第11話 薬師試験

 体力が回復するまで、俺たちはプロスペラの家に匿ってもらっていた。もちろん金は払った。今の俺はお尋ね者なのでろくに外も出歩けない。


 そして数日が過ぎた。エリーシェの体調は良くなり、いよいよ薬師試験に挑む気になったようだ。


「まずは、メロウの森に行ってスターグラスを3個入手してきてもらうよ。それが弟子になる条件だね。レア度2の薬草だからすぐ見つかると思うんだけど……」


 ルーナはちょこんとソファに座り、足を組んでいる。


「俺も同行していいか?」


「いいよ。というか森に入るのは一人じゃ危なすぎるでしょ」


「私、やります。そして、薬師になって、プロスペラさんとクレドさんに認められるようになります」


 エリーシェは意気込んでそう言った。


「エプロンドレスね、かなり傷んでたから修復しておいたよ」


「あ、ありがとうございます」


 エリーシェはエプロンドレスを着込み、フードを被った。これで衛兵に見つかることもないだろう。


「君も、これつけな」


「え? 何だこれ」


 それは、白い仮面だった。目と口が三日月のように歪んで笑っている。


「ダークアイ・マスクって言ってね、暗闇でも物が見える優れものだよ。顔も隠せて一石二鳥」


「そんなものをもらっていいのか?」


「構わないけど、これから安い金でたくさん働いてもらうよ」


「…………」


 その仮面をつけると、視界は悪くなったが、特にそれ以外に不都合は無いようだ。


「じゃあ、さっそく行ってみてね。森のどこにスターグラスがあるかは自分たちで探すんだよ」


 そう言ってルーナは俺たちを放り出した。

 東のメロウの森は何度か行ったことがあるので、問題はないが。



「どこにあるんでしょう、そのスターグラスって」


「さあな、探索がてら、執念深く探すしかないだろう」


 残弾数はあまりない。強い魔物なんかが出て来なければいいが。


「クレドさん、これ、何でしょう」


 エリーシェが蔓のようなものを見つけて、立ち止まる。

それは木に絡みついてそこら中に伸び、道を塞いでいる。


「困ったな、これじゃ先に進めないぞ」


「そんな時のために、これを用意しました」


 彼女は籠から一本の鉈を取り出した。


「これで切っちゃいましょう」


「お前、何でそんなもの持ってんだよ……」


 エリーシェは、ばっすんばっすんと慣れない手つきで蔓を切っていく。


「えいっ! やあっ!」


 そこで、にゅるっ、と蔓が動いた気がした。


「おい、やめとけ! 離れろ!」


「えっ? きゃああっ!」


 エリーシェの足に蔓が絡みつく。そのまま上に引っ張っていき、彼女を逆さで宙吊り状態にする。


「きゃああっ!」


 エリーシェは鉈と籠を取り落とし、スカートを押さえてジタバタともがいている。


「くそっ!」


 俺は銃を取り出し、撃鉄を起こす。しかし、少し遅い。


「やめて、いやああああ!」


 蔓がエリーシェの体中に絡みつき、きつく縛り上げる。手首や胴体は縛られ、両足は強引に開かれ、パンツは見えてしまっている。


「見ないでください、クレドさん」


「んなこと言ったって、助けなきゃいけないだろ!」


 銃をぶっ放す。蔓の一つにヒットし、千切れるが、エリーシェを解放することはできない。


 茂みの奥の方から、本体の魔物が現れる。


 巨大なカニバルフラワー。人食いの花だ。このままではエリーシェが喰われて消化されてしまう。


 ファイアブラストで燃やすか? いや、エリーシェに火の手が回ったら困る。


 どうする? どうする? 思考を巡らすが何も行動できない。


「いや、助けて!」


 そうこうしているうちにエリーシェがカニバルフラワーに丸呑みにされる。

 最後までもがいていた彼女の姿が完全に見えなくなる。


「エリーシェ!」


 もう、駄目なのか。俺には何もできないのか。咄嗟の判断ができない。


 違う。こんなところで諦められるか。俺は、もう大切なものを、失いたくない!


 カニバルフラワーの花弁を狙う。固有スキル精密射撃。狙いを外すはずもない。


『ファイアブラスト+ソニックディレクション!』


 ほぼ同時に魔法を発動させる。鉛弾が発射され、それに風魔法の衝撃波が付与される。


 ギュオオオオオオオッ、と音を立てて空気を裂き、真一文字に飛んでいく弾丸。


 カニバルフラワーの花弁が、蔓が、バラバラに崩れ去る。文字通り風穴が空く。


 残骸が、地面に崩れ落ちた。


「エリーシェ! 大丈夫か!」


 魔物の残骸を拾った鉈で切り開きながら、エリーシェの姿を探す。


 消化液の中でぜえぜえと息をしている彼女を発見した。大丈夫だ、まだ息をしている。服は少し溶かされているが、体は溶かされていない。

 しかし、エプロンドレスや下着が溶かされたせいで大事なところをあまり隠せていない気がするのだが……。


「ん……クレドさん」


 エリーシェがまどろみから目覚めたようにとろんとした瞳で俺を見る。


「もう大丈夫だ」


 俺はエリーシェを抱えてその場を離れ、念のためファイアブラストでカニバルフラワーの残骸を燃やしておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る