第13話 初デート!?

「まずは商業区を回るか」


「そうですね。いろいろ買うなら、この辺りが良さそうです」


「あ、ついでにあのダンデの親父のところに行ってみるか」


 確か鉛弾を注文していたんだった。


「こんにちは」


 店に入り、奥を伺う。


「いらっしゃい。ん? 誰だ?」


 ダンデは仮面をつけた俺の顔を見て首を傾げた。


「おう、黒づくめの兄ちゃんと、金髪の嬢ちゃんか!」


 そして、やっと合点がいったとばかりに頷いた。


「頼んでいた品はできてる?」


「おう、早くできあがったぜ」


 そう言ってダンデは鉛弾200発を店の奥から箱で取り出してきた。


「あと、これはサービスだ」


 それは弾の先に結晶がついた弾丸だった。


「これは?」


「題して魔晶石弾だ。弾頭が魔晶石になっている。敵にぶち当たると炸裂するぜ。6発おまけしとく」


「ありがとう、助かるよ」


「あいよ、今後ともごひいきに」


 別れを告げて店を出た。袋の中に弾がわんさか入っている。


「次はどこへ行きますか?」


「冒険者ギルドかな」


「もう、戦うことばっかり」


「俺も冒険者として一旗揚げたいからな」


 そう言って冒険者ギルドに入る。エリーシェは不服そうだ。


「いらっしゃいませえ。冒険者の方はステータスカードをご提示くださぁい」


 相変わらず間延びした声の受付のお姉さんにステータスカードを提示する。


「え? これって……」


 しまった、と思った。今の俺はエリーシェをさらって牢から脱獄したお尋ね者だ。ここで素性がバレるのはまずい。


「少々お待ちください。上の者に問い合わせますので」


「待て」


 俺は受付嬢の腕をがっしりと掴んだ。


「ひいい、何ですかあ?」


「俺のことは秘密にしろ。ギルド協会には報告するな」


「ひいい、脅しになんて屈しません」


「お前がクエストの手数料をピンハネしていることをバラしてやってもいいんだぜ、イコーヌさん」


「え? どうしてそれを……」


 情報屋のリックから聞いた話だ。まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。


「図星ってことだな」


「ひいい、私はどうすれば……」


「俺のことを見過ごすだけでいい。衛兵が来たらすぐに裏切りとみなす。お前も路頭に迷うだろうな」


「わ、わかりましたあ……」


「じゃあ、このビッグベア狩りのクエストを一つ」


「これですねえ……」


 イコーヌは意気消沈した様子で仕事に取り掛かった。手続きが済むと同時に、俺はエリーシェと一緒にギルド協会を出た。



 俺とエリーシェは中央の広場でのんびりしている。陽光の差し込むいい日和だ。


「何か、買ってこようか」


「お願いします」


ハムとレタスの挟んであるサンドイッチを買ってくると、エリーシェに手渡した。


「私、こういうの初めてで、すごく楽しいです」


「それは良かった」


「お父さんは、お出かけなんて、滅多にさせてくれませんでしたから」


「エリーシェが働いていたんだっけ」


「はい。お父さんはお母さんが出て言って以来、仕事をやめて飲んだくれていたので……私が酒代を稼ぐことに。草原で花を摘んだり、森で実を摘んだりして売っていました」


 苦労が絶えないな。俺も前世では働いていなかったから、その父親については何とも言えないが。


 サンドイッチを食べ終わると、次の場所へ向かうために立ち上がる。



「ビアンコ古物商店……ね」


 最後に来たのはボロい異国風の鎧や怪しげな壺が並んだ骨董品店だった。


「誰もいないんでしょうか……」


「さあな」


 奥の方に入っていくと、そこには一人の小柄な白髪のお爺さんが、キャンバスに油絵を描いていた。


「あの」


「へ?」


 お爺さんは耳が遠いのか、聞き返してきた。


「この子に似合う服を探しているんだけど」


「あー、はいはい、お客さんじゃね。少々待っての」


 お爺さんは腰を曲げて立ち上がると、よろよろと案内し出した。


「わしはビアンコ。ここは古物商店と言っておるが、まあ何でも屋じゃよ。気軽に利用するといい」


 そう言ってビアンコは村娘風の衣装とフードを取り出した。


「こういうものでいいかの?」


 彼のふさふさの白眉の奥から瞳が覗いている。


「これがいいよな。なあ、エリーシェ」


「はい、これがいいです」


「じゃあ、決まりじゃの」


 ビアンコに銀貨を渡し、品物を受け取る。


「お前さん、珍しい装備をしとるのう」


 彼は俺の装備を見て興味を掻き立てられたようだった。


「まずその黒い帽子。ブラックハットは潜伏スキルのLv6が付与されておる。そして回避スキル+20%。敵に発見されにくければパーティ内でもターゲットにされにくい」


 鑑定眼だろうか。この帽子にそんな効果があったなんて知らなかった。


「ダークスーツ・防御力と魔法防御アップ、ダークシャツ・体力アップ、ブラックタイ・魔力アップ、ブラックブーツ・移動速度+50%。なかなかじゃな。それだけの装備なら冒険など簡単じゃろう」


 この老人、すごい。俺はホルスターから拳銃を取り出した。


「これは、どうですか?」


「ブラックリボルバー・魔法攻撃力アップ。レア度10。伝説級の魔法武器……お前さん、一体何者じゃ?」


 まさか異世界転生者だとは言えない。


「まあ、仮面を着けている時点で訳ありじゃろうて。そこのお嬢ちゃんも」


「わ、私は、その……」


 エリーシェは帽子の下に顔を隠してしまった。シャイな性格は治らないらしい。


「また何かあるとくると良い。何でも買い取るでの。適正価格で。ほっほっほ」


 ビアンコに別れを告げ、店を出る。これからの冒険の日々に、何か関係しそうな予感がする。


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