第37話 クレド商会
朝、エリーシェと露天風呂に入る。
「ちょっと……恥ずかしいです」
奴隷印もむき出しだし、裸を見られて恥ずかしいのだろうか。
この宿はほぼ貸し切り状態らしい。
二人で露天風呂に浸かる。ちょうど朝日が昇ってくるところで、山の陰影が綺麗に映し出されていた。
「まあ、俺たちしかいないんだからさ。恥ずかしがることのないって」
「……はい」
彼女はそう言って口元を湯船に沈めてしまった。
宿で一泊した後、ウォルゲイトと合流する。
入り口では封魔さんとリンが待っていた。
「皆様、昨晩はよく休めましたでしょうか?」
「ええ、問題ないです」
「それは良かったです。船旅の準備はさせましたので、いつでも出航なさってください。今回は良い商談をありがとうございました」
そう言って封魔さんは頭を下げる。
俺たちも口々にお礼の言葉を述べる。
「行くか、クレド」
「ああ」
一行を連れて船に向かう。
甲板には船員たちが屯していたが、俺たちの姿を見ると列に並んだ。
「皆、商談は成功した!」
ウォルゲイトの発言で船員たちが湧く。
「まとまった金が手に入った。航路の安全も確保され、定期的に魔晶石は購入されることになった。これからもお前たちには相応の給料を払えるだろう」
船員たちの興奮が伝わってくる。ウォルゲイトは続けた。
「そして、この貿易は今からクレド商会が受け持つ。ここにいるクレドは、この計画の立案者であると共に、海賊船長を倒し、航路の安全を確保してくれた。だからクレド商会のトップとして据える。無論、指示はこれまで通り俺が出す。俺たちに付いてくる者はいるか?」
船員たちから歓声が沸き起こる。俺は乗った、俺も賛成だ、そんな声で溢れている。
それにしても、ただの元無職がそんな商会のトップみたいな立場になっていいのだろうか。経営者か社長みたいなもの?
「では決まりだ! ディバンに帰るぞ!」
港で補給をした船は帆を上げて動き出す。
「ウォルゲイト、本当に俺がその、クレド商会のトップでいいのか?」
「お前以外に誰がいるんだ? 俺はトップなど向かない。お前はこれまで通り冒険者として名を上げろ。それがクレド商会の知名度を上げることになる。その代わり、何かあった時にはお前の力を借りたい。海賊船の時のように」
「わかった。じゃあ帰ったら、俺は冒険者として名を上げる」
今はアイアンランク、最底辺だ。いくらチートの武器を持っているからと言って、安心はできない。
「それがいいだろう。それから海路が開けたとなれば、競合者も現れそうだが、それに関してはビアンコさんに頼んで、ギルド協会に口添えしてもらう予定だ。とにかく俺たちに任せておけ」
「ウォルゲイトは、どうしてこの話に参加したんだ? ビアンコさんの命令だからか?」
「いや……それもあるが、単純に面白そうだったからだ」
相変わらず何を考えているかわからない彼は水平線の遠くへ視線を移している。
「エリーシェ、帽子を飛ばされないように注意しろよ」
「クレドさん、陰の国でお守りを買いました」
それは魔物除けのお守りみたいなものだった。
「おお、いい物手にしたな」
魔物除けがあれば薬草摘みも少しは安全になるしな。
「楽しいですね、船旅って。船員さんたちもみんな優しいし、潮風に当たるのも気持ちいい」
「海に来たかったら、また来ような」
そう言って、俺は自分の船室に帰る。
そこでは、リンがぐっすりと寝ていた。前日の夜、夜通し嬢王に旅の話を聞かせていたのだから無理もない。
そっと毛布をかけてやると、椅子に座り、船室の窓から見える水平線をぼうっと眺めた。
いろいろあったが、何か忘れている気がする。
あ、宝珠を取り返してあいつらに復讐しなければ――。
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