後日談5『クリスマス大作戦5』

 






 ~12月24日 18:03~










 白い息が、聖夜の空に消えてゆく。


 俺の周りはライトアップされていて、幻想的な空間が広がっていた。


 さすがにソワソワする。


 さすがにソワソワするぞお!!


 明らかに自分が変なテンションになっているのは分かっている。


 何か意味もなく同じ所をウロウロしているし……。


 それに、腕時計を五秒間隔で見てしまう。


 うわっ、ちょっと待って。


 めっちゃ緊張するんだけど……!!


 死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!


 真顔で平静を装っているけど、心中はお祭り騒ぎ。




 すると。






「佐々木君! ごめん、ちょっと遅れちゃった……!!」




 遠くの方から七海が駆けてくるのが見えた。




「いや……、俺も……今来たところだよ。全然大丈夫大丈夫」




 平静を装え、俺!!


 集合場所、駅前の噴水広場。


 さすがはクリスマスイブ。俺らみたいな男女がわんさかいて、俺もその中の一人だと思うとこっぱずかしい。




「……ごめんね、ちょっと待って」




 少し走ってきたのか、前髪を気にして弄っている。


 別に俺はそんなの気にしないのに。


 改めて見てみると、普段とは異なりかなり気合いを入れて準備していることが伺える。




 モコモコのガーリーなアウターに、下は清楚なスカート。


 黒タイツで引き締められたまるでカモシカのよう。


 一年前よりも大分伸びた髪も、綺麗に編み込まれていて黒のヘアアクセサリーがライトアップの光に輝いていた。


 これは……、かなり可愛いな……。




「あっ、えっと……、服、似合っている……ヨ」




 裏返った!!


 声裏返ったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!




 ここは絶対に決めなければいけないところだったのにいいいいいいい!!!!




 しかし、声が裏返った事なんてなかったのように、七海はブラウンのマフラーに口を埋め「ありがと……」と恥ずかしそうに目線を逸らした。










 ……。




 ヤバい。


 これは……ヤバいぞ。




 何がヤバいって?


 もう……ヤバいんだ、色々と。




「……佐々木君」




「あっ、は、はいっ!!」




「えっと……、今日はどんな感じで……」




 ―――――来た。


 同郷のアホ三人から着想を得た俺のプラン。


 結局奴らのデートプランが参考になったかと言われれば、それは分からない。


 でも、無い頭絞って一生懸命に考えました!!






「あの……ちょっと、来て頂きたいところがありましてね……」




「……?」










 ***










「どうぞどうぞ……。大丈夫です。誰も居ませんので」




「えっ、あのちょっと待って……!! ここって……」




 もうね。


 小難しいことを考えるのを止めたわけですよ、私は。


 俺が出した結論、それは……。






「ここがです」






 もう……自宅に招いちゃえ!!!と言うことで、自宅です。


 事前に電気と暖房は付けておいたから、そこら辺の心配は大丈夫。


 人払いも既に済ませている。


 父さんも母さんも年甲斐もなく、テンションを上げて出かけてった。


 別に毎年のことだから、今更何とも思わないが、今年に限ってはありがたい。




「あの……、本当にいいの……?」




「あー全然いいよ。今の家主は俺です」




 ドンっと胸を叩くと、七海は少し安心した表情を見せた。












「……おじゃましまーす」




 借りてきた猫よろしく、キョロキョロと周りをみながら玄関のドアをくぐる七海。


 ほんのりと顔が上気してい理由は急に暖かいところにきたから、だけではないだろう。


 俺もなんだかんだ自分の生活空間を見られるのは恥ずかしい。




「広いね……!」




「……普通の一軒家だよ」




 苦笑いをしながらビクビクしている七海を連れてリビングに入る。




「そこのハンガー使っていいよ」




「うん、ありがと」




「……じゃあ、ちょっとするからソファとかで休んでて」




「準備……?」




 不思議な表情を浮かべている七海を横目にキッチンへ。


 大丈夫。


 は既に終えている。




 ~数分後~








「うわ……これ、全部佐々木君が作ったの!?」




 リビングのテーブルの上には、自分で言うのもなんだが、そこそこクオリティの高い料理の数々が並んでいた。


 サーモンのカルパッチョ、ローストチキン、トマトのスープ、ラザニア、etc……。




「……まぁ、最初は高めの店とか予約しようと思ったんだけどさ。落ち着かないかなぁと思いまして」




 しかし。


 結果的に《・》の方が落ち着かないか。


 いきなり家に連れてこられるなんて予想もしていなかっただろうし。




「家も家だよな、ごめん」




「……そんなことないよ!! の家って何か……嬉しいし」






「……!」






 はっははっははははははははははは!!!!!!!!!


 顔が死ぬほど熱くなっている。


 暖房が効きすぎているのかもしれない。






「……よし!! 食べようかぁ!!!」






 俺は、顔が紅くなっているのを誤魔化すように声を張り上げた。










 それから、俺が用意した夕食を食べ。




 七海が最近好きな韓国ドラマを一緒に見て。




 くだらないことについてお互い喋って。




 ―――――日付が変わる頃。










「……本当に、今日帰らなくてもいいのか?」




「……うん。ウチの親は佐々木君のこと、すごく信用しているから」




 それも謎だよな……。


 一回直接会ったことがあったけど、かなり感謝された。


 事実が曲解して伝わっているんじゃないのかと思うほど。


 でも、まぁ……良い印象を持たれているのは別に悪いことじゃない。




「……そっか」




「私も、帰りたくないし……」






 えぇ……。


 ちょっと待ってくれ。


 これは……ひょっとするか?


 雅の姉御から貰っていたを使うときが来るのか……!!?




「……佐々木君」




「ん? 何、どしたん??」




 我ながらわざとらしい。


 求めている。


 期待している。


 七海はきっと―――――拒まない。


 俺が進もうと思えば、きっと受け入れてくれる。






 でも、それでいいのか……?












「あれ……、雪?」




 不意に。


 七海は立ち上がり、俺の部屋のカーテンへと近づいていった。


 確かにレースの隙間からチラチラと白いモノが見える。




「……ニュースでも、寒くなるって言ってたからな」




 ボンヤリと外を眺めている七海。




「……ほい」




 ガラガラとドアを開けると、十二月の寒期が部屋に入り込んでくる。


 暖房で火照った体には丁度良い寒さ。




「……ねぇ、佐々木君。ベランダ出ていい?」




「いいけど……。サンダルどこだっけ」




 寒くなればベランダに出る気も起きなくなってしまう。


 それに伴ってサンダルも片付けているんだけど……お、あったあった。




 クローゼットの中に無造作に置かれているサンダルを二足取りだし、七海と外へと出た。




「……ありがと」




「……うん」




 二人でベランダの手すりに寄っかかり、しばしの静寂。


 ただ―――――静かだった。


 我が家がそこまで街中の住宅街の中にないのもある。


 周りを見ると、まだ電気の付いている家というのもかなり少ないように思われた。




「……静かだね」




「……そうだな」




「佐々木君」






「うん?」






「一つ、聞いてもいい?」








「いいよ」






「いつになったら、私を……として見てくれるの?」






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