第38話 悪い知らせ

「君たち、帰って来たの? どうだった? 危険な目に合わなかった?」


 ディバンに帰港、ビアンコさんに結果を報告し、ルーナの家に帰ったのが夕食頃。彼女は目を白黒させて俺たちを出迎える。


「ルーナさんにイスラのお土産です」


 そう言ってエリーシェは魔除けのお守りを取り出した。二つ買っていたのはルーナにあげるためか。


「あ、ありがとう!」


「ルーナさんも引きこもってばかりじゃいけませんから」


「ボクは戦えない訳じゃないよ。戦うのが面倒なんだ」


 ルーナは温かい手料理を振舞ってくれた。キノコのクリームパスタとオニオンスープ、グリーンリーフのサラダ。


 俺とリンとエリーシェはそれをありがたく頂く。


「俺からも、ルーナに手土産だ。ありがたく受け取ってくれ」


 そう言ってアイテムボックスから金貨の詰まった袋を取り出した。


「ええ? こんなに? どうしたの? ボクに何かまたひどいことするつもり?」


「人聞きの悪いことを言うな。単なる、普段のお礼だよ」


 最初にあった晩、エリーシェと俺の傷の手当てをしてくれたことを忘れてはいない。それから、何度も泊めてくれたし、エリーシェの面倒も見てくれた。


「これだけお金があれば、最新の設備が買えるかも」


「どんなふうにでも使ってくれ」


「ってことは、冒険は成功したんだね?」


「ああ。俺はクレド商会の会長になった。もう、金の心配をすることはない」


「魔晶石を売り込むって話だったけど、うまくいったの?」


「今のところはな」


「ボクも旅の話を聞きたいんだけど」


「それなら、リンとエリーシェに聞くといい」


 そう言って食事を終えた俺は席を立つ。


「どこへ行くの?」


「酒場だ。夜に戻る」


 俺は扉を開けて夜の街に繰り出す。



「お前とも長い付き合いになったな」


「旦那、お帰りが早かったですね。イスラは楽しめましたか?」


「もちろん」


 そう言って俺はリックに金貨の入った袋をちらつかせる。


「旦那と関わって良かったって心から思いましたぜ、今」


「現金な奴だ。情報が欲しい。例の四人と、最近のディバンの情勢だ」


「ええ、もちろん調べていますとも。先に、情報料を半分頂ければ口が良く滑るんですが」


 俺は無造作に袋の中身を引っ掴むと、リックの前に置いた。


「へえ、本物だ、こりゃすげえ」


「で、情報って何だ?」


「星雲のミザリーはウロボロスに入った後、それを後ろ盾に魔女同盟のトップになったとか。今は幻惑の森に隠れていやすが、何を企んでいるかはわかりやせん。暗闇のジンクは怪しげな集団と関りを持つようになりまして、今はディバンの地下水路に隠れているそうです。後は、月影のアルカードって奴の行方が知れやせん」


 月影のアルカード。あの高慢ちきな吸血鬼か。一番最初に復讐してやりたい相手ではある。


「それで、ここからなんですがね」


 リックは意味深ににやりとした。


「何だ、悪い知らせか?」


「その通りでして、迅雷のロックス。奴は魔晶石鉱山を乗っ取って、産出量を独占するつもりらしいですぜ?」


「なん……だと?」


 よりにもよって魔晶石。クレド商会が今一番欲しているものじゃないか。


「ロックスは王都エディフィスに魔晶石を安く供給する反面、ディバンには供給を断つ。そうしてディバンの力を低下させることがエディフィス国王の計画らしいですぜ。ロックスは国王の援助も受けていやす。もちろん、ウロボロスの後ろ盾もありやす。どうです? 厄介でしょう?」


 厄介どころか、魔晶石の供給が断たれたらクレド商会は潰れてしまう。冒険者稼業どころの話ではない。


「まずはそのロックスって奴を何とかしないといけないか」


「そうですねえ。旦那。もう連中は動き始めていやすよ。まあ、あきらめて隠居するのも手だとは思いますがね」


「クレド商会が、ディバンが潰れたら、元も子もない」


「確かに、他の鉱石もロックスの手に落ちれば、ディバンはいよいよ終わりでしょうぜ」


「有益な情報をありがとう。金貨は残り全部やる。これまでの分も兼ねてな」


「太っ腹ですぜ、旦那」


「今後もよろしく頼む。俺はもう行く」


「飲まないんですかい?」


「酒どころじゃなくなった」


 迅雷のロックス。どこまで邪魔をしてくれれば気が済むんだ。あの豪快な笑い声のドワーフを思い出すと無性に腹が立った。

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