第17話 裏切り

『グラビティメイズ』


 ミザリーの手から黒い星のようなとげとげした物体が複数現れ、空中に展開される。しかし、敵はそこからすり抜けるように飛び回る。


「こうやってすり抜けるものだから、動きを捉えられないのよ」


「かと言って近距離戦型の私たちではどうにも、ね」


 そう言ってアルカードは肩をすくめる。


「そうか。じゃあ、いくぜ」


 俺はブラックリボルバーを構えると、一匹に向かって狙いを定め、引き金を引いた。


『ファイアブラスト!』


「ビィッ!」


 ハルピュイアに銃弾が直撃し、落下する。


「もう一回!」


 銃声を響かせながらハルピュイアを一体ずつ撃ち落としていく。


 落下したハルピュイアをアルカード、ジンク、ロックスが袋叩きにする。


 あっという間に敵は全て倒された。


「こんなにうまくいくとはな。今まで苦戦していたのが嘘のようだ」


「何、儂らが本気を出せばこんなものだ」


 アルカードとロックスが好き勝手言っているが、俺の銃があったから倒せたという事実を忘れてはいないか。


 宝箱やドロップ品などもたんまり手に入ったし、ここで帰ってもいいんだがな。


 ミザリーが何やら石板に手を当てて唱えている。


「何をしているんだ?」


「この下に部屋があるの。そこには、素晴らしいお宝が眠っているのよ」


 石板に魔力を充填している。同時に石の床が少しずつ開き出した。


「さあ、幻の第四層への到達だ」


 アルカードが息巻いている。嫌な予感がするのは俺だけだろうか。


 先には階段があり、第四層にたどり着くと、辺りはぼうっとした光に満たされている。


 四方向に光る玉がある。それぞれ、黄、青、赤、緑。その奥に、金の宝箱がある。


「あったぞ。四属性の宝珠だ」

 

 アルカードがその一つに触れる。同時に轟音が鳴り響き、奥の禍々しい門が開かれる。


「おい、何かヤバくないか? その宝珠を元に……」


 そこで、違和感に気づいた。自分の体が動かない。


 何――だ?


 周囲に浮く黒いとげとげの星。これは、ミザリーの……。


「あなたは動かないで」


「どういうことだ」


 魔法『グラビティメイズ』の効果で体は全く動かない。銃を抜くことすらできない。


「こういうことだ!」


 ロックスが背後から斬りかかってくる。雷撃を込めた一撃。身体が麻痺する。


「がはっ!」


 グラビティメイズの効果が切れ、床に倒れ込み、吐血する。


「宝珠と宝物は4つ、僕らは5人、意味は分かるよね?」


 続いて、影からの攻撃が体を切り刻む。ジンクが容赦ない追撃を加える。


「お、ま、えら……裏切ったな」


「もともと君は大した活躍はしていなかったよね」


「ハルピュイアを倒せたのは誰のおかげだと……」


「うるさいなあ。君はもう用済みなんだよ!」


 アルカードが鋭い爪で俺の体を切り裂く。そのダメージがもろに入る。


 魔力、魔法攻撃と敏捷にステータスを振り、防御、魔法防御、体力にステータスを振っていなかったことがあだになった。動きを封じられ、近距離攻撃を受け続ければ、容易くやられる。


「さあて、邪魔者はここに置いて、俺たちは退散するとしよう」


「奪うものは奪ってな、がははっ!」


 アルカードとロックスが宝珠と宝物を物色する。


「ごめんね、悪く思わないでね」


「最初からこのつもりで近づいたのか」


「アルカードの指示なの。本当に、ごめんなさいね」


 ミザリーも俺を見捨てた。裏切った。最初からそのつもりで、俺を誘い出し、利用した。


「僕は君のこと殺しても良かったんだけど、まあ……」


 ニヒルな笑いを向けるジンク。こいつは一体何なんだ。


「どうせ死ぬことになるからね」


 その死んだ目は俺を救う気がないことだけはわかる。


「みんな、持つものを持ったら行くぞ!」


「がっはは、これで大金持ちだ!」


「フフフ、退散ね」


「じゃあ、呪うなら君の不運を呪いなよ」


 そう言って皆、去っていく。傷だらけの俺を残して。


 ふざけるな。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!


 宝物が4つだったから? 俺が新入りだから? だから皆で口裏を合わせて、一方的に攻撃して放置していくっていうのか?


 クソだ、こいつら、俺のことを何とも思っちゃいない。


 復讐してやる。必ず生き延びて、お前らみんな、地獄に叩き落としてやる!


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