もうすぐにディバンに着くはずだ。
速度が一定になると、リンはトロッコの外にゲロゲロと水っぽいものを吐き出した。
「大丈夫か?」
「うう……」
衰弱しきっているリン。せっかく良くなったのに、これではまた休むことになりそうだ。
「大変な思いばかりさせて、すまないな。早くディバンに帰りたくて……」
「いえ、私のことは、ご心配なく!」
そう言ってまたリンは外に吐しゃ物をまき散らした。
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