第32話 幽霊船長

 幽霊船の帆にはドクロのマークがあった。どうやら海賊船らしい。


「抵抗の意思はないことを伝えなくては。白兵戦でも勝ち目はない」


「振り切って逃げることはできないのか?」


「それが……水流があの船に向かって渦巻いていて、舵がとれない」


 ウォルゲイトは珍しく焦りの表情を浮かばせた。


 そうこうしているうちに船と船が接近し、ぶつかった。


「ご主人様、いざとなれば私は戦えます」


「いや、少し待て」


 梯子が欠けられると同時に、リンと俺とウォルゲイトが幽霊船に乗り込んだ。それをスケルトン兵が取り囲む。


「ウフワハハハハハハハ! こんなちっぽけな船で何しに来た、貴様ら!」


 海賊船長らしき男が現れた。ボロボロのコートを纏っているが、元は豪奢で上等なものだったらしい。顔には典型的な黒い眼帯。しかしその体は既に腐り落ちている。その左手には水の宝珠が握られている。ウロボロスから売られたものだろうか。それを使って海流を自由に操作していたのだろう。


「俺はウォルゲイト。ビアンコ商会の者だ。ここを通してもらおう」


「ならんならん。この海域は我々バルバロッサ海賊団の物だからだ。船長はこの俺、バルバロッサ!」


 スケルトン兵がケタケタ笑い声をあげる。リンが短剣に手をかけるが俺はそれを制する。


「何を望む。アンデットの海賊よ」


「そりゃ決まっている」


 バルバロッサは腐り落ちた口の端で歪に笑って見せる。


「男勝負だ」


 一瞬理解が追い付かず、皆沈黙する。スケルトン兵だけがやんややんやとはやし立ててはいるが。


「その男勝負って一体何なんだ?」


「男勝負とは、男と男の勝負。一対一の一騎打ちよ」


 俺の問いに自信満々に答えるバルバロッサ。要するに決闘か。なら俺の望むところだ。


「俺たちが勝てば、お前たちの積み荷を奪い、船を沈める。貴様らが勝てば、見逃してやろう」


「いいだろう。やってやるぜ」


 一歩前に出る俺をウォルゲイトが手で制する。


「本当に勝てるのか?」


「やるしかないだろう」


 シリンダーに弾を込め、銃口を相手に向ける。


「いい目だ。貴様、名を何という?」


「クレドだ」


「そうか、クレド。血沸き肉躍る勝負をしよう」


 バルバロッサがすらりと剣を抜いた。不思議な装飾のついた諸刃の剣だ。


「では行くぞ!」


 言うと同時にバルバロッサは剣から銃弾を発射してきた。


「くっ……」


 それは俺の肩口を掠めて飛んでいった。


 まさか、相手も飛び道具を使うとは。銃剣か。


「どうした、驚いたか!」


 相手は反時計回りに移動しながら銃を撃ってくる。俺もまた反時計回りに走りながら銃を撃つ。


 キィン!


 バルバロッサの持つ直剣が俺の撃った銃弾を弾いた。


「そこだっ!」


 次の射撃の準備をしている俺の方に奴が突っ込んでくる。


 ――マズい!


 接近戦では分が悪い。


『ディープフリーズ!』


 ゾンビ船長の片足が凍き、千切れた。片足だけになったバルバロッサは転倒する。


「貴様っ、魔法を使うとは!」


「どうだ、驚いたか?」


 俺のファイアブラストは既にLv10。クリーンヒットすればあいつの頭ぐらいは軽く吹っ飛ばせる。


『ファイアブラスト+ライトニングボルト!』


 雷を纏った銃弾がバルバロッサの右手を貫く。


「ぐああああっ!」


 バルバロッサの剣を持った片手が千切れる。加えて帯電しているため、濡れた体中にも痺れが走っただろう。これで銃弾も跳ね返せまい。


「じゃあな。どうせお前も不死とか言うんだろ? 木っ端みじんにしてやるぜ」


「ぬっ、卑怯な!」


「男勝負は楽しめたか?」


 真剣勝負に卑怯もクソもあるか。


 至近距離で放つ。衝撃波を纏った必殺の一撃。


『ファイアブラスト+ソニックディレクション!』


 幽霊船に風穴が空く。バルバロッサの体はボロボロ肉片になって海底に沈んでいった。


「退散するぞ、みんな!」


 ウォルゲイトは水の宝珠を手にし、既にビエント号に渡っている。リンはその後ろからスケルトン兵を双短剣で蹴散らしていた。


 衝撃波を纏った弾丸でスケルトン兵を蹴散らす。その隙にビエント号の甲板に飛び乗る。


「ウォルゲイト! やってくれ!」


「了解した!」


 水の宝珠が使われ、幽霊船が海底の奥底に引きずり込まれていく。スケルトン兵も同様に、沈んでいく。


 こんなところに水の宝珠があったのは僥倖だった。これで、航路も安全になるだろう。貿易がしやすくなる。


 沈んでいく幽霊船を尻目にフリゲート船は進んでいく。

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