第30話 船旅の始まり

 ビアンコ商会との約束の日になった。


「よく来たな。魔晶石を今からビエント号に積み込むところだ」


 白装束の浅黒い肌の男、確かウォルゲイトというビアンコ商会の者が言った。


「いや、その必要はない」


「何だと?」


 俺はステータス画面を操作すると、魔晶石の入った箱をアイテムボックスに全て放り込んだ。


「どういうことだ、これは」


「大丈夫。魔晶石は全て、アイテムボックスに入っているから」


 入っているのは、炎の魔晶石、水の魔晶石、氷の魔晶石、光の魔晶石……といったところか。


「まあ、最初の貿易だから、このくらいの方が」


「貴様っ、魔晶石をどこへやった?」


 ウォルゲイトが動揺して胸倉をつかんでくる。


「まあ、待てって。魔晶石は全て、俺の持つ魔道具の中に存在している」


「魔道具……だと?」


「また出してやるから安心しろ。だから、現地へ着くまでは、俺を運ぶことが魔晶石を運ぶことになる。うっかり海にでも落としてみろ。全て台無しだぜ?」


「…………」


 ウォルゲイトは半信半疑の目で俺を見た後、


「わかった」


 とだけ言った。


「船員は最小限でいい。魔晶石の積み込みも無しだ。すぐに出発するぞ!」


 どうやらウォルゲイトが船長らしい。ビアンコの爺さんはさすがに来ないだろう。


「私、初めて海に出るの、ワクワクします」


「そうか、エリーシェは初めてだったな」


 ルーナの家に居ろと言ったのに、ここへ来ると言って聞かなかったエリーシェ。少しでも俺と一緒に居たい……らしい。


 白いワンピースを着て潮風に裾をはためかせている。帽子が飛ばされないか心配だ。


「護衛はお任せください」


「ああ、頼りにしてるぜ」


 リンは忠誠心が高く戦闘力もある。頼れる仲間だ。おまけに献身的だし、夜の営みにも積極的ではある。

 いや、まだそんなに本格的な行為には及んではいないが。


「ご主人様?」


「いや……さあ、船に乗り込むぞ」


 そうして、俺たちの船旅は始まった。


 船室は一等船室を与えられた。氷の魔晶石で冷気を供給できるので、食べ物も腐らないし火の魔晶石で料理もできる。

 照明は全て、光の魔晶石を使って照らしている。


 古いとか言っといて、割と快適じゃないか、この船。


 船室にはダブルベッドが一つ置かれている。貴族でも泊まる場所なのだろうか。


「ご主人様、ここはひとまず休んで、英気を養う時かと」


「ん? ああ、そうだな」


 ゴロンとダブルベッドに横になる。柔らかくて弾力がある。

 その上に、リンが馬乗りになってくる。


「おいおい、どういうつもりだ?」


「ご主人様はどうして、私を抱いてくださらないのですか?」



「抱く……えっ?」


 リンが熱っぽい目で俺を見る。


「奴隷を抱くのは、主人として当たり前のことではないのですか?」


「そりゃ、お前はまだ15歳だしな」


「私の魅力が足りないと、そう言いたいのですか?」


「いや、そうじゃないが」


 リンは俺の耳を甘嚙みして吐息を吹きかけてきた。くすぐったいからそういうのはやめてほしい。


「あ、あの!」


 船室の扉が開かれてエリーシェがカゴにフルーツを入れて入って来た。


「これ、あるんですけど……何してたんですか?」


「エリーシェ、いや、何もしてない」


 俺は体を起こす。しかし、その脇にリンが抱き着いてくる。


「クレドさん、どうして……私がいない間に奴隷を作って……きっとあんなことやこんなことを……」


 エリーシェはフルーツバスケットを取り落として両手を顔に当てた。


「ルーナさんから聞きました。奴隷と主人は、言うに言われぬふしだらな行為を平然と行うって……」


 何を吹き込んだんだ、あの女。仕返しのつもりか。


「エリーシェ、俺とリンはまだ何もしてない」


「まだ!?」


 エリーシェはベッドに飛び乗って、俺に抱き着いてくる。


「じゃあ私が、私が先にやります! クレドさんの初めての女に……」


 そう言って彼女はワンピースを脱ぎ始めた。


「では、私も」


 そう言ってリンもマントと服を脱ぎ始めた。


 もう収拾がつかない。俺はどちらを選べば――!?


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