第46話 対ロックス戦

「死ねええええええい!」


 振り下ろされたロックスの斧を転がって避ける。


 そして銃口を相手に向け、至近距離で引き金を引く。


 煙幕弾!


 煙幕弾はロックスの鎧にガキィン、と弾かれる。


 なかなかいい防具使ってやがる。


 俺は煙幕の中を走り、煙が充満する部屋から飛び出る。

 さすがにすごい威力だ。


「奴め、姑息な手を!」


 怒気をはらんだ声が小屋の中から聞こえる。

 やがてむせ返りながら髭もじゃのドワーフが現れる。


 岩に囲まれ、開けた空間でロックスと対峙する。


「儂の雷撃を受けてなぜ麻痺しない?」


「麻痺耐性のお守りを着けているのさ」


 装備欄を風耐性のお守りから麻痺耐性のお守りに変えておいた。


「なるほどのう。そうすればこの儂に勝てるとでも思ったか、馬鹿め」


 ロックスが間合いを詰めてくる。


 俺は右に回り込みながら、牽制の弾を放つ。


 キィン、キィン、とロックスは弾を斧で弾く。


 潜伏スキルを発動してリロード。次こそは決める。


「奴め、どこへ行った!?」


 ロックスはLv6以上の索敵スキルは持っていないらしい。しかし、近づきすぎると気づかれる危険性がある。


「ここだ」


 ロックスの背後から徹甲弾を放つ。


『マグナムブラスト!』


 ロックスは背後からの一撃を目で見ずに、斧で弾く。しかし、反動で地面をゴロゴロ転がる。


「歴戦の勇者を舐めるなよ」


 ゆっくりと立ち上がったロックスの目には闘志が宿っている。


「ロックスの旦那あ、これを!」


 小屋の中からリックが何かを放り投げた。


 あれは――。


 地の宝珠。


 それをロックスは片手でキャッチする。


「なぜ儂が容易く鉱山を占拠できたか、わかるかのう?」


「地の宝珠を使ったのか」


「がーっはっは、貴様も地の宝珠の力を味わえ!」


 地響きがして頭上の岩が崩れて落ちてくる。


「クソッ、ロックス!」


 落盤を起こす鉱山。岩が落ちてきて俺を生き埋めにする。



「あっけないのう。実にあっけない。儂に復讐することもできず、何も守れない」


「それはどうかな」


 大量の水が岩を押し上げ、濁流を巻き起こす。それは小屋を巻き込み、押し流す。


「何だ、これは――!」


「宝珠を持っているのはお前だけじゃないってことさ」


 片手で水の宝珠を掲げてほくそ笑む。


「何を、もう一度落盤を……」


「遅い!」


 ずぶ濡れのロックスに向けて、一撃を放つ。


『ファイアブラスト・ライトニングボルト!』


 電撃をまとった一撃がロックスの鎧にぶち当たる。


「ぎゃああっ!」


 地の宝珠も、斧も取り落として感電するロックス。膝をついて動けない。


「どうだ、普段自分が使っている雷撃の味は」


「む、貴様……」


「勝負あったな」


 徹甲弾を放つ準備をする。『チャージ』で魔力を充填し、至近距離で確実に殺す。


「ま、待て。代わりにいいものをやろう。小屋の中にある貴金宝石。それは大変貴重な遺跡の宝で、売れば大金になる」


「そうかい。いいことを聞いた」


 ロックスの眉間に銃口を突き付ける。


「ま、待て。儂を殺せば、ウロボロスが黙ってはいないぞ。王国も……」


「大丈夫だ。今の俺は、ただの仮面をつけた一匹狼だからな」


 地の宝珠を回収し、アイテムボックスにしまう。


「ま、待て、まだ話は――!」


「報いを受けな、ロックス」


「や、やめてくれ! 儂はこれから王国に取り入って爵位を得る手筈になっ」


 マグナムブラストで徹甲弾を発射する。


 至近距離で頭を撃ち抜かれたロックスは倒れ、もう二度と豪快に笑うことはできなくなった。


 その無様な屍は、濁流に沈んで起き上がることはない。



 さて、後は貴金宝石を回収すれば――。


 見ると、押し流された小屋の下に何かが見える。


 輝く虹色の結晶。これが貴金宝石であることに間違いない。


 アイテムボックスにしまっておく。後で古物商店にでも持って行って鑑定してもらおう。



 鉱山の中には既に誰もいなかった。異様な雰囲気を感じ取る。


 そして、爆音。


 奴ら、鉱山を爆破しやがった。


 落盤する坑道を全速力で走る。ここで死んだら意味がない。


 命からがら鉱山の出口にまでたどり着き、ほぼ同時に鉱山が崩れ落ちた。


 金で雇われていた傭兵たちはもう既にいないようだ。


 代わりに見覚えのある人物が、数人の浮浪者のような男たちを従えて立っていた。


「仮面の旦那、これが見えますかい?」


「!」


 リックが気を失って縛られているリンを抱えて、首筋にナイフを当てている。


「俺を見逃すなら助けてやってもいいですぜ?」


「見逃さないなら?」


「少女を殺すまでで」


 俺は黙ってリックの眉間を撃ち抜いた。


 バトルスキル『ラピッドファイア!』


 リックの取り巻きも全て速射で葬る。そのスピードに誰もついてくることはできない。


 あっけなく死んだ情報屋とはもう関わることはないだろう。



「リン、大丈夫か、リン!」


「ご主人様……」


 リンは胡乱気な目で、俺の首に腕を回した。


「私、足手まといになってしまいました」


「そんなことはない。ここから離れるぞ」


 リンを抱きかかえて、トンネルを歩く。


 もう少しだ、リン。もうすぐ、宿屋に連れて行ってやる。


 そしてトンネルの出口が、見え始めた。

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