Episode:9 海の見える露天風呂にて(お風呂/一緒に)④



//ゆっくりと湯船のお湯を自分に掛ける、ざぶーんという音


「どう、うち自慢のお風呂は?」


「『海も見えるし、最高』?」


「……ならよかった!


「あっ、そろそろサンセットの時間じゃん」


「水平線に太陽が沈みかかって、オレンジ色で綺麗だね~……」//しみじみしながら


「なんか久々にちゃんと見たかも……」


「あたしが、お風呂は朝に入る派なのもあるけどさ……」


「なんというか、いつでも見られる景色って蔑ろにしがちだよね」


「海と夕陽ってこんなにエモい組み合わせなんだ……」//しみじみしながら、ここまで


「……ってごめんごめん」


「あんたの身体も洗い終わったし、そろそろあたしは部屋に戻るよ」


「邪魔して悪かったね」


「えっ。『このまま一緒に見ないのか』って?」


「だってあたしがそばにいたら、あんたくつろげないでしょ」


「『さっきまで身体を洗われてたし、今更どうってことない』……?」


「それはそうかもしれないけどさ」//ちょっと笑いながら


「……あんたが言うなら、あたしもお風呂、一緒に入ろっかな」


「なに驚いた表情してんの?」


「あんたが言い出したことじゃない」


「それになによりお風呂場でつったったまま景色を見てたって、つまんないしさ」


「……あっ、ただし! あたしの身体、絶対に見ちゃだめだかんね?」


「神様の身体を見るなんて不敬だからね」//楽しそうに


「もし万が一、見ちゃったら……そうだなあ……」


「責任取ってあたしと同じ不老不死の身体になってもらって……」


「このニライカナイで、何も起こらない平和すぎる日常を一緒に過ごしてもらおっか!」


「なんて、冗談冗談。……今のところはね」


//しゅるりという衣擦れの音

//湯船に身体を入れる、ちゃぷんという音


「ふ~。極楽極楽♪」


「……って、ニライカナイも似たようなものだった! にゃはは」


「やっぱりここのお風呂はいいね」


「疲れは取れるし……夕陽は綺麗だし……」


「何より隣に、あんたがいるし?」//からかい口調で


「すっごく贅沢な感じがするよ~」


「……『お前に聞きたいことがある』? うん。いーよ。なんでもどうぞ」


「『ニライカナイに来る前はどこにいたのか、何をしていたのか』……だって?」


「おお~。あたしに迫る、そんな核心的な質問しちゃう? 別に構わないけど」


「……現世にある日本だよ」


「ただ、あたしは19世紀に生まれた人間だけどね」


「江戸時代末期……西洋の人たちが訪れ、いろんなことが目まぐるしく変わる頃……」


「あたしはそんな社会的なこと一切おかまいなしに……」


「ただ絶望していたの」


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