第33話 陰の国

 海賊船長を倒したことでまたLvが上がった。今度はLv25だ。新しいソーサリースキル:マグナムブラストを覚えた。どうやらファイアブラストの上位互換らしい。反動に耐えられるだろうか。どちらにしろ連射はできまい。


 その後の船旅は何も事もなく進行した。途中、リンに襲われそうになったが、エリーシェが気付いて止めてくれた。二人連れてきてよかったと思えるのはここだろう。


「陰の国に入港する。入国手形は持っている。ビアンコさんの特別サービスだ」


「ありがたいことだね」


 船員たちには船に残ってもらい、俺、リン、エリーシェ、ウォルゲイトが船を降りる。


「護衛なんかは必要ないのか?」


「君とリン以上の護衛はいないと考えている」


 それもそうか。しかしエリーシェを連れてきたのは、外国を観光させたかったのと、ついてくると言って聞かなかったのがある。


 港町は閑散としているし、城下町に入ってもどこか活気がない。ちらほら見る人々はこちらを少しうかがっては視線を逸らし、家の中に入ってしまう。

 あまり俺たちは歓迎されていないらしい。それとも排他的な国なのだろうか。

 来てみたはいいものの、瓦屋根の黒塗りの木造の建物が立ち並ぶばかりだ。江戸時代程度の文明レベルだろうか。


「すごいですね、私、こんなところに来たのが初めてで」


「そうか? 楽しいならいいんだが」


 エリーシェは目を輝かせて街並みを見学している。


「この坂を上った先が、陰の国の嬢王のいる城になります」


「嬢王?」


「陰の国は嬢王が治める国です。嬢王は限られた者にしか姿を見せません。おそらく、あなた方にも謁見の際は姿を見せないでしょう」


 女性が治める国ってことか? リンはこの国の暗殺者だったというが、その嬢王の顔とやらを見たことがあるのだろうか。


 紅葉の終わりかけの坂を抜けて上り終わると、仰々しい門の前にたどり着いた。


「陰の国の隠密、輪廻が帰ったと嬢王にお伝えください。加えて、旅の商人との謁見を求めます」


 武者のような甲冑を着た城の門番は目配せをした後、城の中に入って行った。


 まもなくして使いの者が現れた。


「お帰りなさいませ、輪廻様」


 ミニでタイトなスカートに紫の紋様の描かれた太股が露出している女性が現れた。ノースリーブの肩にも紫の紋様が描かれ、黒装束。背中には刀らしきものが背負われており、黒髪は結んでいる。

 すらりとした背の高い美人。


「私は嬢王に使える者、封魔です。ただいまご案内いたします」


 そう言って封魔は俺たちについてくるように促した。


「りんね、っていうのはリンの本当の名前なのか?」


「? 違いますが。任務をする上でのコードネームです」


 怪訝な顔をしたリンを先頭に俺たちは城の奥深くへ入っていく。


「ウォルゲイトは陰の国に来たことがあるのか?」


「城に入るのは初めてだ。それよりお前、この国の言葉が分かるのか?」


「え? 言葉? ああ、そう言えば」


 俺はこの国の言葉が当たり前のように分かる。

 ウォルゲイトは変なものを見るような目でこちらを一瞥した。


 エリーシェは目を白黒させながら俺たちの後をついてくる。はぐれなければいいが。


「到着しました。これから嬢王に謁見して頂きますが、くれぐれも粗相のないように」


「わかってるって」


 軽口をたたく俺を無視して封魔は扉を開く。


 広い回廊。奥に部屋がありそうだが、黒い垂れ布で覆われており、うかがい知ることができない。


 ろうそくの光だけがぼんやりと幻想的な空間を照らしている。


 封魔の先導で進んでいき、垂れ布の前に一行は辿り着いた。


「嬢王様、隠密の輪廻と異国の商人様一行でございます」


 長い沈黙。


 しばらくしてから、ガサゴソと音がして垂れ幕の向こうから誰かの気配がしだした。


「ふあ~!」


 まるで少女のような、いわゆるすんごい萌えボイスであくびが響き渡った。


「寝ておったわ。退屈過ぎての」


 嬢王は垂れ幕の奥からそう言って、またあくびをした。


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