Episode:10 海の見える露天風呂にて(お風呂/一緒に/ただし彼女の過去を添えて)⑤



「今からコイバナをします」


「19世紀、黒船が来航して少し経った日本で生きていたころ」


「まあ、そんな社会的なことは一切おかまいなしに」


「あたしは好きな男の人がいたんだ」


「不器用で全然しゃべらないけど、かっこよくてね」


「武家の生まれらしく、曲がったことが許せない人だった」


「あたしもその時、武家の生まれ」


「……んであの人より一回り下だから、ちょうどいいってことで許嫁になったの」


「まっすぐ生きるあの人のことが眩しくて、ほんと大好きだった」


「早く一緒に暮らしたいってそう思ってたの」


「この人となら幸せな人生を歩めるって」


「……だけど彼、急に死んじゃった」


「お役人さまと喧嘩したみたい」


「ある朝、彼の遺体が海に浮かんでるって聞いて、急いで見に行って……」


「そしたら……本当にあったの。かつて大好きだった人の、なれの果てが」


「あたし、海に飛び込んだ」


「他の人の制止をふりきって」


「まだ生きてるかもしれないって、意味も分からない嘘をついて」


「本当はただ死にたかったの」


「あの人がいない場所に意味はないと思って」


「今でも、着物がだんだんと水を含んで」


「重くなっていく感触を覚えてる」


「結局、沖に浮かぶ彼の遺体にぎりぎり手が触れるくらいで……」


「あたしもこぽりと息絶えた」


「でも幸せだった」


「結局、あの人と同じ場所に行けるんだから」


「……そして気が付いたら、あたしは波打ち際に横たわってた」


「この『ニライカナイ』の波打ち際にね」


//遠くで、波の音


「どうやらここは、望んで海に飲まれた人が、まれに不思議な波に流されて来るところみたい」


「今度はあんたの話を教えてよ」

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