第19話 奪われた宝珠

 思えば、自分から誰かに話しかけるのが苦手だった。

 そしていつも一人になる。子供時代も、学生時代も、無職になってからも。


 友達を作らないんじゃない。友達の作り方が分からないんだ。


 そして、孤独はやって来る。



 視界を刺す強い日差し、カラカラに乾いた広大な砂漠。

 いつしか倒れていたようだ。誰も助けは来ない。


 眠い……。


 夜になってしまえばここは温度が下がり、極寒の土地になるだろう。その前にディバンにたどり着かなければ、命が危うい。


「くっ……」


 体力が底をつき、倒れたまま動けない。嫌な記憶ばかりが呼び起こされ、意識がもうろうとする。


 もう駄目だ……もう……。


 意識が遠のいていく。



 普通に暮らし、普通に就職し、普通に結婚し、普通に子供を作り、普通に死んでいく、普通の人生。

 どこからか間違えてしまった。社会のレールから外れてしまった。

 そしてただただ、どこか生きづらい。


 そんな世界から、解放されたと思っていた。


 でも、この世界でも、結局、うまく行かないじゃないか……。



 振動を感じる。俺はリザードの上に乗っていた。


「気づいたか?」


 リザードに括りつけられ輸送されている。話しかけてきた男が手綱を握っている。


「俺は、一体……」


「砂漠で倒れていたからな。このリザードはディバンまで行くところだ。そこで降ろしてやる」


「何で、助けてくれたんだ?」


「行き倒れの人間を見捨てると寝覚めが悪い」


 男の後姿が見えるが、顔は見えない。白い外套に身を包んだ男だ。


「あんたは何者なんだ?」


「俺は、ビアンコ商会の者だ。掘り出し物を持って来いとビアンコさんに言われ、遺跡へ行き、その帰りだ。もっとも、かなり荒らされていたがな。何か心当たりはないか?」


 無いと言えば嘘になる。4つの宝珠を奪い、禍々しい門を開いてしまったのだから。


「ビアンコさんと話したい。連れて行ってくれないか」


「元々そのつもりだ。仮面の兄さん」


 男はこちらを振り向かずに手綱を握っている。リザードが速度を増した気がした。



「よく来たのう、会うのは二度目かな? 仮面のクレド、と呼ばれておるそうじゃな」


 ディバンに着き、ビアンコ古物商店に着いた。俺はそこで仲間に裏切られ、宝珠を奪われたことをビアンコの爺さんに話した。


「なるほど、それは大変な目に合ったのう」


 俺を運んできた男は既にどこかへ行ってしまった。ビアンコとソファに座りながら対談する。


「あの宝珠は一体何なんだ? どうして門から魔物があふれ出したんだ?」


「その門は、魔界門と言ってのう、魔界と繋がっているんじゃ」


「魔界と繋がっている?」


 だから、レッサーデビルが大量に発生していたのか。


「その4つの宝珠は魔界を封印するもので、封印が解けたとなると、魔王軍が攻めてくる恐れがある」


「そんな重要なことを、あいつらは知らなかったって言うのか」


「まあ、宝珠自体は高値で売れるじゃろうよ。付属の宝物も、どれも貴重なものじゃ」


「早く宝珠を取り戻さないと、大変なことになる」


「もう売りさばかれておろう。それに、今のお前さんに取り戻す力があるかな?」


 確かに、今の俺では力が足りない。第一、奴らが何をしでかすつもりなのかもわからない。


「まあ、じっくり考えることじゃな。お前さんは悪くはない。騙されて嵌められただけじゃ」


 ビアンコ骨董品店で、遺跡で得たアイテムを売りさばくと、結構な値段になった。この金で商人にでもなるのも手だ。しかし、それでいいのだろうか。それだけでは、足りない。


 あいつらに、俺を裏切った奴らに復讐する。それが目的なのだから。

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