8.緊張

「それにしても、まさか電車で一本の所だったなんて」


 しばらく沈黙が場を支配していたが、彼女がその秩序を破った。


「そうだね。調べて出てきたときは、アイコンの絵と瓜二つで驚いたな」


「ね、よく描けてたでしょ?」


「そうだね。すごい」


 こちらにキラキラした目を向けた彼女の頭を、なるべく優しくなでる。


「でしょー? うふふ」


 彼女は、頬がとろけそうなほど緩めて笑う。でも、その目がなぜか笑っていなかったのは、多分今から行くところが自殺の名所だからなのだろう。


「あ、着いたね。色々話してるとあっという間だったね」


「そうだね。本当にずっと起きてた」


「そりゃ、ね」


 彼女に続いて電車を降りる。空気が変わったように、僕達は無言のままバスに乗車する。空席だらけだが、なんとなく二人とも座ろうという気にはならなかった。


「ここってICカード使えるかな」


「使えるよ、多分」


 彼女は自信たっぷりに答えた。


「よく知ってるね」


「まあ、調べたことがあるから、かな」


 誰もいないバスの中なのに、多くの目線が向けられているような感覚に陥る。


「……何も、聞かないんだね」


 精一杯つり革に手を伸ばしている彼女は、目線を窓の外に向けたまま話す。


「聞いてほしいの?」


「わかんない」


「だったら聞かない。話したかったら、そっちから話してよ」


「……」


 しまった。思わず突き放すような言い方を。


「話したくなったら、いつでも言ってくれていいからね」


 慌てて言い換える。


「……うん」


 彼女は暗い顔を下に向ける。

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