第18話 這い上がるために

 ロックスにやられた背中の傷、そしてジンクにやられた足の傷、アルカードにやられたとどめの一撃。


 体中が痛む。しかし瀕死の状態。身体が動かないだけだ。ポーションも使えない。

 誰かが、回復薬を使ってくれればまだ立てる。しかし、俺にはもう仲間がいない。


 エリーシェの顔を思い出す。愛らしい、くりっとした目の、華奢で小柄な少女。守ってあげたい、あの笑顔。


 エリーシェと行動を共にしていればよかった。そうすれば、こんな目に合わずに済んだ。エリーシェをないがしろにして、一人で冒険者稼業だと言って、上を目指そうと行動していたら罰が当たった。


 顔向けできない。エリーシェにも、ルーナにも。何てザマだ。


 ハルピュイアに使った5発の弾丸。残り、一発残っている。最後の力を振り絞って、自分のこめかみを撃ち抜けば、死ぬことができるかもしれない。


 しかし、ここで死んでいいのか。負けたまま、終わっていいのか。エリーは、俺が二度と帰って来なかったら、何と思うだろう。


 これじゃ、前世と同じ、惨めな負け犬だ。この世界でも、俺は成功できない。素晴らしい装備を与えられても、同じこと。


 ちくしょう、ちくしょう……。


 這い上がりたい。どんなにどん底に落とされても、上に登りたい。欲しいものを手に入れたい。


 でないと、部屋に引きこもって、ネトゲをしながら人生を諦めていたあの頃と同じになってしまうから。


 ――立ち上がる。


 ボロボロになった体で、傷だらけにされ血がにじむ顔を拭って立ち上がる。


 ステータス画面からポーションを出し、一気に飲み干した。


 大回復薬。なけなしの一本を飲み干す。体中の傷が癒えていく。だが、心の傷は癒えない。パーティメンバーに裏切られたという事実は変わらない。


 ふと、背後を振り返る。


 禍々しい門が開かれている。


 その中から何か蠢くものが出てこようとしている。


 何だ、一体。


 その闇に目を凝らす。


 そこから、大量のレッサーデビルが湧き出てきた。


「くっ……」


 一撃じゃ倒し切れないくらいにレッサーデビルは湧き出てくる。


 ひとまず逃げ、階段を駆け上がり、第三層に上がる。


『ファイアブラスト+ソニックディレクション』


 衝撃波を纏った弾丸がレッサーデビルの集団を薙ぎ払う。


 それでも、全ては倒し切れない。


 逃げるしかない。


 全力で地上まで疾走する。こんな時はブラックブーツが頼りだ。


「クソッ!」


 噛みついてきたレッサーデビルをファイアブラストで薙ぎ払う。


 駄目だ、完全に囲まれている。


 ブラックハットの潜伏スキルを発動させる。


 こいつで何とか、凌ぐしかない。


 魔晶石弾を6発リロードし、レッサーデビルの集団に一撃一撃ぶち込んでいく。


 爆散する魔晶石弾はかなり役に立った。爆風がレッサーデビルの集団を巻き込んでまとめて倒してくれる。


「はあ、はあ……」


 命からがら地上にたどり着いた。

 自分の分のリザードは既に無く、そこでも殺意が湧いた。


 歩いて、ディバンに帰るしかない。


 水を多めに持ってきたとはいえ、それはつらい道のりだった。

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